1章3話
信二達が家に向かう中、信二たちとすれ違った黒い帽子をかぶる男はまっすぐ川にかかった橋に向かい止まっていたベンツに乗り込む。
車にはネイビースーツに深緑のネクタイをした男が後部座席に深々と座り、運転席にはガタイがよく右目に傷をつけ、黒の皮手袋をした男が座っていた。男は後部座席に乗るとスーツを着た男に興奮気味に話しかける
「旦那の言う通り、あの坂口俊平という男、タイムイーターということで間違いないかと。これ、さっきの一連の流れについて録った動画ですがどうしますか?」
「指定の連絡先に送って、その動画は消しておけ。仁車をだせ」
「かしこまりました」
そう言うと運転手は車を発進させる。
「約束の報酬だ」
そう言うと男は3cm程の厚さはある封筒をわたす
「これはどうも」
受け取ってすぐに確認するとそこには大量の一万円札がぎっしりっとつまっていた。少し気分が良くなった男はヒューと口笛をならした後、懐にしまう。
「それにしても旦那、こいつって一体何者何で? さっきの動きを見る限りとても人間とは思えないのですが、どっかの特殊部隊の出だとか元凄腕の傭兵だとしてもこれはちと異常ですぜ」
「貴様は気にする必要のないことだ」
「そうは言っても…」
ふと男は運転席からの鋭い視線に気付き口をつぐむ。
「まぁ、ヒントぐらいはくれてやる。奴らは私の目的のための最も現実的な手段の1つだ」
「え、それはどういう…」
「ここら辺で良いだろう。おい、車を止めろ」
「はい」
「やれ」
「かしこまりました」
「一体どういうこ…」
パァン!!
運転手は男の額を正確に銃で撃ち抜いた。
隣に座っていた男は動じることがなく、慣れているように見える
「よろしいのですか?これで3人目ですが」
「かまわん、この男が死んだところで探す人間がいないことは既に調査済みだろう」
「しかし、もとは口の硬い男です。金を握らせて誓約書でも書かせれば事足りたのでは?」
「事がことだ。慎重に進めなければならない。事実を知るやつは一人でも少ない方がいい。それに、奴らは存在を知られることを非常に嫌っている。私もそのうち彼らの仲間入りをするんだ。今からでもルールは守っていて損はないだろう。それと死体はいつものように処理しろ。警察にも万が一に備えて手を回しておく。」
「かしこまりました」
運転手は車からおり死体を後ろの荷台に写すと、車の窓についた血を簡単にだが掃除していく。動画を見ていたスーツを着た男がふと口を開く
「それと気になったのだが、この動画の少年は何者だ?」
「ずっと動かないでいますね、腰がすくんでいるように見えますが私が元いた部隊にもこんな風に使えない者がいたのを覚えています。彼らの話を聞く限り、同じタイムイーターであるようですが」
「この少年少女についてもすぐに適当な探偵業者に調べさせろ。3日やる」
「かしこまりました」
そう言うと運転手は元のいた席に戻りエンジンかける。車は夜の闇に消えていくように走り去って行くのだった。
家に着いた信二はとりあえず二人を入れるために鍵を開ける
「まぁ、ちょっと汚いかもしんないけど入ってよ」
「お邪魔させてもらうよ」
「………」
信二たちは真っ直ぐリビングに行き、三人分のお茶を入れると席につく
少しの沈黙が場を支配した後、おっさんが口を開く
「とりあえず自己紹介といこうか。何気に名乗るのは初めてだね。坂口俊平だ。よろしく信二くん」
「よ、よろしくお願いします」
「あはは、いつも通りおっさんでいいよ」
「は、はぁ。おっさんは一体なにもなんでしょうか?」
「そこからかぁ、信二君はタイムイーターというのを聞いたことがあるかい」
タイムイーター?あの男も言っていたけど一体何だろうか
「まぁ、知っているはずがないよね。タイムイーターというのはその名の通り他の生命体の時間を喰う存在だ。吸収するという言い方が近いかもだけどね」
「えっと言ってる意味がよくわかんないんですけど」
「生物には多かれ少なかれ寿命があるよね。私たちはそれを吸収することで生きている。例えば80歳の寿命を持つ人間の20年分を吸い取ることで、その人間は寿命が60年になってしまう代わりに私たちは20年分の寿命を得ることができるといった具合にね」
俺はそれを聞いて背中に寒気が走る。おっさんの言ったことが本当なら彼らタイムイーターというのは俺の想像以上の化け物で彼らタイムイーターにとって人間は家畜や餌同然の存在だということだからだ
「そんな顔しなくて大丈夫よ。私を含め多くタイムイーターは虫や植物から時間を吸収しているのよ。人間を襲うタイムイーターはほとんどいないわ」
「そうそう姫ちゃんの言う通りあんまり怖がんなくて大丈夫だよ。それに吸収の工程は色々と複雑でね、並みのタイムイーターには人間の寿命を吸い尽くすなんてことはできないよ。さて、ここからが本題なんだけど。君も薄々感じている通り君も私たちの同族。タイムイーターなんだ」
その言葉に思わず俯き俺はおっさんの顔を直視することができないでいた。河川敷にいた男の発言から薄々感じてはいたが、こうして面と向かって言われるとショックは大きい。
「ショックを受けているところ悪いんだけど、君のこれからの身の振り方とタイムイーターについてもう少し説明するからよく聞いてくれ」