第3話
俺が席についたのと同時にチャイムが鳴り、しばらくして担任であろう女性が教室に入ってくる。
なんというか……結構インパクトが凄い人だな。おしとやかの逆をいくような見た目で、視線だけで気が弱い人相手だったら失禁させそうな感じ。転生前の日本ではほとんど見かけなくなったタイプの教師っぽいね。いらんこと言ったら一瞬で暴力振るわれ--
「おい、そこのお前。今なにか失礼なこと考えてないか?」
ギロリと先生に睨まれる。
失礼なことを考えていないかどうかと言われたら、考えていました。はい。ただ、そんなことバカ正直に言えないし、今の俺はピカピカの一年生である。初っ端から飛ばす気はない。ここはいい感じでごまかしておこう。
「すみません。高校の先生という存在を初めて--」
「私のことを暴力女だと思ったんだろ? そうなんだろ?」
「いえ、そんな失礼なことを思うわけが--」
「いや、思ってたね。私には分かる。勘だが分かる。事実そうだし……な!」
そんな聞きたくない事実を聞かされたと同時に、先生がいきなりチョークを手に取り、超絶良いフォームで俺にそれをぶん投げてきた。
--いやまじかこの人!? 俺の話は聞いてくれないし、ものは投げてくるし、どうなってんだよこの学校!
目にも留まらぬ速さで飛んでくるチョークを華麗に回避……できるわけもなく、眉間にクリティカルヒットする。
めちゃくちゃ痛いんですけど……てか、当たったチョーク粉々じゃん……とんでもねえなぁ……
周りをちらりと見ると、気の毒そうな顔をみんな向けてきていた。うん、まあそうなるな。
「このように、私が『こいつ、失礼なこと考えてやがるな?』と思ったら実力行使にでるので注意するように。というか、秋月。今のチョークくらい鼻歌歌いながら避けられないようだとこれから相当苦労するぞ?」
先生は呆れ顔で俺に意味不明なことを言ってくる。
……え? どういうこと? 現代日本人にあんな速度のチョーク避けられるわけ無いと思うんだけど。というか、苦労するってどういうこと? ここ、日本だよね?
頭にはてなマークを大量に生やしながらも、先生が荒々しくオリエンテーションを開始したため、無理やり気持ちを切り替えて、とりあえず乗り切ることにした。
先生から今後の授業についての説明や、高校のイベント(文化祭や体育祭など)について大雑把に説明を受けた後、全校集会まで時間が余ったので質問タイムとなった。
「何か質問ある奴いるか? 授業に関することでも、イベントに関することでもいいぞ? あ、『先生! 彼氏とかいるんですか?』とかそういう質問はNGな? したやつはもれなく制裁だから」
後半部分、めちゃくちゃドスを効かせてるの超怖い。命知らずの男子が先生の地雷ポイントを質問しようとしていたらしく、挙げかけていた手を瞬時に降ろして縮こまってしまった。可哀想に……
ちょっとの間、他の生徒から質問が出るのか様子を伺っていたが、誰も微動だにしなかったので、さっきから気になっていた質問をすることにした。
「先生、質問よろしいでしょうか?」
目で続きを言えと催促された。クラスメイトもゴクリとツバを飲み込むような顔をしている。いや、こんな緊張感が出るような質問をしようと思ってないんだけど……まあいいか。
「配布された授業時間割に『訓練』というものがあると思うのですが、これは具体的にどういうことをするものなのでしょうか? 授業説明でも『訓練は訓練だ。以上』で終わってしまったので良く分からないのですが」
「……ん? もしかして、この高校がどういうところか把握せずに入ってきたのか? ここはその分野では有名な学校なんだが……。分かった。説明しよう」
……え? 神様、俺はどういう高校に入学したんです……? え、ちょっと待って。怖いんですけど。知らない間にえらいことになってない? ここはあれだ。一旦落ち着くために深呼吸を--
「ここ桜大学付属高校は将来の日本の国防を担う、いわゆる軍人学校みたいなところだ」
--ああ!! ちょっと待ってほしかったのに!
そんな俺の内心を知ってか知らずか、ニヤリ、と先生は俺を見ながら口角を挙げ て追撃をかけてきた。
「この高校に入学してくる生徒は大抵、なにかしらの先天性の能力を持っている。だが秋月、お前はそういうものを一切持っていないらしいじゃないか。だが、安心しろ? 能力は後天的に付与することができる。それに、後天的な能力の方が強力だという噂もある。お前には期待しているぞ? ……まあクソみたいな苦痛を味わうと思うが」
ちょっと! 後半聞き取りづらかったけど俺には聞こえたぞ! とんでもない高校じゃねえか! 能力? これ、日本は日本だけどファンタジー日本じゃん! 俺が求めてた普通の高校生活で甘々生活と違う! チェンジ! チェンジでお願いします神様!




