第8話
お説教タイムも終わり、一息ついた頃。ちょっとした雑談タイムとなった。
「秋月くんは能力を持っていないという話でしたが、なぜこの高校に?」
「お恥ずかしい話なのですが、この高校がそういう分野で有名なところだとは知らなくて……」
「そうだったのですね。てっきり、誰かに可能性を見出されて受験させられたのかと。見る人が見れば、秋月くんは将来が楽しみになるほどの可能性を秘めているのが分かりますし。これは……ふふっ」
怪しい「ふふ」と同時に生徒会長が一瞬美味しそうな獲物を狙う目つきになった……気がした。俺の気のせいか……? いや、隣に座っている如月先輩が小声で『いくら響といえども彼は私が最初に見つけたんだから横取りは許さない』と呟いているから勘違いじゃないかもしれん。お? 修羅場か? でも、恋愛感情は一切に絡んでないっぽいからあまり嬉しくないんだよなぁ。
そもそも、俺にそんな可能性はないと思うけどなぁ……。神様がいい感じでやってくれたのかもしれないけど、最初から都合のいい俺TUEEEE要素はくれないって言ってたし。まあ、そのあたりは気にしても仕方ないか。
気にしても仕方ない部分は気にしないことにして、スタボで聞きそびれていたことを聞くことにしよう。
俺は二人の怪しい『ふふ』と『横取りは許さないから』のつぶやきが収まってから話題を切り出した。
「そういえば、如月先輩から先天性の能力者と後天性の能力者について教えていただいていたのですが……続きを聞かせていただいてもよろしいでしょうか……?」
「ああ……そうでしたね。すみません。もちろん良いですよ。ちょっとお待ちを」
そう言って生徒会長は部屋にあったホワイトボードを俺の見やすい位置まで移動させ、授業形式で説明をし始める。ちょっと先生っぽい仕草をしているのが可愛い。
「スタボでマリンから先天性の能力持ちについて話は聞いていましたよね?」
「山を吹き飛ばせるほど強力な能力を持っている人が多いと聞きました」
「そうですね。ただ、先天性の能力持ちにはもう一つ特徴があります。それは、先天性能力者は能力を1つしか持ち得ないというものです」
「そうなんですか」
まあ、一般人の俺からしたら強力な能力を1つでも持っているなら十分な気がするな。むしろ、そんな能力をいくつも持っていたら扱いきれないだろうし。
「簡単ですが、その2つが先天性の人たちの特徴になります。細かいところは追々知る機会があると思いますし。それで次に後天性の能力者についてですが、この人達には能力の所持数に制限がないと一般的には言われています」
「言われている、と曖昧な言葉になっている理由は……?」
「所持数に制限はないはずなんだけど、これが人によってまちまちなのよ。どれだけ頑張っても能力持ちになれない人もいれば、複数個所持できる人もいるし。だた、この高校に入学した選りすぐりの能力なしの生徒は、複数個持ちの可能性が相当見込まれているから期待大らしいの」
「なるほど……」
これはあれかな? その人の魂とか器とかそういう神のみぞ知るところで所持数が決まるみたいな、そういうやつなのかな?
俺が情報を飲み込むのを少し待ってから、再度生徒会長が口を開く。
「また、後天的に能力を授かるためには、能力者の血液を注射する必要があります」
「……なるほど」
「大体1年生の5月までには一回目の注射をするはずです。このときに得られる能力は一般人に毛が生えたようなレベルのものです。ただ、授業態度や任務などで実績を積むことで教師陣からの信頼を得るか、優秀な能力者からの信頼を得ることでその人達に推薦状を書いてもらい、結果、より強力な能力者の血を得ることが許可される仕組みとなっています」
「ふむふむ」
そこまで強くない能力は初期装備みたいな感じでくれるけど、それ以上のものになると下手な生徒に渡したら大変なことになるから、信頼に足る人物にしか手に渡らない仕組みになっていると。まあ妥当な処置やな。
ここで、如月先輩が『ただし』と注意をしてくる。
「後天性能力者は能力を得る機会が頑張れば沢山あるけど、能力者の血液を注射したからといって絶対に能力を得られるわけではないわ。それに、血液に対して拒絶反応を示して亡くなるケースもあるの。これは強力な能力を得ようとすればするほど確率が上がっていくと言われているわね」
「……あぁ……」
先生が『クソみたいな苦痛を味わうと思うが』とか言っていたのはこのことか。痛みを通り越して昇天する可能性があるのは草だが。
若干青ざめる俺の様子を見て、ムチの如月先輩、飴の生徒会長というように優しい言葉をかけてくる。
「そこまで怖がる必要はないと思います。少し熱が出ることや注射された箇所が痛むことは結構報告されていますが、死に至るケースはほとんど聞きません。それに、能力の付与は日本最先端の医療を受けられる軍直轄の病院に入院してのものになりますから。大丈夫ですよ」
そう言って生徒会長が安心させるように優しい顔を向けながら俺の手をぎゅっと握ってくる。……あっ……好きになるぅ……こんなん反則やろぉ……
だがしかし。即落ちしそうな気持ちを二十歳超えの精神年齢で無理やり抑え込み、努めて冷静にお礼を言う。
「ありがとうございます。生徒会長の言葉を聞いて安心できました」
「いえいえ、生徒の不安を取り除くのも生徒会長の務めですから」
「……チッ。この響のかまととが」
「なんのことか分かりませんねぇ、マリン?」
如月先輩と生徒会長って年は1つ離れてるけど仲が良いんですね……。いいライバル関係に見えますよ僕には。