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狂気の中で

「感じる、私を探しているのね…」


リンは里を見渡せる山の中腹の大岩に居た。


隙無く何かを探す者達。それは一族総出で行なわれていた。


「そう…貴方達が母様を…やっぱりそうなのね。」


リンはただ確かめたかった。誰が母様を殺し、なぜ自分を探すのか。


だが暫し里の様子を見れば、その様な事は取るに足らない細事に思えた。


「種の分結。もう皆、銀狼では無いわ。」


銀狼族の誇りであった銀色の毛並みは黒鉄色に変わり、その目は真っ赤な狂気を宿していた。


「変わってしまったのは、私も同じね…。」


リンは純白に変化した自分の體を、感情の無い瞳でチラリと見る。


「兄様…姉様…貴方達が母様を手に掛けたのね。」


一際大きな體つきの長兄、細身ながら靱やかな動きの次女の右の手は、肘の辺りまで真赤な血で染まっている。


その血の繋がった実の兄弟達の姿を見て、リンが抱く想いは復讐では無かった。


「貴方達は、私を殺さずには居られないのね…。なんて…なんて哀れな生き物なのかしら。」


口から涎を垂らしながら、赤い瞳で必死に獲物を探す彼等は、既にリンとは同じ生き物では無くなっていた。


もうリンは隠れる事も無く、大岩の先端に立ち、誇りに満ちた声色で遠吠えをする。


それを聞いた長兄は、すぐさま怨嗟に満ちた遠吠えで返すと、黒鉄色の彼等はリンに向かって駆け出した。


リンは眼下に迫る彼等に一つ鼻を鳴らすと、悠々と山へと入って行く。


フワリフワリと、たんぽぽの綿毛が風に舞う様な動きのリン。


それを捉えようと飛び掛かる黒鉄の人狼達。

彼等の振るう鋭く長い爪は、小さなリンにカスリでもすれば、間違い無くその命を刈り取るであろう。


しかし、振るわれる爪は当たる事は無い。

それでも、狼の狩りは狂気の中でさえその本領を外れてはいないようだ。

次第に囲まれ、罠へと誘い込まれて行く。


そして遂に追い詰められたリンに、次女の爪が迫る。


「心に清き水を満たし…」


だが斬り裂かれるはずのリンの體を、次女の鋭い爪は幻でも斬ったかの様にスッとすり抜けた。


「水面は全てを映し返す」


爪を振るった次女は、肩口からその右手を落とされ、體中を刻まれて事切れた。


リンは、それには目もやらずにフワリフワリと舞い続け、やがて追っ手の半数程を返り討ちにすると、その場の景色に溶けるように姿を消したのであった。


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