眠れぬ獅子
色のついた地面はあたり前だが、さっきの光景を見た後だとほっとしてしまう。
だが、俺には着地手段がない。
ただ生存率がゼロというわけではない、昔見た海外のニュースで高度1500mから落下した男性が重症ではあるものの生還したという事例を見たことがあった。その時、男性が生き残れた理由として専門家は『落下地点が森そして、斜面だったこと』これが大きな要因だったらしい、そしてもう一つ男性の
『姿勢』だ。
俺はすぐにあの時のニュースの体勢を思い出し地面との衝突に構えた。
「ぐっ!」
頭は守り体の側面から着地することはできたが、何かが背中に刺さった。
「がっ、何だ...この...枝は...?」
俺は背中に刺さったであろう枝を抜き取ろうとしたが、
「待って!!」
当然の声に俺は驚き枝を抜こうとしていた手を止めた。
「抜いちゃ駄目だよ。この木は『宿人木』って言って枝に付いている棘にタネがあってそこから刺さった宿主に寄生しちゃうんだよ。」
「寄生されると...どう...なるんだ。」
そう聞くと女の子?は、少しニヤついて、
「寄生せれちゃうとお腹のあたりからジワジワと根が生えてきて、お腹を飛び出し後もどんどん大きくなっていて、最後には体の原型もわからなくなるくらいまで大きくなっちゃうんだって。」
俺は顔には出さなかったが、足はガタガタと震えてしまった。俺の恐怖を感じとったのか少女は少し笑ってから言った。
「大丈夫だよ。そりゃあ無理やり引っこ抜くと棘が返し状になっているからタネが体の中に入っちゃって寄生されちゃうけど、こうやって...ふん!」
「があ!?」
そう言うとこいつは俺に刺さっている枝をおもいっきり奥に突き刺し、強引に枝を刺さっている方と逆の脇腹から枝を押し出したのだ。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「そんなに喚かないでよ、あんまり痛くならないように一気にやってあげたじゃん。」
「なにも言わずにいきなり刺しこむなんて思うか!!クッッッソ痛え、どっち道この出血じゃ俺死ぬじゃねえ...か?」
俺は驚いた。血が微塵も出ていないことに、
「いきなり抜いたのは謝るけどそんなに怒鳴らなくてもいいじゃん」
この子の言葉から謝意の気持ちは伝わってきたがそれでもこの子の不思議がっている表情に俺は戸惑った。
「とりあえず『変幻』すれば?」
「は?、へんげんって何だ?」
「何言ってるの?だって君も『妖狐』でしょ?」
「ようこ?なんなんださっきからへんげんだのようこだのわけわからんこといいやがって!!」
俺は痛みや疲れが相まって、少しイライラしていた。だが次のこの子の言葉に俺は動揺を隠しきれなかった。
「じゃあその尻尾や耳は何だって言うんだよ?」
俺は自分の頭を摩った。すると何か柔らかいものに当たった。
「何だこれ!?」
「ん?何だ、まだ子供だったの?」
俺が驚いているとこの子はまた訳のわからないことを言ってきた。
「何言ってるんだ。キミのほうが俺より何歳も年下じゃないか。」
「何言ってるだ、私は年月で言ったらお前のその肉体年齢と同等かそれ以上だ。」
「じゃあ何でそんなに背も声も幼いんだ。多くても6歳とかの外見じゃないか。」
「それは私は変幻を村の中で一番上手く扱える神童だからね。」
この子、いや彼女は鼻高々に言ったがそれよりも、
「さっきから言っている変幻て何だ?」
「お前もさっきから18歳くらいの自分?に変幻してるじゃないか?」
「これは俺のありのままの姿だ。」
俺が凄んで言うと彼女はケタケタ笑いながら、
「お前w、その年になっても変幻について教わらなかったのかw?」
「うるさいな、わかないから教えてくれよ神童さんよ。」
彼女は笑い疲れたのか。俺のほうを見てこう言った。
「まあ親もいない妖狐も別段珍しくないし、教えてあげるよ。」
彼女は俺の腹の穴に手を突っ込んで来た。
「ぐぎゃはっはっは、何...してる...?」
「いや、口で言うよりもやって見せたほうが早いかなって。」
「いや...口で言ってもらうんで...いいから一回...ど、退けてくれないかなあああああああは!!」
俺が言い終える前に彼女は俺の腹の中に爪を立てやがった。
「うるっさいなあ、このまま穴開けっぱなしだと死にはしなくとも、獣や『人間』に見つかったら逃げられなくて一発アウトだよ。」
「人...間...?」
俺の掠れた問いは聞こえなかったのか彼女は続けた
「まあ、獣ならちょっと肉喰われてポイされるかもだけど、人間に捕まったらもう終わりだろうね...」
その時彼女の顔は少しだけ、悲しそうだった。
「じゃ、続き行きます〜よ。」
「ちょっと待っ...!」
「まず変幻とは本来は人間や獣に化ける時に使いますが今回は血肉に変幻しま〜す。」
丁寧だがやたらとバカにした口調が鼻につく。
『グシャ』
突然の出来事に俺は言葉が出なかった。
「まだお前は自分の体を自分で直せないから〜な。私の『腕』で代用するね。そういえば名前何だっけ?」
「ユリ...。」
「へ〜かわいい名前だな。私はレンスイていうの。みんなからはよくレンて呼ばれるからレンでもいいよ。」
そう言いながら彼女はさっき同じテンポで会話を続けていたが、俺はまだ状況を上手く飲み込んでいなかったらしい。ここはもう前いた世界ではない。少なくともこの世界はおそらく『死』というものが、前の世界よりも身直にあるのだろう。
「じゃ、私の腕をユリの腹に変幻させるからよく見といてね。」
レンスイの声で我に帰ると、俺はその工程に集中した。
「まずは、イメージ。腹のどこを直しどこを補わなければいけないのかを大雑把でいいからイメージして、一気に力をこめる。」
「グッ...!」
「そうすれば、だんだんと私の変幻した腕がユリの腹と結合していって。」
「はい、元通り。」
「ありがとう、レンスイ大体わかったよ。」
「どういたしまして。それよりもよく声出さなかったね、刺さった時の痛みなんかよりも直る時の痛みのほうが全然痛いのに。」
「もう前の世界じゃないからね。」
そう言うと俺は落下した時に受けた足の傷を治した
「うえ?飲み込み早すぎない。ていうかよく見たら色んなところに傷あるじゃん。ここじゃないしきれないし、村来なよ。」
そういうとレンスイは俺の手を引っ張って強引に村までエスコートした。この強引さに俺は懐かしさを感じた。
「ユリはどこから来たんだ?」
「俺は空から降って来た堕天さ。」
柄にもなく変なことを言ってしまった。凍てついた空気なるのが怖かったので、すぐに話しを戻そうとするとレンスイは反応して来た。
「へ〜だから普通は刺さるわけもない宿人木の枝が刺さっていたのか。」
「堕天は嘘だからね、間に受けないでよ。」
「あ〜わかってるよ。そんな嘘人間のガキくらいしか引っかからないだろ。でも空か堕ちてきたのは、本当だろう?」
「何で堕天は信じなくて、空から堕ちてきたのは信じるんだよ?」
「さっきも言ったけど、普通に生きてれば刺さらないはず宿人木に枝やられてたからだよ。」
「そういえば、よくこんなところに村があるよね。こんなおっかない木ある場所に。」
「多少この木が少ない場所で暮らしているが、この木も別に変に刺激したりしなきゃ普通の木と一緒さ。宿人木なんて言われているが、実際、人があの高さまで登って刺さりに行かなきゃ寄生されないからね。」
確かにこの木は上の枝こそものすごい数の棘だが、下の幹のほうには全く棘が生えていない。
「じゃあどうしてこの木はこんなにもたくさんあるんだ?」
「あれだよ」
そういうとレンスイは木の陰のほうを指さした。
「あれは鳥?」
「ああ、普通はああやって動物とかにさしてタネを寄生させるだよ」
「レンスイって以外と物知りだね。」
「お前が無知すぎるんだ。それとレンでいいよ長いし。」
「じゃあレンって呼ばせてもらうよ。」
「まあ言いやすいほうでいいよ。もうちょいで村につくよ、ほらあの崖を降っていけば...」
レンがいきなり走り出したが俺はなんとなく理由がわかった。
「臭い」
俺が崖の上から見た景色は、中学の頃に見た景色にそっくりだった。弱い者が淘汰され強い者に遜る。
唯一違う点があるとすれば、強者が直接、弱者を殺しいる点だった。




