実際に体験した怖い話 死者の叫び
私には霊感なんかありませんし、幽霊なんて見たこともありません。ごく普通の一般人として、幽霊が本当に存在するかどうかなんて本気で考えることもなく生きてきました。
ただし、実際に幽霊を見たわけではないのですが、その存在を信じざるを得ないような体験を一度だけしたことがあります。
そこまでホラーな内容でもないので、構えずに気軽に読んでみて下さい。
あれは私が高校を卒業した最初の8月のことでした。
私は大学受験をことごとく失敗し、浪人中の身で予備校の夏期講習に忙しい夏でした。
友人で東海大学の海洋学部に入学して静岡県の清水市で一人暮らしをしていた奴がいるのですが、夏休みで実家に帰省してきたので会うことになりました。彼は数日で清水の方に帰るとのことだったのですが、良かったらその一人暮らしのアパートに遊びに来ないかと誘われました。
ちょうど夏期講習もひと段落つき一週間ほど予定が空いていたので、少し羽を伸ばしてみようかともう一人の友人と共にそのお誘いに応じることにしました。
清水では車の免許をとりたての友人とともに、さまざまな場所にドライブに行きました。海あり山ありの田舎なので距離感が都会とは全く違い伊豆や富士樹海など、かなり広範囲を日帰りでドライブしたものです。
これは清水の夜景を一望できるという日本平の頂上に遊びに行った時のお話です。
同じアパートに住む彼の大学の同級生も加えた男4人で夜中に車に乗り込み、峠道を抜けて頂上のドライブインに向かいました。ドライブインの駐車場に着くと、端っこの方の植え込みがある場所の前に車を駐車しました。植え込みの向こう側は下っていて、清水市街地の綺麗な夜景が眼前に広がっていたのを覚えています。
日本平の頂上はカップルの聖地のような場所で、山頂の鐘をカップルで鳴らしたり金網にカップルの名前を書いた錠前を取り付けるなどといったイベントが流行っているようでした。男4人で大騒ぎしながら鐘を鳴らしたりしながら、場の雰囲気をぶち壊しながら楽しんだ後、30分ほどで車に戻りました。
4人が車に乗り込むと、運転席の友人が声をあげました。
「なんだこのイタズラは。」
車の窓ガラスは夏の湿気で真っ白に曇っていて、フロントガラスも真っ白な状態でした。そのフロントガラスの一番下のダッシュボードに近い場所に、指で文字が書かれていたのでした。
「SOS」
全く意味が分かりませんでした。曇りガラスに落書きするのなんて「バカ」とか「チンコ」と相場が決まっているものです。「SOS」なんてセンスを疑いました。
「フロントガラスを指で触るなんて最低だよな。」
「お前らじゃねぇよな。お前らだったら承知しねぇぞ。」
そう言いながら友人はその文字を消そうとワイパーを作動しました。
「えっっっっっっ?」
「嘘だろ、おい。」
ワイパーが一往復した瞬間、車中の4人が驚きの声をあげました。そう、ガラスの曇っていたのは車の内側で、ワイパーでは曇りは全く消えなかったのでした。
これで4人以外の他人が外側から落書きをしたという線は無くなりました。友人は雑巾を取り出して文字を拭いて消しましたが、ハンドル越しに非常に苦しそうに手を伸ばしてやっと拭き取れる状態でした。
4人一緒に行動していたため、そんな体勢で誰にも気付かれずに落書きをするなんて不可能な話であり、たとえできたとしてもミミズの這ったような文字になるのは明白でした。
しばらくの間、誰が書いたのか、俺じゃないぞなどと言い合っていましたが、皆背筋に寒気を感じて次第にそのことを口にしなくなり、帰途に着いたのでした。
その後、私は無事に大学にも合格し、残業だらけでブラックな会社に就職し、かなりハードな毎日を送っておりました。友人たちともたまには連絡を取ったり飲んだりすることもありましたが、あの夏の日の不可思議な出来事は記憶の片隅に追いやられ、話題に上がることもなく忘れ去られようとしていました。
そうしてあの夏から12年経ったある日のことでした。私たちも30歳になりましたが、私は相変わらず残業に追われる毎日を送っておりました。いつものように夜中まで残業し、重い足取りで帰宅して着替えながらテレビのスイッチをオンにしました。
いつものようにフジテレビのプロ野球ニュースでその日のプロ野球の結果を確認し、その後の一般のニュースを何の気無しに眺めていました。そこで「日本平」という言葉が出てきて、驚くべきニュースが流れてきたのです。
日本平山頂展望台で白骨死体が発見されたとのニュースでした。その白骨は死後推定15年近く経過していたとのことで、金髪の欧米人女性と推定されるとのことでした。そしてドライブイン駐車場の端っこの植え込みの土の中に埋められていたのでした。
そうです。12年前の夜に車を駐車していたのはその植え込みの前だったのです。
そしてあの夜にフロントガラスに書かれていた文字は「タスケテ」などの日本語ではなく、日本人にも理解できる救援を要請する欧米の「SOS」という文字だったのです。
12年前のワイパーで消すことのできなかった「SOS」の文字が脳裏にはっきりと蘇ってきて、急激に背筋がゾッとするような寒気に襲われてしまいました。
あの文字は殺されて埋められた場所のすぐ近くにいた私たちに、その女性が自分の死体を発見してもらいたくて送ったメッセージだったのかも知れません。
私には霊感なんかありませんし、幽霊なんて見たこともありません。ごく普通の一般人として、幽霊が本当に存在するかどうかなんて本気で考えることもなく生きてきました。
しかし、12年前の出来事は幽霊が本当に存在するのではないかと考えさせられ、むしろ存在していなければ辻褄が合わない事例でした。