侵入者と偽りの騎士
そのとき、バルコニーの方から何かが弾け飛ぶような音が聞こえた。
「侵入者か」
「ああ、思ったよりも早かったな」
次から次へとなんなんだと嘆いている暇もなく、のんびりと構えた王子たちが音の先へ視線を向けたところだった。
「王子が全員勢ぞろいしたからね。来るとは思ったんだけど」
ルイも苦笑していて、先ほどまで結界がどうだこうだと深刻な表情を浮かべて話し合っていたくせに、こんなにも安々侵入者の侵入を許すなんてどれだけ脇の甘い警備体制なのかと目を疑わされる。
しかもこの王子たちと来たら、何かが起こるであろうと予測しているにも関わらず、誰ひとりとしてこの場に自身の護衛を連れず、のほほんと座っていて……このあとも侵入を許そうとしている様子だ。……あ!
「ルイス殿下」
「ん?」
ふと閃いて、呼びかけた先の男は正式名称で呼んだものだから驚いたのだろう。ルイが驚いたようにこちらに視線を向ける。
「ここは任せてください」
護衛はいない。
いや、いないわけではない。
たったひとり、第二王子の護衛としてここに遣わされたあたしがいる。
「でも、君ひとりだと危な……」
「誰に物を言ってるんだい」
もはやあたしの目は、次の獲物しか捕らえていない。
「時間は掛けません。みなさまはこのままお話をお続けください」
一礼をすると、王子たちが視線だけをこちらに向けた。
その試すような視線が気になったけど、ルイの「危なくなったらわたしも助けに行くからね」と言う言葉にカチンと来て、もう前しか見えなかった。
加勢しようではなく、助けに行こうだなんて、冗談じゃない。
五分、いや、一分で終わらせてやる。
さっと移動し、バルコニーを開け放つ。
先ほど合いの手か腹黒極悪かどちらかわからないが、呟いた言葉の通り、灰色のローブにフードを深くかぶった明らかに怪しい人影がバルコニーのふちに立っていた。
「やぁ、侵入者の諸君!」
後手でバルコニーを締め、彼らと目が合った途端、思わず嬉しくなる。
「わざわざ来ていただいて大変恐縮だが、これより先は一歩通さないよ」
「は、なんだこいつ……」
こんなにも警戒態勢がゆるゆるなことに驚いたのか、もしくはたったひとりしか護衛が出てこなったことに唖然としてしまったのか、非常に反応に困っているように見える。
「まぁいい、捕まえろ!」
「多分、こいつだ」
これまたわけのわからないことをつぶやきつつ、四人が四人ともそれぞれ構え始める。
どうやら強行突破でこちらに向かってくるつもりらしい。
「いいね。あたしはこの中にいるペテン師王子の護衛をしている。理不尽にもこんなわけのわからないところにつれてこられてすさまじくストレスがたまってるんだ。容赦なく対応させてもらおう」
後ろからルイの苦言した声が聞こえたようだったけど、そんなことはどうでもいい。
これはいいタイミングだ。
ほんの少し相手をしてやって、頃合いを見計らってこいつらに攫われたふりをして連れて行ってもらえないかとさえ思っている。
全員がバルコニーに足をついたことを確認し、ゆっくりと口を開く。
誰にも聞こえないように、小さく音を発する。
「えっ……なんだこれ……」
「動かねぇぞ!!」
さて、そろそろかな。
彼らが声を上げたところでゆっくり近づく。
「動いたら動いただけ、絡みつくだけだからあまり動かない方がいい」
悪いけど、一気に四人も相手にできないからね。順番に手合わせ願いたい。
「……と」
口を閉じると同時に彼らは次々とバランスを崩していく。
「ああ……」
思いっきり倒れ込んでいく彼らの姿を順番に眺め、がっかりする。
「あたしを連れ去らってほしかったのに……」
加減をし損ねてしまったようだ。
そんなに大袈裟に転げられると何もできないじゃないか。
「おっ、おまえ、何者なんだ!」
「何者も何も、あのペテン師王子の護衛だ」
二年間限りの、な。
言いかけたところで、後ろから気配もなく現れた影が突然後ろから蹴りかかってきたのが分かった。
かわすもギリギリで、あと一瞬でも遅れていたら大怪我では済まなかったと思う。
五番目のマントの主は、他の四人とは比べ物にならない隙のない構えでこちらを見ていた。




