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最終話 灰色の男

彼――会社員の男は、自宅のソファに座っていた

変わらない白の世界

それが突然、滲むように揺れた


リモコンは黒く

カーテンは黄色く

そしてスマホはグレー


その色が戻った瞬間

全身の毛穴が開くような、時間が逆流するような感動を受けた

棚の上のアルバムを取り出す

事故以来、手を触れていなかった

妻と子との記憶が、そこに残っている


海辺で笑う三人

公園のブランコで遊ぶ子

2人の結婚式の写真

「見返そうなんて思わなかったのに……」


眺めていると少しづつ色褪せて行く

背表紙が日に当たり白くなっていくように

「そんな……待ってくれ」

男の声もむなしく色は元に失われた


いや――男には灰色だけ見えるようになった

なぜ――

なぜ、この色だけ戻ったのか?

ページを閉じ、男は目を閉じた 思い出す

休日の昼下がり3人で出掛ける 衝突音 血の匂い 目の前で壊れていった世界

「なぜ灰色なんだ」

自分の指をこする

あの日の感触を忘れないように


「もし、あの時、もっと速く反応していたら? もし、事故を避けられたら? もし、何かが違っていたら?」


――


世界に色が戻ったあの日、老人の目は白いままだった

誰もが「美しい」と声をあげたその瞬間も、彼の視界に色はなかった


なぜ、自分は色が見えなかったのか

なぜ、自分に灰色が残っているのか

「……あれは、私の色ではなかったのかもしれん」


――


外に出ると、眩しいほどの白に包まれていた。

街並みも建物も、人々の服も、ほとんどが白くなった

白いアスファルトの上に、自分の影だけが灰色で伸びていた

彼にしか見えない【道しるべ】のように、はるか遠くまで続いている

不思議と、迷いはなかった

この灰色を辿った先にある場所は何となく分かった


しばらく歩くと、通りの先に見覚えのある光景が見えた

交差点

すべてが色を失った世界の中で、そこだけが確かに【灰色】を留めている

その交差点だけが、まるで記憶を拒絶するように色付いたままだった

通行止めにされ「調査中」と書かれた看板が置いてある


「……やはり、ここは……」

彼は立ち尽くす

あの日を越えなければ、きっと本当には前に進めない

だが、どうすれば――


――


「おじさん……【灰色の人】ですか?」

振り返ると、制服姿の高校生が立っていた

「おじいちゃんに聞きました 世界の色が戻る話、灰色のこと」

彼女の目には確かな光が宿っていた

それは、自分自身を信じようとする者の眼差しだった

「確かに言うなれば灰色の男になるけど……」

この少女には面識が無いし

自分だけが起こってる灰色が見える事を、なぜ他人が分かる

「おじいちゃん言ってました 【灰色の男】は、最後に世界を救うかもしれないって」


その言葉が、男の胸に静かな波紋を広げる

救うことなどできない、ただ過去の自分を受け入れ、前に進むこと

それだけが、灰色を超える唯一の方法だと、彼は理解しつつあった

「救うなんてことはできないよ ただ……もう一度、見たかっただけなんだ 色のある世界を そして灰色が残るここに、さよならを言いに来た」

少女は足元の灰色を指さした

「じゃあ行きましょう きっと、それが答えになる」


交差点にはあの日から変わらない「最後の色」が眠っていた


――


「色は心が決める 見たいと思ったら、きっと見える」

男は黙って、その言葉を受け取った

事故の記憶

妻と子が、命を落とした場所

色が戻らなかったのは――

自分が、そこに留まり続けていたからだ

「……俺が、世界を止めていたのかもしれないな」

男は、一歩、足を前に出した

封鎖された交差点の中へ


交差点の中央に立つ

景色が、揺れた


夕焼け空が色づく

電柱の影が黒く落ち、信号が青黄赤と灯っていく

色が――戻っていく

男の瞳に、世界がゆっくりと染まっていくのが映った

注意看板の黄

通行止めの赤

少女の制服の緑


男はふと空を見上げた

妻と子が、今でもどこかで見ていてくれる気がした

「……ありがとう 忘れた訳では無い」

その言葉が、ようやく自分の中であの日から解放された


空がひときわ明るくなった

世界は色を取り戻しつつあった


――




世界には

すべての色が戻ったわけではなかった

だが、人々は知った

色とは、ただの光ではないということを


ある地方の学校の壁に大きな絵として残された

「未来を生きる私たちへ

世界が白くなっても、心が色を思い出せば、また始められる――卒業生制作」


老人は、過去を生きた者として――

「色は、目ではなく、記憶と想いで見るものだ」と伝えた

少女は、未来を生きる者として――

絵に、言葉に、物語にして希望を失わなかった

灰色の男は――

かつて失った色の意味を自ら取り戻し

今を生きる者として――再び歩みを進める


未来を生きる子供達が

真っ白な世界を生きる事が無いように






作者メモ


完結させました

「させました」というのは

最終話書いたら1話3万字、という誰も読まない物になりダイエットしました

この小説で7話と8話(白 灰色)だけ投稿が遅かった主因です

編集してる間に暇つぶしで書いた新作30話が完結しました


・無理矢理な展開になりましたが

誰かの心の琴線に触れる作品となれば作者は踊り狂います

感想や★1くれると再び踊り狂います


後はチラ裏になってしまうため、詳細なあとがきは活動報告で書きます

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