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人間凶器と白金色の天使

 まさに人間凶器かと思った。


 視線がすでに刃物のように鋭い。


 いや、鋭いのは視線だけではない。


 足さえ地についてくれたら捉えることは簡単にできるのだけど、人間凶器はそのことに気づいたのだろう。


 あえて重心を常に移動させ、想像できないタイミングでいきなり切り込んでくる。


「……っ」


 重い拳を受け止め、こんなのを受け続けたら身が持たないことを悟る。


 いくらこの人物が地に足をついていてもこの速さなら片足さえ捉えることは出来ないのだろうな、と思うも案の定すぐに足やら手がありとあらゆる方向から飛んでくるため、油断はできない。


 永遠と思えるほど繰り出された攻撃を受けとめることをあきらめ、避けることに徹し、タイミングを合わせてこちらも足技をかけるも止められる。


 結構体術に関しては自信があるのに、ことごとく得意技を食い止められ、反撃されかけている間に自然と口角も上がり始める。


「……はっ! やるじゃないか」


 思わず声が漏れた。


 こんな相手になかなか巡り会えた試しがない。


 フードの下から獣を思わせる青い瞳が光る。それは吸い込まれそうなほどとても深い。


 あれからどのくらい対峙しただろうか。 


 できれば延長線に持ち込みたくないのだけど、普通に向き合っているだけではどうにも決着がつきそうにないため、良い方法をとっさに考える。


 相手はそこまで考えていないのか、徐々に無心で打ち込んでくる速度と回数が増してくる。


 あまりこれは使いたくなかったけど、口を開き、独特の音を奏でる。


 今度ははっきり発音しないと聞こえないため、音を声に乗せた。


 ざわっという音がして、確信した。


 フードの主がとっさにがバランスを崩しかけたところへ再び拳を振り上げ、そこをめがけて勢いよく後ろから何かに絡みつけられた。


「まったく、見てられないわ」


 次から次へと本当になんだと後ろを振り返り、いつの間にかバルコニーのふちに今度は見目麗しい女性が立っていることに気がついた。


 あたしの腕に絡みついている何かは、どうやら彼女が操っているリボンのようだ。


 白金色のボブヘアーを揺らし、ミルクのように真っ白な肌に映える赤い口もとを緩め、彼女は笑っていた。


「まったくどいつもこいつも、使えないわね。おどきなさい。わたしが相手になるわ」


 かかとがツンと上がった黒いハイヒールを鳴らし、彼女が地に足をつける。


 その姿はまるで、羽を休めにこの場所に降り立った天使のように見えた。


「ああ、ここはどれたけの宝石を隠し持っているのやら……計り知れないね」


 楽しくなってくると同時にあたしの負けも確定した。


「まぁ、周りがあまりにも弱いからって戦意を喪失したとでも言うのかしら」


「アイリーン、ひっこめ……」


「あら、あなたではお相手にならないじゃないの」


 構えを解くと、とびきりの美女は鈴の音のような声で笑い、その後ろから苛立ちを含めたフードの男の低い声がした。


「もう戦う必要はないよ」


「え?」


 まさかのこんな場面で口論が始まりそうになったため、降参を告げるべく、両手を上げて見せる。


「女性と子どもには手を出さないと決めているんだ。特にあなたのような美しい女性は傷つけるという選択肢がゼロに等しい」


「まぁ、わたしを傷つけられるとでも思ってらっしゃるの?」


 面白いわね、と彼女は琥珀色の瞳を細めた。


 その近くをふわふわと飛ぶ存在には見覚えがある。


「気を悪くしたなら申し訳ない。そういうつもりで言ったわけではないんだ。今ここで貴方がたと争ったところで意味がないと判断したんだよ。もうこちらの戦闘能力は分かったと思うからね」


 夢中になってしまったのは自業自得ではあるが、さらってもらう(逃げる)機会を失ってしまったことだけは残念に思う。


「ご説明いただけるかしら」


「そちらにいらっしゃる腹黒極悪王子……いや、第四王子様に聞いていただいたほうが話は早いのではなかろうか」


「……さすがですね」


 拍手が聞こえ、振り返ると腹黒極悪王子その人が立っていて、先ほどとは打って変わって親しみのある表情を浮かべていた。


「アイリーン、グレイス、もういい。気づかれてしまったのなら仕方がない」


「はっ!」


 フードの男が一礼し、白金色の天使はつまらなさそうにあたしの腕に絡みつけていたリボンを自身のもとへ引き上げたところだった。


「大変失礼しました。彼らはわたしの護衛の騎士たちと術師です」


 腹黒極悪王子の後ろで、ルイが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているのが目に入った。





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