緑が丘高校
朝の教室は
小学校の新学期のように賑やかだった
窓の外――緑が丘高校校庭の木々が白んでいる
今となっては【緑が丘】という名前すら皮肉みたいだ
まるで雪が積もったみたい
「うわ、なにこれ……雪じゃん」
クラスメイト達がはしゃいで写真を撮っている
―昨日からこの世界に緑色が消えた
「テレビ見た~? 海外で信号が見えなくなったやつ」
「日本だけ無事なのって、マジで意味不明だよね」
色が消えた日対策の校則プリントを、読まずにヒラヒラとしながら会話が盛り上がってる
静かに座っていた彼女は制服の胸元を見る
ブレザーに付いた校章
葉っぱのマークの真ん中に「緑」の漢字、今は真っ白になっていた
「はしゃいでばかりも居られない」
校章をクルクルといじりながら、昨日の考察の続きを考える
――
昨日
学校が終わり、帰りの通学路
パッと世界から緑が消えた
スマホを見ていたからあまり分からなかった
何だか周りがざわついたから
視線を上げると街路樹が真っ白になっていた
キレイだな~と思った後に
「えっ 緑色って危ないんじゃ」
道路を見ると……あれ?
周りの人も信号を見ながら止まってる
車の人達もつい止まってしまった
信号は「緑 白 白」で動いてる
「なんで……」
答える人が居ない疑問が白い唇から漏れ出て行く
とりあえず色が消えた日は危ないから、帰宅を慎重に急ぐ
道路沿いのカラオケボックスや外食チェーンからも続々と人が出てくる
4色目ともなると慣れたものだ
――色が消えた日は遊び歩かないで自宅に帰るのを優先する――
色が消えて行く世界で出来た新しい常識だ
感染症が流行っていた時期の『不気味な感じ』を思い出す
【次は何色が消える宝くじ】を当てた人達の歓声がそこかしこで聞こえる
――
家の玄関ドアを開ける
「ただいま~」
「おかえり~大丈夫だった?」
真っ白なエプロンを付けた母が玄関まで出てきた
元は何色だか、もはや覚えてない
服は真っ黒なので白黒で目がおかしくなりそうだ
「もう慣れてるから大丈夫だって」
母は再婚してから特に心配性に変わった
軽くあしらいながら、真っ白になった観葉植物の横を通りリビングに入る
――とりあえずTVが見たい
母も同じ事を思っていたようで、TVはニュースがついたままになってる
「……外国では大変な事になってますね」
日本も大変だろうと心の中でツッコミを入れたが、そういう事ではないらしい
「外国では信号の色が消え交通機関が完全にマヒしています」
「え……なんで……」
帰り道の信号はついてた
てっきり世界中で緑の信号は消えてないのだと思っていた
「……青だから」
小学校の頃の名物先生を思い出す
テレビからは持論を展開する胡散臭い人が話している
「一定の周期で色が消えており今は6月~最終的には1年で最後は白が~……」
――
小学校の国語の先生は、結構なおじいちゃん先生だった
脱線が長くて、授業が少なくて済むと一部の生徒に人気はあった
「昨日ある生徒に【青信号は緑色だ】と質問されました とても本質的で良い質問です」
あーたしかに
「日本では古くから赤の反対にある色を【青】と呼んでいました」
「日本に信号機が付いた時は、英語のグリーンライト 緑信号」
「しかし市民が青信号としか呼ばないため、法律的にも青信号と改められました」
へえ~と教室から声があがる
「みなさんも決められた言葉をただ覚えるのでは無く 日本語を愛して より良い日本語を覚えていって下さい」
――
机から校庭の雪景色を見ながら考えこむ
「日本だけ緑信号が消えなかったのは 日本人がそれを青だと思ってるから?」
他の国では緑色だから消えた
この辺まではテレビのコメンテーターも適当な事を言っていた
「それなら世界から色が消えてく現象は、日本人が基準で動いてるって事?」
ちょっとヤバイ核心部分に触れてしまった気がして、身体の中心がシビれた
「入院中のおじいちゃんなら、もっと詳しく分かるのかな」