攻撃的な美貌を持つ男
「ははは、君も正常な反応で安心したよ」
大丈夫だよ、と言うルイに対して、こんな状態で何を言われても気休めにしかならないと絶句する。
再び王子四兄弟と第一王子の影武者である美少年と一緒に一室に閉じ込められ、これ以上にない居心地が悪い空間を共にすることとなった。
「人様を見て、こんな醜態を……心から詫びよう。しかしながら、なんて破壊力の高い美貌なのだろう」
言葉では何度でも言えよう。
しかしながらこんなにも言動が伴っていないこともないだろう。
情けなくも未だ足腰に力が入らず、ルイに支えられている状況であるため、説得力の欠片もないのだけど、見た目に対してこのような反応を見せてしまったことに対して申し訳ないと思う気持ちはしっかり持ち合わせている。
「ごめん……どう頑張ってもまだ足に力が入らない……」
「いや、一週間ほど寝込む人間もいるからそなたは軽症な方だ」
声を聞いただけでまたお尻から背中にかけてぞわぞわっと波が立ち上る。
「そうそう。兄上の素顔を見て腰を抜かしたくらいで済んだのは、ハーラルくらいじゃないかな」
「ハーラル?」
合いの王子に向き直ると、心ばかり体が楽になるのを感じる。
失礼が許されるのなら、しばらくここから目を離したくないくらいだ。
「ハーラルは、僕だよ」
金髪の美少年かつ影武者(ああもう、情報量が多い!)がこちらをすごい形相で睨み、立ち上がる。
下手をすると噛みつかれそうだ。
「ああ、君がハーラルか。お見苦しいところを見せたね」
影武者を必要としているのは間違いないと納得する。
ただそこにいるだけでこんなにも意識が遠のきそうなオーラを放つ人間など見たことがない。
御本人はもはや諦めているのか開き直っているのか人前に出る気はないようで、他の王子たちに比べてとても気軽な装いをしていた。緩やかな寝間着とも思える衣装に身を包み、整えてさえいない乱れた髪を片側に寄せている。……だけの行為が、どうしてこうも視線を外せないのか。
いつの間にか見つめてしまってハッとする。
何度も何度もその行為を繰り返した気がする。
「……まさに、傾国の美姫だな」
美しすぎる。
この美貌は国をも傾けそうだ。
「そなたもかなり美しいと思うぞ」
再び口を開いた第一王子にぞくっとする。
「……あなたに言われるとひどく不思議な心境だな」
瞳はとても真剣なため、本気なのだろうけど、言っている相手が相手だけに素直に喜べないのは気のせいか。
顔のいい男は嫌いだけど、この男はそんな話のレベルではない。
「アローデル様、こんなやつのこと気にしなくていいんですよ」
ひょこっと覗き込んできた美少年から発せられたと思えないほど棘のある言葉を向けられる。
恋人様にはずいぶん嫌われてしまったということか。
「ルイスがあまりにもご執心だったから気になっていたんだ」
「失望させてしまったのなら申し訳ない」
どんな話を聞いていたかは知らないが、恥ずかしい限りだ。
「先ほどの力は何だ?」
もう話さないでくれと思うも興味津々にこちらを向き、腰を下ろす第一王子に視界をグラグラさせながら必死の思いで口を開く。
「声の音で地を操ることができる」
「ほう」
この美貌を向けて、まさか尋問されているのではなかろうか……深くは考えられなくなり、隠していた訳では無いが聞かれたとおりに答えてしまう。
「あまり強くはないのだが、一瞬だけ動きを封じ込める効果はある」
「面白いな」
「エクテスは街でも負け知らずだったんですよ。普段は観客を魅了する歌姫で、夜はこのエクテスとしてひとりで街の治安を守っていて」
音の力も関係していたのは知らなかったけど、とルイもなぜか得意げにあとに続く。
「エクテスには後に説明しますが、わたしは近いうちに勇者と巫女を探しに行く予定です」
「そうか」
ルイの言うことは初耳ばかりだが、ここまで来たらもうどうにでもしてくれとさえ思えた。
「そなたこそが勇者なのではないかと思えてしまうな。どうだ?」
「残念ながらあたしは違うよ。一流の人間から武術は学んでいるから人並みに戦うことはできるが、その他はからきしダメだし、魔王が現れたところで立ち向かえるすべがないのは確かだ。第二王子と呼ばれるこのペテン師を守るなどという重役を与えられるに相応しい人物なのかどうかも疑問だ」
「そなたには、われわれにはない新しい光を感じる」
「……買いかぶり過ぎだ。そんなはずがない」
「そうだそうだ」
美少年の野次は雑音でしかないが、このまばゆい王子四兄弟を前に自身の何が優れているのか疑問にさえ思えてくる。
「弟たちはともかく、見た目以外にわたしにはこれと言って特技がないから、そなたが羨ましいくらいだ。そして、そなたの可能性を信じてみたいと思う」
いや、その美貌があれば十分だと思うが……と言いたかったがそんなことは言えず。
第二王子を頼むとだけ告げられ、第一王子の部屋をあとにすることになるのだった。
無念だったのは、結局最後までまともに歩くことができず、ルイに肩を借りることになったということだった。




