黄色
「おい!あのトラ柄どこ行った コラ !」
備品をチェックすると無い事に気づく
「え?置きましたよ そこ……あれ?」
いつもの所にコーンは並んでいるが、様子が変だ
そこには白と黒がストライプになっている、葬式のようなコーンが並んでいた
しばらく呆然とするが不思議と既視感がある
「おい コレまさか1ヶ月前みたいに――」
葬式コーンが死を連想させて一瞬鳥肌が立った
備品置き場を出ると、外の空気が妙にざわついていた
いつもの騒がしさとは違う、落ち着かない空気
真っ白な重機
何も読めない注意書き看板
「注意 警告」
いつもなら見過ごすだけの文字たちが、今はただの無地
世の中から【気をつけろ】という表示がごっそり消えたのだ
道路では黄色だったはずの信号が白くなり、車の急ブレーキの音が響く
状況が分からず泣き出す子供
子供のランドセルについた黄色いカバーや帽子も――真っ白だった
「監督 どうしましょう」
「……作業中止だ 今日は仕事にならん」
作業前で良かった 現場で事故は起きていない
全員に伝えると、少し動揺はあったがすぐに静かになり帰り支度を始めた
それには理由がある
灰色が消えた日
あのときは混乱と事故が続いた
しかし国から支援金が出たおかげで、仕事としては成り立っていた
「あの日のように進めていたら、また事故になってたかもしれない」
怖さを感じながらも、作業員たちは落ち着いていた
支援金目当てに「また色、消えてくれねぇかな」と言うのが最近の定番だった
……その支援も、数日前で終わったけど
彼らは次の支給に期待して今日は飲みに行く人も居るだろう……白いビールを
――
俺は本社とのやりとりがあるため、現場に残った
1時間ほど事務作業したが、あまり意味は無かった
本社も当日対応などできるはずもなく「明日また連絡する」とのことだった
事務所から、白く主張しない標識の列を抜け現場から道路に出る
街中はいつもよりザワザワとしながらも、落ち着きは取り戻している
変わったのは、黄色信号を無理に突っ切る車がいなくなったことくらいか?
いつもより周囲を見ながら、ゆっくり歩く
現場の近くにある古い一軒家
「そうか、この現場はあの人の家の近くだったな」
俺がまだ見習いの頃、大工として初めて個人住宅を建てた家だ
依頼人は、どこかの学校教師だった
ヤンチャで教師に良い思い出が無い俺は、やる気のない態度で作業していた
「安全を軽視するとケガするぞ!」と怒鳴られ
当時の俺には説教臭くて反発しか湧かなかった
今なら少しだけ、あんたの言葉の重みがわかる気がする
大人になっても教師のような個人と接するのが嫌で、大手ゼネコンに転職した
効率重視の仕事の中で、また安全を軽く見ていたのかもしれない
老朽化しても、手入れがしっかりされた家を見ながら思考に沈む
「あの日怒鳴られた【気をつけろ】は、黄色そのものだったのかもしれない」