スライム
二人はグルメ魔法を試すために城外の北の平原に向かった。ここは低級なモンスターが出没する。早速二人の前にスライムが現れた。オーキャラは魔法の杖を掲げて「グルメ魔法・煮こごり」と唱えた。スライムは煮こごりになった。あっという間の出来事であった。
ボールは、あっという間に出来事に驚愕する。
「すごい。どんなモンスターも一撃で倒せるの」
「いや。グルメ魔法で指定する料理とモンスターが合っていないと効果がない。今回はスライムと煮こごりはどちらもゼリー状で類似するので効いた」
オーキャラは魔法のタッパーに煮ごこりを入れて袋に詰めながら説明する。
「料理と類似しないとダメなのね」
「うん。後は自分の魔力とモンスターの魔力の相関になる。自分の魔力が相手を圧倒していれば適合度が低くても魔法は効きやすい。そうでなければよほど適合度が高くないと効かない」
「難しいんだね」
「グルメ魔法は使い手が知っている料理しか作れない。また、自分の魔力が相手の魔力より低ければ、相手が強すぎて、そもそも料理ができない」
「ふむふむ。なかなか奥が深いね」
「そうだろう。まあ、色々と制約はあるけど、うまく活用できれば強力な能力になると思う」
煮こごりは肉や魚を煮た際の煮汁が冷えて固まり、ゼリー状になった料理である。肉や魚の風味が凝縮されているため、濃厚な旨味がある。煮こごりは古代ローマ時代から既に存在していた。このため、この中世風ファンタジー世界にも存在する。
「別の料理を試したいので、他のスライムとも戦ってみたい。それから今日は帰ろう」
「分かった」
そのまま平原を歩くと再びスライムが現れた。オーキャラはスライムに杖を向けて「グルメ魔法・ゼリー」と唱えた。スライムはゼリーになった。
ゼリーは、この世界に存在しないため、ボールは驚いた。
「これはゼリーという菓子だよ。煮こごりと同じくゼラチンだけど、甘味で味付けしており、甘いお菓子だよ。持って帰って二人で食べよう」
「それにしても、どこでゼリーなんて料理を覚えたの」
前世の知識という訳にはいかず、「この魔法のために勉強した」と答えた。
王城に戻って煮こごりとゼリーを二人で分けて食べた。
「この嚙み応えは初めて」
ボールは初めて食べるゼリーの味を絶賛した。それからしばらくはスライム退治を繰り返した。
「おはよう。今日は何をする?」
「そうね……。じゃあ、少し散歩に行こう」
「うん。では、行こう」
ボールは歩き出す。その足取りは軽い。
「そういえば、昨日不思議な夢を見たよ。森の中に家があって、そこに女の子が住んでいるっていう内容の夢なんですが、ボールは何か知らない?」
「ううん、知らない」
そう言うと、ボールの表情が一瞬曇ったが、それも束の間、いつもの笑顔に戻っていた。
「ところで、この辺りにはどんなモンスターがいるのかね?」
「さあ、どうかしら。少なくとも私は見たことが無いけれど」
「そうなんだ。私は一度見てみたいな」
「そう……。でも、気をつけないと駄目よ。狼とか熊が襲ってくるかもしれないから」
「私が襲われそうになった時は助けてくださいね」
「はい、任せといて」
しばらく歩いているうちに森を抜け、開けた場所に出た。そこには小さな湖があり、鳥たちが楽しげに飛び回っている。
「綺麗な場所ですね。まるで絵画の世界に来たような気分です」
「ええ、本当に素敵ね」
二人で景色に見惚れていると、「ねえ」という声が聞こえてきた。振り返るとそこには、一人の少女の姿があった。
「こんにちは。こんな所で何をしているの?」
「えっと、実は道に迷っちゃいまして。それで、ここが何処なのか知りたくて」
「そうなんだ。じゃあ、案内してあげるよ」
「本当ですか!ありがとうございます」
「いいよ。困っている人は放っておけないしね」
そう言って笑うと、彼女も笑みを浮かべた。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「……あの、一つ聞いても良いですか?」
「何?」
「どうして、この村に住んでいるんですか?」
「……」
「すみません。答えたくないなら良いです」
「……ごめんね。でも、いつか話す時が来ると思う。その時まで待っていてくれる?」
「分かりました」
それからしばらくして目的地に着いたようだ。
「着いたわ。ここは私のお気に入りの場所なの」
「へえ、素敵な所ですね」
「ありがとう。じゃあ、私はそろそろ行くね」
「はい、ここまで送ってくれてありがとうございました」
「いえいえ、どう致しまして。……じゃあね」
そう言い残すと彼女は去っていった。
「さて。これからどうしよう?」
「そうね。……とりあえず、宿に戻ろうか」
「うん」