灰色
目を開けた瞬間、やけに部屋が明るく感じた
天井のシミ カーテンの影 毛布のシワ
真夏の日差しに照らされたように、くっきりと浮かび上がっている
「よく眠れたから調子が良い……にしては白過ぎるか?」
枕元のスマホを見る6:30
とりあえず起きよう
毛布を畳みながら、ふと違和感を覚える
「……スマホ……?」
もう一度スマホを見る ひっくり返して叩く
「……おかしい」
私のスマホはグレーのはずだ 真っ白になってる
「これはまずい 働きすぎて脳に来てるやつだ」
ショックを引きずったまま、無意識に足はリビングへ向かっていた
――
テレビをつけ ヤカンを火にかける
画面ではキャスターが何か騒いでいる
大事件か? 音量を三つ上げた
「……んば……に来ています ご覧下さい 東京都庁が一晩で真っ白になっています」
何を言ってるんだ イタズラ番組か?
画面を覗き込むと、確かに真っ白な都庁が見える
「世界から【灰色】が消えた事で、各所で混乱が起きています」
スタジオに戻され、真っ白なスーツを着たアナウンサーに切り替わる
「え~本日未明 世界から灰色が消失しており――」
チャンネルを変える
どれも同じような内容で、バラエティーとかでは無いらしい
【詳細は不明】と言う事しか情報も無い
テレビを消し、改めて部屋を見回す
「……なるほど ね」
灰色が白になっていたから明るく感じたのか
中間が無くなった世界は、全てが安物のCGのようにクッキリハッキリしている
「病気じゃなくて良かった」
灰色が消えて良かったと思ってるのは、世界で私だけかもしれない
――
玄関のドアを開けた瞬間 思わず目を細め太陽に手をかざす
「うわっ まだ1月だろ」
サングラスが欲しいほどの強烈な日差しにやられる
いやっ 日差しでは無く反射が眩しいのだ
アスファルトの道路 コンクリート 電柱
全てが真っ白に輝き、太陽の光を反射している
その中を走る車たちは、真っ白な影を引きずっている
まるで空を飛ぶ騙し絵のようだ
歩道には、周囲をキョロキョロ見回しながら歩く人が大勢いた
「こんな日でも ちゃんと仕事行くのが日本人だよな」
苦笑しながらも、そんな国民性を誇らしく思う
私もその一人になろうと歩き出す
交差点に来ると少し明るさが落ち着いた
「あーここは舗装が違うのか アスファルトの色のままだ」
家の前と違い少し濃い灰色
既に何人かが集まり人だかりとなっている
アスファルトを見に住民が集まるなんて
日本で初めてアスファルト道路が出来た時以来だろう
不思議な安心感を覚え道路にそっと触る
「……お前は変わらず頑張れよ」
ざらっとした、少し砂の混じった手触り
あの日のアスファルトの感触を思い出す
この交差点だけは
なぜか世界の変化に取り残されているようだった
――