長い長い一日の果てに
かつて、精霊と取引をして、持てるだけの力は自由と引き換えにした。
だからあたしはこの世界の中で力はほとんど持ち合わせていないし、身を守るものは体ひとつだったため、体術を学んだ。
接近戦しか対応できないため、ひどく不利ではあるのだけど、それでもあたしにとっては一度手に入れた自由というかけがえのない喜びを手放すわけにはいかなかった。
地位も名誉も贅沢な生活だっていらない。
穏やかにただ、自分らしく過ごせる場所で余生を過ごしていきたかった。
誰も知らない土地を目指したものの、ひとりで生きていくということは残念ながらそんなに簡単なことではなく、シロンドの街にたどり着き、染物屋をしていた今の両親に拾われることとなった。
決して裕福な生活ではなかったのにあたしのことを受け入れてくれた彼らにはとても感謝をしている。
生活をともにしていく上で少しでも何か恩返しがしたいと思うようになり、かつてから得意としていた歌を歌うようになった。
驚いたことに、歌うことには少しばかり力(というには心もとないものだが)が残っていて、不安定な世の中で人々の笑顔を守れるのならと表舞台に立ち、歌い続けてきた。
スポットライトを浴びるのは嫌いじゃない。
だけど、これはあたしの生きる道ではない。
わかっていたけど、きっとあの街で生きていくにはああするしかなかったのだと思う。
可愛い女の子たちに囲まれることも増え、もちろんあたしにとっても嫌なことばかりではなく、いい思い出のほうが多かったのだけど。
それでも叶うことなら、あたしのことを知ることのない人たちの中でひっそりと生きていきたかった。
――――――――――――――
いつの間に眠ってしまったのだろうか。
気づいたら大きなベットの上にいて、月明かりを頼りに目が覚める。
たしか……ルイに城内を案内してもらって、婚約者のお姫様やこの国の王子、そして国王たちにまで挨拶に向かわされたのだ。
いやいや、さすがにいち護衛がやってきたくらいで大げさだろうと思ったけど、ルイの人柄や信頼性が物を言うのだろう。
誰もが疑うことなく(腹黒極悪王子くらいか)あたしのことを男だと信じ、受け入れてくれた。
あまりにものんきで大丈夫なのか、と思えることも多々あるものの、王子たちが時折口にする魔王の話はなかなか物騒で、ただごとではないことは理解できた。
これからどうなってしまうのだろうか……寝返りを打って窓側に背を向けても、こちらを照らす月の明かりにはかなわない。
叶うことなら舞台を降り、光のない世界を歩いていきたいというのに……しばらくはそうもいかないであろう。
はぁ、とため息をつき、目を閉じるといつの間にかまた、夢の世界への扉を開いていた。
深く深く沈んでいく。
とてもとても疲れていたのだろう。
長い長い一日だった。




