純粋
小さな小さな森の中、色々な音が聞こえてきた、鳥の鳴き声、虫の鳴き声、草木のなびく音、ただそのほとんどは人の怒号や泣き声でかき消された。その人々の感情の渦の中で笑っている男の子がいた、その時僕はよく覚えていないけど、ただただ心地よかったことは覚えている。
『キーンーコーンーカーンーコーン』
「はーい、皆さん席に座ってくださーい」
「今日は教科書32ページから進めていきます。」
高三になって特に変わったことはない、みんな進路をどうするかとか、どこに就職するだとかについて話すことが多くなってきた。僕は適当にそれっぽい専門学校にAO入試で受けようと思っている。
「じゃあ〜ここわかる人、、、高橋さん」
「はい!」
彼女は工業高校では珍しく国立大学に進学するらしいどこの大学かは知らないがみんながすごいすごいと囃し立てているからある程度良い大学なんだろう。
「はい、高橋さん正解です。皆さん拍手〜。」
『パチパチパチパチ』
彼女とは特段仲良くもないが、クラスの皆が尊敬している三色美人な女性だから高一の頃はクラスに嫌悪されてしまうのではないかと思って心配していたが、意外にもみんなが良い人すぎて逆に怖くなって疑心暗鬼になっていた頃があった。ああいう子は真っ先に無視されるかイジメられるかの2択しかないと思っていたから、このクラスは安心できると同時に僕は不思議に思ってしまう。
『キーンーコーンーカーンーコーン』
「じいちゃんさっきの授業わかった?俺全然わかんなかったわ〜。」
「俺もわかんなすぎて後半ほとんど寝てたっすよw」
「何してんねんw最後の方問題難しかったけど多分高橋ぐらいしかわかんなかったんじゃね?」
「うわーまじかちゃんと起きとけばよかったわすわw。」
「次はちゃんと起きとけよ〜」
「次はちゃんと起きとくすよ」
「なあなあ高橋さっきの所......」
彼は小池田、クラスの中だと1番僕に話しかけてくる男子だ。彼も高橋さと同様に進学で体育学部のある大学に進学するつもりらしいもともと彼はバドミントン部に所属していてよくは知らないが、朝礼会などでよく何かの大会での賞をよくもらっていた、ちなみ彼が言った『じいちゃん』は僕のあだ名だ、経緯としては僕がまだ学校に通い初めてまもない頃、部活の練習試合がある高校までチャリでみんなでいく予定だったらしいけど暑いのがやなので誰にも知らせず親に車で送迎してもらったら案の定先生や先輩達が「あいつどこいった!?」ってなったらしくそのときいた子たちの間で『じいちゃん』と呼ばれるようになった。何でそれでじいちゃんになるのかと聞いたら『勝手に行動して意味不明な行動して怒られているから』だそうです。でもそれを悪意を込めて言っている子はほとんどいないので何となくスルーしていたらその名前が定着したらしく気づけばクラスで僕の名前を言ってくれる人は先生ぐらいになっていた。
「■■!」
そういえばもう一人僕の名前を呼んでくれる人がいた。
「どうしたの凪。」
「さっきの問題の所教えてくれない?」
「いいよ、でも後2分で休み時間終わっちゃうから次の休み時間でもいい?」
僕は少しニヤニヤしながら言った。
「さっきの時間の英語もそう言って教えてくれなかったじゃん。」
凪は子供みたいに頬を膨らませながら怒るから僕は笑ってしまった。
「ごめんごめんさっき小池田と話してたから行くタイミング失っちゃたんだよ。」
そう言うと凪は、
「じゃあ、今日の夜通話しながら勉強しようよ」
「えーー、僕今日溜まってたアニメ見ようと思ってたのに。」
僕が口をへの字にしながら言うと、
「たまにはいいじゃん、■■いつもお昼とか休み時間難しい本ばっか読んでスカしてるんだもん」
スカしてるは余計、と言おうと思ったけど気になったし聞いてみた。
「そういえば何で凪は僕の事あだ名で呼ばないの?」
「そっちのほうがいい?」
「いや、みんなあだ名で呼ぶのに凪だけは僕のこと名前で呼ぶから」
そう言うと凪は当たり前のように言った。
「だって■■ってじいちゃんって呼ばれると少し寂しそうな顔してるじゃん」
意識していなかったけど外からみると自分はそんなふうに見えていたのかと、少し反省した。
「でも■■って、人と会話するとき仮面かぶったみたいに表情がわかんなくなるときがあるから私ぐらいしかわかんないだろうけどね」
凪は自信満々にそんなこというから少し恥ずかしくなったけどそのときの凪の顔が少し切なく見えた。
「それにじいちゃんって少し悪口ぽく聞こえるから私嫌。」
「じゃあ凪が新しくあだ名をつけてよ」
そう言うと凪はお日様見たいな笑顔で、
「いいの!」
と言ったので可愛らしかった、
凪は少し考えた後言った。
「じゃあ、『ユリ』って言うのはどう?」
「ちょっと女の子っぽくない?」
「だって■■ってちょっと長いし無駄に気取ってるから、ユリのほうが■■にあってると思うけどなー。」
「後半は悪口じゃん、でもユリの花自体僕は好きだからそれでいいや。」
そう言うと凪は、嬉しそうに
「じゃあ、ユリは私たちだけの名前だね。」
ユリのように純粋無垢な笑顔に僕もつられて笑ってしまった。
「それにしても、全然先生こないね。」
「え?」
「ほら、もう3分ぐらいすぎてるのに全然来ないよ。」
たしかにおかしい、先生が来ないならまだしも、チャイムも鳴らない何て、おかしいと思い廊下を見て見ると、
「何だこれ....」
廊下に出ようと思いドアを開けると床がないのだ。
床の代わりに真っ黒い闇がドアの外に張り巡られていた。
「どうしたのユリ?」
後ろから凪の声が聞こえた、すぐに凪をつれて逃げようと思ったら、
『おかしいな?ドアは開けれないように“弄った”はずなんだけどな?』
突然誰かの声が聞こえてきた、すぐ声の主を探ろうと音源の方に顔を向けると、僕より少し年上くらいの白髪の男が暗闇の上に浮かんでいた、トリックか何かかと思ったが、そこには透明な糸もなければ床もなかった。そしてその男の周りには他の教室らしき物も浮かんでいた。
『まあいいか、気づいたの君だけみたいだし、じゃあね』
そう言うと男は僕から目を逸らして別の教室を見て何かしだしたので、すぐにこの場から立ち去ろうと周りを見渡した。見たところ教室の窓だけは青い空や校庭が広がっている。脱出はおそらくあそこしかない。
「凪行こう。」
「どうしたのユリ!?」
「話しは後だ、とにかく行こう」
そうやって無理やりにでも凪を連れていこうとしたとき
『ドッ...』
背中に衝撃が来た、それと同時に僕は真っ暗な闇の中に堕ちて行った。すぐさま背中のほうを見てみると今まで見たことのないような顔をした凪に蹴飛ばされていた。
「よぐもユリを殺じだなああああああ!!」
「は?」
訳がわからなかった僕がユリなのに僕が僕を殺したと涙と鼻水を出しながら殺意の目を僕に向けてくる
凪に言い返そうと思うもその心の底からの思いに気圧されて何も言えなかった。ふと男の方を見ると笑っていた凪の笑顔とは似つかないほど醜悪な顔で、俺は今まで出したことないほど声量で、
「降りて来い白髪ジジイ!!凪に何しやがった!!」
その声に男は何も言わず、代わりに俺の声で正気に戻った凪が、
「ユリィィ!!」
と俺の元に飛び込んできた、
「凪!」
俺はすぐさま受け取ろうとしたが、
『ダメダメ君はそっちじゃ無理だよ』
あの男が寸前で凪を攫って行った。
「離してよ!」
「凪に触んなクソジジイ!!」
『そんなはしゃがないでよ、すぐ終わるから。』
そう言うと男は暴れていた凪を一瞬で静止させた。
「てめー凪に何しやがった!!」
『思春期真っ盛りでうるさかったからちょっと寝てもらってるだけだよ。まあ、君のほうが大変だろうから頑張って。』
そう言い放って、男は天に昇って行ってしまった。
『クソがァァァアアア!!』
喉が切れると思うぐらいの声量で俺は叫んだ。
するとやがて真っ暗闇だった地面にだんだんと色が近づいて来た。
俺は理解した。
「あー、森か。」