王族に集められた一室で
続いて案内されたのは、広い一室だった。
あちらこちらと足を運び、もはや何を見せられても聞かされてももう驚かない自信があった。
こんなおかしな人間たちの集う王族のもと、街の人間たちは彼らを信じ、神のように崇め、過ごしているだなんて……想像しただけであたしの語彙力では追いつかないほど衝撃的な事態だった。
「エクテス、その格好は窮屈じゃないかい?」
「平気だ。たった一晩で準備をしてくれたとは思えないほどピッタリ合っている」
「それならよかった。うちには優秀なお針子さんが揃っているからね」
まるで自分の傑作と言わんばかりに鼻高々に言ってのける彼の言葉も一理ある。
先ほど鏡で見た自分は、凛々しい騎士そのものだった。
五フィート九インチの身長は女性の中でも高い方だけど、ここの男たちは違う。
ルイもあたしより頭半分くらい背は高いし、むさ苦しい男たちは山を思わせるほど大きく見えた。
小柄だと思われるのは癪だが、この衣装を身に着けていると彼らに劣ることなく、むしろ心なしか立派に見えた。
「感謝していると伝えてくれ」
背中まである明るいブラウンの髪はひとつにまとめていて、どこからどう見ても今のあたしは女には見えないはずだ。
「ルイ、このあとは誰に会うんだい?」
嫌な予感はしたが、考えることを放棄したかったのは事実だ。
コンコンコン、とノックする音が聞こえ、「どうぞ」とルイが声を掛けると彼らは颯爽と入室してきて、一瞬で辺りの景色を変えた。
「弟たちだよ」
げっ……王族……。
耳元でこっそりルイに告げられた時にはすでに遅く、嫌悪感たっぷりな表情を浮かべてしまっていたと思う。
「兄上、お待たせ致しました」
品のあるアッシュゴールドの髪に薄紫色の瞳。聞かなくてもわかった。
ルイと同じくらいこれでもかと言うほど光り輝き、綺羅びやかな出で立ちのふたりの男が文句のつけようのない完璧なしぐさで目の前の椅子に腰かける。
ああ、嫌だ嫌だ。
これだから顔のいい男は嫌いだ。
「こちら、エクテスだ。話しただろう」
ルイがこちらを指しながら紹介をしてくれたため、頭を下げる。
「エクテスと申します。本日よりルイス殿下の護衛を務めます。どうぞよろしくお願いします」
許されるものなら永遠に頭を下げていたいと願ってしまったのは、一気に彼らの視線を受けることとなったからだ。
「はじめまして、ジェームズだ」
「ヘイデンです」
いや……いやいやいや。
たかが騎士がひとり増えただけでこんなにも手厚く歓迎されても良いものかと困惑してしまうのは、ふたりの王子が立ち上がり、礼儀正しくも手を差し伸べてくるからだ。
彼らは第三王子と第四王子だという。
目のチカチカする光景を目の当たりにし、圧倒的嫌悪感を覚えつつも、必死に笑顔を作る。耐えろ……耐えろ……と、心の中で連呼する。そんなとき、
「……ああ、こんなところにも」
「えっ?」
「あ、いえ……失礼いたしました」
第四王子と握手を交わしたとき、ふわりのカモミールの香りが香ったため、もしや?と思ったのだけど、予想は当たっていたのだろう。彼のポケットから小さな妖精がひょこっと顔を出したところだった。
「愛らしい妖精がついてきてしまったようですね」
彼女たち妖精は話すことができないもののどんな特性を持っているかわからない。
彼がどんなつもりで妖精を連れているのかはわからないが、王子たちが勢揃いをして集まる会合のため、あたしを含む部外者をこうも簡単に入れても良いものなのかと疑問に思う。しかし、
「……妖精たちのいるところは幸せの象徴と言われてますから。幸先の良さを感じます」
失言に気づいてすぐに付け加えたのは、ルイを含む王子三人がそれぞれ瞳を見開き、驚いたようにこちらを見ていたからだ。
「エクテス、君は……妖精が見えるのかい?」
「………」
あ……と、思ったが、もう遅い。
「見えます。出生の地が北に近いので」
「そうだったのか」
隠しても仕方がないので正直に告げるとルイが感心したように表情を緩めた。
「でも、なぜヘイデンに」
「光栄なことですね」
ぽつりと漏らした第三王子王子に対してやんわり笑みを浮かべる第四王子は、やはりルイとよく似ているように思えた。
「兄上が直々に招き入れられた騎士というのでどのような方なのか気になっていましたが、聡明な女性で安心しました」
「えっ?」
第三王子が再び目を見開き、女性?と再びこちらを凝視してくるため、今度は言葉にせず、彼らの真似をして口角を上げてみせる。
自分だけが秘密を握られたわけではないと言いたいわけか。面白い。
「女性を見る目に関してはヘイデンに叶わないな……」
乙女を傷つける者は許さない。
この不敵な笑みを浮かべる男こそが、ルイの言うもうひとりのシルヴィアーナ様の婚約者なのだろう。……ああ、面白い。
顔のいい男は大がつくほど嫌いだけど、三者三様で面白い反応を見せ、ますます違和感しか感じさせられないこの王子たちのことはほんの少しだけ興味が湧いた。




