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転生

林田力は読書が好き。他のことを考えずに没頭できる楽しみは読書である。人によっては読書の代わりにテレビや映画が解決策になるだろう。そのような人の方が多いかもしれない。映像を観ることは受動的過ぎて世界に入り込みにくい。自分のペースで読み進める主体性が読書の良さである。


比較的長続きしているマイブームは転生物のライトノベルである。転生物は異世界に転生した主人公がチートスキルや原作知識で活躍することが定番であった。どちらかと言えば現実世界からの逃避、リセットの物語であった。現実世界が面白くないから異世界に活躍を求める。


ところが、比較的新しい作品では現実世界のスキルを使って異世界で活躍する物語が増えている。ここには現実世界の活動自体は否定の対象ではなくなっているという現実肯定の気風への変化があるだろう。昭和の働き方は、仕事そのものが組織内の調整など組織独自の作法に従った組織内でしか通用しない「ゼネラリスト」が求められた。そのような仕事は他所で役に立たない。異世界で活用する物語にはならない。


これに対して21世紀は昭和の働き方が後退し、仕事にモチベーションを見出すようになった。そのような仕事のスキルは異世界でも通用する。それでも転生物の需要が続く理由は、現実世界では仕事のアウトプットよりも昭和の村社会的なコミュ力や調整力が評価されるという不合理がまだまだあるためであろう。日本型組織よりも異世界の方が公正にスキルを評価されるという願望の反映を反映している。


このようにラノベを読んでいたある日、突然白い光に包まれて真っ白い空間にいた。頭の中に声が響く。

「あなたは、これからファンタジー世界に転生してもらいます」

これが見た転生か。


「転生にあたって貴方が望むスキルを与えます」

古典的な転生物である。このようなこともあろうかと妄想していた甲斐があった。

「自分の体も含めて、物質を思ったように変化できるスキルをお願いします。攻撃を受けて傷ついた体も瞬時に治すこともできます」

「チート過ぎるのでNGです。別のスキルにして下さい」

「それでは時間を止めるスキルにしてください。時間が止まった中でも自由に動けて敵にダメージを与えられます」

「それもチート過ぎるのでNGです」

その後も希望スキルを挙げていったが、ことごとく却下されてしまった。


「敵を美味しい料理に変えるグルメ魔法はどうですか。敵に対して変えたい料理を念じます。自分と敵との魔力の差や、敵と料理の相性によって魔法が効いたり効かなかったりします。これならばチート過ぎるとは言えないでしょう」

このスキルは石田柊馬の川柳「妖精は酢豚に似ている絶対似ている」からインスピレーションを得たものである。モンスターと血みどろになって戦うのではなく、魔法でモンスターを美味しい料理に変えられたら面白い。敵を倒して自分の腹も満たす一石二鳥になる。

「OKです。それではファンタジー世界に行ってらっしゃい」

真っ白な空間は真っ暗になった。


「ちょっとオーキャラ、聞いているの」

オーキャラは我に返った。自分は魔法使いオーキャラであると自分の知識が教えてくれる。オーキャラの半生の記憶を持っている。しかし、意識は21世紀の日本人である。先ほどの転生のやり取りは鮮明に覚えている。転生に成功したようだ。


オーキャラは体格的には前世と同じようだ。自分の体として違和感がない。前世よりも太っていたり、痩せていたり、背が高かったり、低かったりということはない。


服装は大きく変わっていた。オーキャラは魔法使いのローブを着て、フードを被っている。魔法の杖を持っている。いかにも魔法使いという格好である。しかし、これは魔法使いとして廉価な装備であるとオーキャラの知識が教えてくれる。世の中にはもっと魔法使いの魔法を底上げするローブや杖もある。それらはレアなアイテムであり、簡単に手に入れられるものではない。


目の前にいるのは女勇者ボールである。ショートカットでボーイッシュである。服装や装備は男性の勇者と同じようなもので、性差を感じさせない。RPGの女勇者や女戦士は何故か露出度の高い恰好をしていることがあるが、そのようなものではない。


二人とも魔法使いや女勇者と言っても、駆け出しである。二人でパーティーを組んで、冒険を始めようという話をしていたところであった。


ここはフォーラー王国で、魔法やモンスターの存在する中世ヨーロッパ風ファンタジー世界である。王城の外はモンスターが跋扈している。モンスターを退治する冒険者が求められていた。冒険者は勇者や魔法使いなど様々な職業に分かれている。フォーラー王国は前近代社会であり、ジェンダー意識が強い。女勇者は非常に珍しい。ボールはジェンダー規範を無視して珍しいことを行う人間であった。このパーティーははみ出し者同士がくっついたものであった。


「ええと、何だっけ?」

「もう二回も聞いているんだけどね。あなたが極めたという魔法、何だっけ」

「グルメ魔法だよ」

「そう、それ。強そうな名前ではないけど、使えるの」

「うん。ハマれば楽に戦いを制することができるよ。何なら今から披露しようか」

この世界には様々な魔法がある。それらは魔法使いの共通スキルのようになっているが、グルメ魔法はオーキャラが独自に考案したオリジナル魔法という位置づけである。



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