第2話
家を出ると、外は見慣れない道と風景だった。
「ここは転生前と一緒ではないのね」
まあ、これは制服の胸ポケットあたりにあった高校名とエンブレムを見たときには察していたので、スマホをぱぱっと取り出して経路案内を開始する。
高校名は桜大学付属高校。エンブレムも桜の花びらみたいなやつだった。いいね、桜。俺は好きよ。
防人山直太朗のさくらを口ずさみながら、徒歩で学校に向かう。
少し大通りに出ると、桜が満開になっている光景が目に入ってきた。スマホで一応確認していたが、どうやら俺が転生してきた時期は春、4月らしい。ちなみに、俺は高校一年生である。
なんかあれだね。修士一年が高校一年になるってもう授業とかイージーモードな気がするよね。実際はあまり覚えていないんだけど。あと、心は院生のままだから、周りとのジェネレーションギャップが怖いです。
家を出てから約10分。もうちょっとで高校が見えてくるかなぁってところになると、結構な数の生徒が見受けられるようになってきた。
大抵の人はちょっと背伸びをして制服を着ているような、初々しさを感じられる。おじさん、こういう雰囲気に当てられると親のような気分になってしまうのです。
そんなわけで、見た目は高校一年生の奴が周りの生徒を親のような優しい目で見守ることさらに5分。高校に到着である。
「ほー、なんか大学みたいなデカさの高校やね」
校門を通ると、本当にマンモス校の大学のようにバカでかい敷地とそこら中に建っている校舎が目に入ってくる。
高校二年以上の生徒らしき人たちは、ほとんどの人が自転車に乗って敷地内に入っていることを見るからに、目的の校舎に行くだけでも疲れることが想像できる。これは、早く学校に許可をもらって俺も自転車通学しなければ!
高校の敷地内にも植えられて咲いている桜や大きい校舎を見つつ指定されている校舎を目指し歩くこと5分、無事到着! んで、早速教室に向かう。
校舎内に入ると、この建物は新築か!? と思うくらい綺麗で、かなりのお金がかけられていることが分かる。転生前の高校はなかなかにボロかったし、大学も改修工事がされていたからある程度綺麗ではあったけど、この校舎を見たあとだと全てが霞むね。こんなのに慣れたら、今後が大変そう……
そんなどうでもいい心配をしながら階段を使って三階まで上がり……教室の扉前に着く。教室からは、男女両方からの楽しそうな声が聞こえていた。
この扉を開くと、俺の楽しい楽しい高校生活が始まるわけだ。顔にはあまり出していないが、俺は内心うきうきである。これは仕方ないじゃん? PCの画面の中でしか楽しめなかったエロゲという世界を、俺は今この身をもって体験し、堪能できる状態なんだ。これでテンション上がらないわけがない。
しかもあれだよ? 神様からヒロインの顔写真を見せてもらってるんだよ? 転生前で言うところの芸能人レベル、いや、それ以上の顔面偏差値の女の子と頑張れば結ばれるかもしれないんだよ? いやー、神様には再三感謝である。ありがとうございます!
神様への感謝を心のなかでした後、俺は扉に手をかけ、今新たな一歩を踏み出す! んじゃー、いったろかー!
俺が教室に入ったのと同時に教室内のクラスメイトの視線が集中する。さあ、ここが大事! 俺はできる子だから大丈夫!
「どもども! 秋月康介です! 入学式初っ端から危うく寝坊しかけました! よろしくです!」
俺の全力をかけて話しかけやすい人ですよアピール! そして話のフックとなる話題も提供! さあどうだ!
「おお、よろしくな! 俺もアラームかけ忘れててやばかったわー。同じだな!」
ほとんど間を置かずに俺が突っ立っている場所の目の前に座っていたいかにも社交的そうな男子がめちゃくちゃいい笑顔で答えてくれる。えっ……この子めっちゃいい子……!
しかも彼だけではなく周りの生徒も「よろしくな!」みたいな気さくな挨拶をしてくれてたぞ!
いやぁ……ここは優しい世界だなぁ。
しばらくの間、もう少し詳しい自己紹介も兼ねてみんなと談笑したあと、自分の席を確認してみると、俺の席は一番最初に話しかけてくれた彼の後ろだった。いや、まじでこれは神様に感謝やわ。転生後の人生を楽しむにしてもまずは交流関係を築いてからじゃないと始まらんと思ってたから。ちょっと話した感じ、彼はエロゲでよくある主人公の親友ポジションの人物っぽかったし、色々な意味で仲良くなりたい。邪な思惑を抜きにしても親友になれそうやしな。