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■01.1 エッセイ


季刊月鏡文化通信 夏号

巻頭エッセイ


「ロゴスと縄文人」

               縄文人研究コンソーシアム事務局長

               摂動技術普及協会 会長       楢崎一永


 はじめに言葉ありき。

 聖書を読んだことがない人も、この言葉はご存じだと思います。聖書の中で、ヨハネの福音書というパートに書かれています。

「初めに言葉があった。言葉は神と共ともにあった。言葉は神であった」

 そして、

「すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった」

 と続きます。

 この時の言葉というのは、日本語でいう言葉ではなく、ギリシャ語のロゴスなのだそうです。ロゴスをそのまま訳する日本語はなく、とりあえず言葉と訳していますが、実際はもっと意味が広く、宇宙に法則を生み出した、宇宙に備わっている理性といった深さがあります。哲学では世界理性と訳したりもするそうです。


 ヨハネの福音書によると、イエス様はロゴスそのものなのだそうです。世界に内在する理性がイエス様ということですが……うーん難しいですね。


 ヘラクレイトスというギリシャの哲学者は、ロゴスとは万物流転、すべての物は生成消滅を繰り返す、その法則を指すとしました。

 昼も夜も同じで始まりも終わりも同じ、病気と健康も同じで満腹と空腹も同じ。今は満腹でも明日には空腹になり、始まりがあれば終わりもあり、夜は必ず明けて朝になり、昼になるわけなので、そこにあるのは変化だけ。つまるところ、本質は変わっていないというのです。

 そしてその本質を原火と呼びました。炎ですね。火は常に形を変えてじっとしていませんが、どんな時でも火は火です。生々流転の本質である「万物に対して同一なる世界」は「過去現在未来を通じて永遠に活ける火」であるとヘラクレイトスは言いました。


 ヘラクレイトスの万物流転は般若心経でおなじみの、色即是空、空即是色の考え方とほとんど同じです。

 すべてのものは変わっていきますが、その本質は変わらず、本質自体は空であって、何もないのです。

 何もないとは言いますが、「空」は「無」ではないのだそうです。これは量子力学の空間の考え方に似ています。空間には、物質になる前のエネルギーに満ちていますが、物質はないのでその場所は空っぽという考え方です。

 観自在菩薩様という神様仏様の中のお一方が、宇宙とは何かということを考えて考えてたどり着いた結論で、智慧といいます。有名なお経の般若心経に書かれています。

 色即是空、空即是色が宇宙の本質である。

 あれ? と思った方もいるんじゃないでしょうか。

 え? じゃあもしかしてイエス様がロゴスで、ロゴスが生々流転なら、イエス様とはお釈迦様がおっしゃった色即是空空即是色そのもの、観自在菩薩様が悟られた知恵そのものということになるのでしょうか?


 どうなんでしょう。仏教哲学のひとつの頂点である空の思想、この世には何もないがすべてがあるという不思議な感じ方をギリシャの人たちやヘブライの人たちも感じていたのかもしれません。

 お釈迦様の方がイエス様より先にお生まれになっているので、仏教思想が中近東へと伝わり、キリスト教に影響したのでは? と考える人もいるそうです。

 

 私たちの祖先である縄文人もまた空の思想、万物流転の感覚を知っていたのだろうと思います。

 縄文人は文字を残していません。だから、本当のところはわかりません。

 初めに言葉ありき、なのに文字がないのは困ってしまうのですが、ロゴスは万物流転の法則であって言葉ではないので、文字は不要です。むしろ縄文人の方が、ロゴスの本質を理解していたのではないかと感じるのです。

 縄文土器にほどこされた文様は、波であり蛇であり炎であり、まさにヘラクレイトスの万物流転を象徴しています。

 現在の私たちの文明は、万物流転とは真逆の進み方をしています。生きるとは何か? 人間とは何か? 私とは何か? という、命の根本にある問いかけに対して、お金を稼ぐことが人生の目的、お金を使うことが幸せであると平然と答える社会。私たちの社会は、波の繰り返しや脱皮する蛇の姿に永遠を見てとる感覚を失い、壊すために作り、作っては壊すという無意味な繰り返しを続けています。

 おそらく縄文文化では、哲学者や宗教家が必死の思いでたどり着いた智慧の境地を万人が生きる基本に据えていたのではないかと思います。

 私たちの祖先の恐ろしく鋭い感性がどこから来たのか、なぜ失われたのか。

 私はこれからも皆様とともに、縄文の精神を研究し続けていきたいと思う次第です。


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