1章1話
2016年12月24日のクリスマスにそれは起こった。
塵となって消えていく母もそれを笑って見ているお前も、俺はただ意味が分からず突っ立っていることしかできないでいた。
「え…なんで…なんで、母さんが…」
状況が整理できず、かすれていった俺の声はひどく重い空気に静かに溶けていく
「あ~、見ちゃったか~。でも、大丈夫だよ❤」
そいつは長く絹のように滑らかな黒髪を揺らして、俺の前に立つとスッと俺の頬に手を添えて、吸い込まれそうな深い深紅の瞳で俺の目を見つめる
「きっとあなたのことは私が幸せにしてみせる。たとえ今は無理でもこれまでの不幸も苦痛も悲しみも全て私の愛で塗り替えてあげる。だから、ね…そんな顔をしないで、安心して今は眠って。いつかきっと必ずあなたを迎えに行くから」
そういうと突如として俺の頭を激しい頭痛が襲った
「ギッ、グアァァァーーーー……」
頭の中を直接何かでかき乱されているような頭痛で唾液をまき散らしながら床をのたうち回り、プツッと意識を俺は失った。
2018年4月25日6時半
ジりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり
いつもの時間にセットした目覚ましに起こされ、覚醒しきれずもっと寝かせろという頭に逆らいながら俺こと酒屋信二はベッドから目を覚ます。
二階の自室からリビングに降りて朝食を準備するのだが、酒屋家では慣れたものであるが基本的に俺一人しかいないため静かなものである。父親はいるのだが仕事の出張も多く、空いた時間は急に失踪したらしい母の捜索をしているため余り家にいない。らしいというのは俺に母の記憶が無いからである。俺を生んでくれた人はいるのだろうし、実際にその人と撮った写真はあるのだから近しい間柄であったことは間違いないのだろうが、覚えが一切ないため実感がないのである。
そんなこんなで朝食をすますと余裕を持って電車に乗り、二駅先の県立志摩高等学校に登校する。
俺は高校二年生であり、クラス替えの後からそこそこに時間がたち友達と言える存在も徐々に出来ていた。
「お、酒屋今日は蒸しパンか~。お前帰宅部のくせに会うたびになんか食ってるよな~」
「お~、最近食っても食っても腹が減るような感じがしてな~」
「それじゃ、デブッた時は俺が盛大に笑ってやるよ」
「うるせっ」
お昼の時間に購買に向かって歩いていると廊下で、俺の中学からの同級生であるである朝霧 姫に話しかけられる
「どこ行くの?」
「いやちょっと飯を買いに購買にな」
「あんた朝はコンビニのパン結構買ってたでしょ」
「いや~、最近腹が減って仕方なくてな。まっ食べ盛りってやつだよ」
「ふ~ん、私も何か買おうかしら」
そういうと姫は俺の隣りに並び自然と歩き始めた
俺は今日あった小テスト等について話しつつ、長く切りそろえられた黒髪と黒目、綺麗な白い肌をしたthe大和撫子(ちなみに成長の乏しい胸と身長についていったら本人はちょっと怒る)といった感じの姫を見て思考は違うところにかたむいていく
そういえばこいつって、性格は兎も角見た目はスゲーいいのにどうして彼氏とかいねーんだろ
「そういやお前って彼氏とか作んねーの?」
「急にどうしたのよ、あんたの告白ならとっくの昔に断ってんでしょ」
「いやそうじゃなくて、お前見た目はいいからその気になれば彼氏なんて作り放題なのになーっておもってよ。この前にサッカー部の武田?ってやつにも告白されたらしーじゃん」
「あ~あいつね。いっつも気持ち悪いあほ面吊り下げて汗臭いあなたと付き合ってあたしに何のメリットがあるか説明してくんない?っていったらどっか行ったわよ」
「う~わ、相変わらずきっついのな」
「別に、相手が見た目しか見てなかったからあたしも見た目だけを評価しただけよ」
この性格のきつさならそりゃあ彼氏なんていないだろうなと妙に納得しつつ、高校一年生の時に告白したら凄く苦しそうな顔で断られるというトラウマを思い出してしまった。南無三
中学からの知り合いということもあり今は普通に友達として雑談をしたりしているが、会った当初は本当にやばかった。あいつの周りだけ氷点下言ってるんじゃないかといった誰も近づけないオーラを放っていたし、ちょっと話しかけるだけでも不機嫌オーラが満載だった。家庭の事情が関係しているんじゃないかと聞いたことがあるが、基本的に聞かないし踏み込むわけにはいかないと思っている。
姫と雑談しながら昼飯を食べ午後の授業を受けた後、家への帰宅の途中にある河川敷による。スーツ姿の無精ひげを蓄えたおっさんがいた。去年姫に振られて、たまたまその日は父さんが家にいたため、落ち込んでいる姿を見られたくなく、この河川敷で考え込んでいると、たまたま通りかかったこのおっさんに声をかけられた。最初は警戒したがその日は少し心が不安定だったため色々と愚痴ったところ、このおっさんは結構聞き上手だったこともあり、その日は少し気持ちが晴れた状態で家に帰ることができた。その後、帰宅の経路のこの河川敷があり、結構な頻度でおっさんと会うことから、気心が知れるようになり、たまに学校などの愚痴このおっさんにこぼすしたり世間話をするようになった。
その日も十分程話してから帰ろうとしたとき、何気なく抱いた疑問をぶつけてみた
「そういえばおっさんってこの河川敷で普段何やってんの」
「なに、ちょっとした見回りだよ。不審者がいないかといったね。ま、地域のためのボランティア活動みたいなものだよ」
ふ~ん、そんなもんかと俺は家路につく。