牛鬼
牧場から冒険者に救援要請が出た。家畜の牛が瘴気にやられてモンスター化したという。スライムよりは強力であるが、元は家畜であり、モンスターとしては弱い部類である。駆け出しの冒険者の仕事として妥当である。
牛のモンスターは牛鬼と言い、海岸に現れて浜辺を歩く人間を襲っていた。オーキャラとボールは夜の海岸を歩いた。真っ暗闇である。波の音だけが聞こえる。そこに牛鬼が現れ、突進してきた。オーキャラは魔法の杖を掲げて「グルメ魔法・ハンバーガー」と唱えた。牛と言えば牛肉である。牛鬼はハンバーガーになった。
王城に帰ってから二人で食べた。バンズもビーフも、この世界のものよりも柔らかい。パンに肉などを挟むことは文明技術がなくても実現可能であるが、この世界では発想がなく、ボールは驚いていた。
「歩きながらでも食べられるので、冒険者には便利ね」
ファーストフードの利便性は中世的な世界にも価値がある。
オーキャラとボールは森の中を進む。森の中から小鳥のさえずりがいろいろと聞こえてきた。ボールは、あれは何の鳥、今のは何の鳥と詳しく解説してくれた。
かなり進むと開けた場所に出た。アウズンブラが現れ、二人に突進してきた。アウズンブラは牛鬼と同じく牛のモンスターである。牛鬼よりも強力である。
オーキャラは牛鬼の時と同じように魔法の杖を掲げて「グルメ魔法・ハンバーガー」と唱えた。ところが、アウズンブラはハンバーガーにならず、オーキャラに衝突してきた。
「危ない」
ボールが叫ぶ。アウズンブラが衝突したオーキャラは吹っ飛ばされた。目は火花が散り、耳鳴りがし、全身には脂汗がにじみだし、吐き気がした。それでもボールが横からアウズンブラを剣で突いたため、アウズンブラの突進力は弱まり、オーキャラは致命傷にならずに済んだ。そのままボールがアウズンブラと対峙する。オーキャラは急いで態勢を立て直す。
「何故、グルメ魔法が効かないのか。ハンバーガーではダメなのか」
オーキャラは考えた。ボールがアウズンブラと戦っているが、劣勢である。オーキャラはある考えが閃き、魔法の杖をアウズンブラに向け、「グルメ魔法・チーズバーガー」と唱えた。アウズンブラはチーズバーガーになった。アウズンブラは乳が川になるほど流れ出るという伝承がある。そのため、ハンバーガーでは魔法が効かず、乳製品を挟むチーズバーガーならば魔法が効く。
チーズバーガーは普通のハンバーガーにチェダーチーズが挟まっている。チェダーチーズはチェダリングという工程で熟成させたチーズである。チーズはチェダリングによって繊維状に組織化される。
「チーズが入っていると、まろやかになるね」
ボールはチーズバーガーが気に入ったようである。
「そうだね。色々な食べ物を食べてきたけど、チーズバーガーが一番おいしいかもしれない」
オーキャラもそう思った。