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開廷~告発

 初冬の晩餐会での開廷宣言はすぐに学校中に広まった。


 第三王子たちや俺、エリーゼ嬢は好奇の目線に晒された。


 学校に出入りする商人にも話は広がっていたらしく、食料を運ぶ商人や教材や本の入った箱を運ぶ本屋や手代たちにも変な表情で見られた。


 エリーゼ嬢も取り巻きは全員遠巻きになって一人で過ごす姿が増えた。


 ただし、俺の場合は少し事情が違った。


「格好良かったぞ。アラン。協力するぜ」


「戦略科一位が学校裁判で真犯人を暴く事が出来たら、戦略科の勝利と言っても過言じゃない。俺も協力する」


「俺も協力するぞ。我が麗しの友、アラン・フォン・バーデムに」


「俺もだ。アランを戦略科の英雄にして威張ってばかりの貴族科、高慢ちきな官僚科の地位も名誉も下げるぞ!」


「軍人万歳! 一緒に腐った王侯貴族をぶちのめすぜ!」


 そう言って戦略科の大半は俺に協力的だった。


 特に友人たちは精力的に協力してくれた。


 友人たちには俺が思い付いた仮説を全て伝えた。


 それから一週間、友人たちはずっと仮説の証明をしてくれた。


 俺はその間、自身の仮説とは見当違いの行動をわざとしていた。


(見張っているみたいだからな……)


 貴族科や官僚科の人間がチラチラと俺の周囲にいたのを見る限り、間違いなく見張られている。


 俺も気付いたし、友人たちも向こうに気づかれないように知らせてくれた。


 俺は友人たちにとても感謝しているし、仮に万が一学校裁判に負けても悔い一つなく学校を去れるだろう。


 仮説の証明もできたので負ける気はしない。


 そんな事を考えながら俺は隣を見た。


 隣にいるエリーゼ嬢は少し緊張されているようだ。


 今日は薄緑色の特上級のドレスを着ていらっしゃる。


 率直にきれいだと思う。


「そのドレス、お綺麗ですね。よくお似合いです」


「あ、ありがとうございます。あの、今日はよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げるエリーゼ嬢には、一切真実を言っていない。


 そのため、エリーゼ嬢も俺と同じように見当違いの行動になっていたはずだ。


 わざわざこんな事をしていた理由は真犯人の油断を誘うためだ。


 俺とエリーゼ嬢は敢えて別行動を今日まで取っていて、一週間もの間、直接の接触を絶っていた。


 直接の接触はしなかったが、それぞれの友人を介しての接触はしていた。


 と言っても、今日の集合場所の時間とかのやり取りだけだが。


「それとアラン様。この度は大変申し訳ありませんでした。仮に負けても絶対にあなたへ責任が行かないようにしますので……」


 エリーゼ嬢はそう言うが、俺は断った。


「今更ですよ。それに、女性だけを矢面に立たせる訳にはまいりません。一人の軍人としても、紳士としても、男としてもね」


 冗談気味にそう言って笑いかけるとエリーゼ嬢の目が僅かに見開かれた後、パッと俯いてしまった。


 その状態でチラチラとこちらを見るエリーゼ嬢の頬は赤く染まっていた。


 そんな彼女と一緒に歩いて、ついに到着した。


 目の前には学校裁判が開かれる観劇の間の舞台へと続く両開きの大きな扉がある。


「いよいよ、学校裁判が始まります。全力で弁護させていただきます」


「……はい」


 小さい声でそう呟いたエリーゼ嬢はこちらを見上げた。


「本当に、申し訳ありません。こんな事に巻き込んでしまって……」


「お気になさらずに。自分は後悔していません」


 俺はエリーゼ嬢から視線を逸らさずにそう言い切った。

 エリーゼ嬢は無言で俺を見上げていた。

 その目は少し潤い始めた。


「ありがとうございます。アラン様。私はアラン様に感謝しています」


「お互い、悔いのない学校裁判にしましょう」


「はい」


 さて、情報は集まったが向こうの動きを確認してから本格的に攻めていく感じでいいだろう。


 そう思いながら俺は手元の資料に意識を向けた。






 この一週間で証拠集めと並行してまず友人たちにやってもらったのが第三王子たちの身辺調査だった。


 まず、第三王子。


 名前はオルベルト・フォン・クロースズ。


 学校では、赤髪の若獅子という異名を持っている。


 母親はエンド公爵当主の妹であり、父親は言うまでもなく国王陛下である。


 第二王子が下級貴族の妾の子供という事もあって王位継承権第二位である。


 そのため、王宮内では隣国の姫を母親に持つ第一王子の派閥とエンド公爵を中心とした第三王子の派閥が派閥争いをしている。


 そんな中、第一王子派トップのクロス侯爵の娘と第三王子の婚約が発表された。


 表向きは、第一王子を皇太子にするつもりだが第三王子派を冷遇するつもりはないとしている。


 でも、誰もその理由を信じていない。


 王権を強化しつつ貴族を弱体化させる方針の国王は、敵対派閥を一緒に合わせる事で旧トップ同士で互いを消耗させるのが狙いだと言われている。


 それを理解しているのかどうかわからないが、第三王子は婚約者を大事にしておらず陰で噂されていた。


 ちなみに、初冬の晩餐会であの特上級の青いドレスや履物を着てくるようにエリーゼ様に命令していたのは第三王子オルベルトらしい。


 その頃には男爵令嬢に付き纏い始めていた男がだ。


 裏で人が動いたのか、嵌めるためなのか、はてさて――






 次にエンド公爵の息子。


 名前はルーベル・フォン・エンド。


 学校では、銀色の貴公子と言われている。


 エンド公爵の長男で次期公爵なのは言うまでもない。


 更に、エンド公爵が溺愛している病弱な妹が一人いるらしい。


 第三王子たちはイケメンだが、この男は特にイケメンで、色々浮名を流している。


 婚約者はいるみたいだが、この国立総合学校にはいない。


 そのため、元々の女好きが暴走していたらしい。


 だが、いつの間にか一人の男爵令嬢に執着し始めたそうだ。


 多少強引な所があり、好きなものは絶対に手に入れるタイプだと聞いた。


 貴族科に属しており、成績はそこそこらしい。


 ちなみに、そのフサフサの銀髪はカツラである。


 実際は天辺のほとんどが禿げている。


 俺は前にそれを人目を気にしながら外していたのを陰から見てしまったので知っている。


 そんな彼の実家は第三王子オルベルトを支持する派閥のトップである。


 第三王子の婚約者を利用して相手派閥を突き崩したかったと見えるが、はてさて――






 次に宰相の息子である。


 名前はアドルフ・フォン・ドロッテ。


 学校では優秀な成績を維持しているため、青の賢者と呼ばれている。


 父親のドロッテ宰相は子爵だが、宰相に任命されている。


 彼は宰相の次男で、友人たちが集めた情報によると宰相の長男にコンプレックスを抱いているらしい。


 父親の宰相は王宮内では完全な中立派らしいが、この男は第三王子派に属してしまっている。


 こんな有様では確かに秀才の中の秀才と呼ばれているアドルフの兄には勝てないだろう。


 官僚科に属していて、青の大賢者と呼ばれていた兄ほどではないが、成績は優秀らしい。


 それが、余計に鬱憤を抱える原因になっているみたいだ。


 そして彼もいつの間にか一人の男爵令嬢に執着し始めたらしい。


 彼の父親が宰相になったのは、エンド公爵閥、クロス侯爵閥のどちらもが、互いの陣営の人間が宰相の座に座るのを良しとしなかったからだ。


 その結果、中立派で子爵家というある意味で無害な家であるドロッテ子爵が選ばれたに過ぎない。






 次に我らが戦略科で成績第二位のグスタフ・フォン・リューザックだ。


 学校では、金色の近衛騎士と言われている。


 祖先が代々近衛騎士だったという軍人の家であるリューザック家の一人息子として生まれた。


 大柄で体格が良く、銃や剣の扱いもうまい。


 戦略科卒業の生徒は1年ほど王都にある国防総司令本部に所属してさらに学ぶのが決まりだが、本人は国境司令部、特に最近きな臭い帝国との国境にある国境司令部に所属したがっていた。


 そのせいか知らないが、秋頃にあった成績上位五名の国防総司令部見学も拒否している。


 そんな事をしてから俺たち戦略科の面々はグスタフから距離を取った。


 学校にいる間は、見習いだとしても所属先は王都の国防総司令部なのだ。


 俺たちはどこに配属されようとただ所属先の上位存在から命令を聞いて任務を果たすだけだ。


 だから、俺たちは自分勝手な考えをしているグスタフを軽蔑している。


 それは軍人の考えではない。


 例え不本意な場に行かされる事になろうとも軍隊では上の命令は絶対なのだ。


 つまり、グスタフは才能はあっても軍人の器ではない。


 だが、本人は自分が成績二位なのは周りが妬み一位にする気がないからだと思っている。


 婚約者がいるにもかかわらず、ある男爵家の御令嬢に惚れ込んでいると聞いてからは戦略科の誰もが関わらなくなった男である。






 次にインター商会の会長の息子である。


 名前はレオパルド・インター。平民である。


 学校では、図書室の黒君と言われている。


 インター商会はクロースズ王国全体に根を張る大商会である。


 兵器開発、造船、金融から、生活用品、衣服、仕事に使う専門の道具等といった幅広い分野で色々やっている。


 インター商会は先代の会長が商会を立ちあげ、今代の会長で一気に規模を拡大させた。


 インター商会の次の次の跡継ぎである彼は、現会長の祖父、次期会長の父親、自分の弟という自分よりも優秀な存在に苦しんでいる内に、感情をなくしたらしい。


 表情も無表情で、無感情な口調で喋る。


 そのため、裏では鉄仮面なんて言われている。


 当然、跡継ぎとして問題ありという事で徐々に弟が継ぐのではないかと言われていた。


 実際、彼の父親は弟に跡を継がせたいと思っているみたいだったが、祖父の会長が跡取りは彼だと言っているので何とか持っている状態だ。


 本人はどうでもいいと思っているのかただただ動かず無表情無感情なまま図書室でずっと同じ席に座りながら本を読み続けた。


 だが、一人の男爵家の御令嬢と出会った事でほんの少しだけ感情を取り戻したらしい。






 次に男爵家の御令嬢。


 名前はアイリス・フォン・フォース。


 フォース男爵と侍女の母親との間に生まれた子供らしい。


 フォース男爵の正妻は子供を産む前に亡くなってしまい、男爵家唯一の子供になってしまったみたいである。


 彼女自身の性格は普通らしいが、一部の女生徒から蛇蝎の如く嫌われている。


 理由は、第三王子たちが彼女に惚れ込んでいるからだ。


 第三王子や宰相の息子、エンド公爵の息子、グスタフには婚約者がいる。


 それなのに、彼女に惚れ込んでしまったせいで、彼らの婚約者たちを蔑ろにしている。


 彼女が殿下たちに色目を使ったからではないか。


 婚約者がいる男に近付く尻軽女。


 等々、彼女に関する酷い噂や彼女がいじめられているという噂が流れたのは事実だ。


 友人によるといじめの噂は本当らしく、さらに第三王子たちが付きまとうせいで勉学に支障が出ている状況らしい。






 最後に、スール伯爵の息子である。


 名前はアルフレッド・フォン・スール。


 学校では、銀の知恵者と言われている。


 スール伯爵家の歴史はそこそこ長いらしいが、現在衰退しきっている。


 家は借金まみれなのに彼含めて男女合わせて四人も子供がいるので、最近屋敷も売ったそうだ。


 このことは社交界でも有名で、学校の生徒でも知っている者はいる。


 国立総合学校には授業料免除という成績で入り、貴族科でも五指に入る成績を維持している。


 その理由は、自身の家をもう一度復興するためらしい。


 成績優秀な次男坊の貴族なら、うまくいけばその優秀な血を欲してどこかの家に婿入りする可能性はある。


 そこから援助してもらえれば、スール伯爵家が復興する可能性は十分ある。


 今回、彼は犯行目撃者という立場の証人として学校裁判に参加する。






 ついでと言わんばかりに、エリーゼ嬢の事も教えてくれた。


 名前はエリーゼ・フォン・クロス。


 クロス侯爵の娘であり、この学校での評判はとても良い。


 嫌っている態度をはっきり見せているのは婚約者の第三王子、宰相の息子、エンド公爵の息子だ。


 第三王子が嫌う理由は恐らく、自身の劣等感を刺激される程優秀だからなのとその傲慢な性格が彼女の性格と相性が最高に悪いからである。


 自分を窘めるエリーゼ嬢の真面目な性格が気に入らないと周囲に漏らしていたとも聞く。


 エンド公爵の息子がエリーゼ嬢を嫌う真の理由は、家との関係だけではなく彼女に粉を掛けても無視されたからである。


 流石に第三王子に許可は取ったらしいが、常識外れのあり得ない話だ。


 よくそんな情報を手に入れたものだとこの情報を教えてくれた友人を称えた。


 宰相の息子がエリーゼ嬢を嫌うのは、自身が成績で勝てないからである。


 科での成績は官僚科のトップだが、学年全体の成績で見れば宰相の息子はエリーゼ嬢に一度も勝てた事がない。


 つまり、逆恨みである。


 他の三人に関しては、エリーゼ嬢と接点はないのでよく分からなかったそうだ。






 これらの情報や仮説を証明する証拠を得たおかげで、自分の仮説が正しいと確信できた。


 友人たちのおかげである。


 覚悟を決めて、観劇の間の扉を開けた。


 一瞬の沈黙の後、場が割れるぐらいの歓声が戦略科の席を中心に巻き起こった。


「――静粛に」


 裁判長役の校長先生の声が聞こえたと同時に歓声がピタリと止んだ。


 第三王子オルベルト、エンド公爵の息子ルーベル、宰相の息子アドルフ、グスタフは忌々しいものを見る目でこちらを睨み、インター商会の会長の孫レオポルドは無表情でこっちを見てきて、アイリス嬢は居心地悪そうにしていた。


 そんな彼らを無視して、俺とエリーゼ様は前へ進んでそれぞれの用意された椅子に座った。


 俺から見て対面が彼らである。


「これより、学校裁判を開廷する。案件は、エリーゼ・フォン・クロス様がアイリス・フォン・フォース様を階段から突き飛ばしたか否かです。では、検察役側から主張をどうぞ」


「はい。彼女アイリス・フォン・フォースを突き飛ばしたのはエリーゼ・フォン・クロスだと我々は確信しています。その証拠を提出します」


 検事役の宰相子息アドルフがそう言うと商会会長子息レオポルドが監視水晶の映像を映してから提出した。


 校長先生や裁判官役の教頭先生、学年担任の先生はどこか納得した表情をした。


 先手は向こうか。


「検察側の主張や証拠に対しての反論はありますか?」


「はい」


 俺はその証拠の疑問点を述べた。


 監視水晶を意識したかのような動き方、顔が見えない点、犯罪心理における矛盾などを校長先生たちに説明した。


 感心した表情の教頭先生はなるほどと思ってくれたみたいだが、校長や担任はまだエリーゼ嬢が犯人の可能性が高いと思っている雰囲気だ。


 まだ、こっちが劣勢か。


「弁護人役の主張に対する反論はありますか?」


「はい。あります」


 そう言って宰相子息アドルフは一つの証拠を提出して証人入廷の許可を申請した。


 教科書をバラバラにする映像を映す監視水晶が提出されて、そこで映ったスール伯爵の息子が証人として申請されたのですぐに許可が出された。


 彼は証人用の席に座った。


「それでは、これから証人尋問を始めます。証人、証言をどうぞ」


「は、はい。私は――――」


 そこからスール伯爵子息アルフレッドは自分の見たものを証言し始めた。


 内容は同じ、エリーゼ・フォン・クロスがアイリス・フォン・フォースの教科書をズタズタにした後、見ていた自分を脅した、である。


 検察役の宰相子息アドルフの質問にも淀みなく答えている。


 その様子を見て裁判官役の先生たちも時折頷きながら見ていた。


 それを見た四人は余裕そうな表情でこちらを見ていた。


 商会会長令孫レオポルドは無表情で、アイリス嬢はとりあえずそこに座っているといった感じだ。


 さて、ここから本当の勝負だ。


「反対尋問を始めます。弁護人役、証言に対する質問はありますか?」


「はい。裁判長。これからとても大事な質問をします」


 そう言って俺は伯爵子息アルフレッドの目を見た。


 伯爵子息アルフレッドはどこか困惑した顔付でこちらを見返してきた。


「あなたには姉妹がいますよね?」


 そう聞いた瞬間、伯爵子息アルフレッドは少し驚いた表情になった。


 質問の対策を練っていたみたいだが予想外だろう?


「弁護人役、その質問は今回の件とは関係ないはずですが?」


「あります。今回の件と絡んでいます」


 そう俺が言い切ると校長先生の質問打ち切りを匂わせる発言に安堵していた伯爵子息アルフレッドの顔が僅かに引き攣った。


 これは良い反応だ。


 校長先生は俺をどことなく怪訝な表情で俺を見た後、伯爵子息アルフレッドに質問の答えを促した。


「い、いますが……」


「そうですか。次に聞きたいのは、星の会の放課後や晩秋の学校祭翌日の放課後の証人やそちらの検事役側の方々のアリバイです」


 そう言うと観劇の間に沈黙が舞い降りた。


 エリーゼ嬢も俺を驚いた表情で見ている。


 検事役の面々は鉄仮面を除いて正気かという表情で見ていた。


 アイリス嬢も驚いた表情をしていた。


「弁護人役、その質問の意味は?」


「簡単な事です。この後の主張で私は真犯人を告発します。その時のために証人や検事役の方々にはぜひこの質問に答えてもらいたいです」


 そう言うと観劇の間はどよめきで覆われた。


 俺の発言の意味を理解したからだろう。


「静粛に! 弁護人役、その発言を取り消す事はありますか?」


「ありません。今指定した人物の中に真犯人がいます。その人物を次の弁護時間で告発します。だから、ぜひ、答えてもらいたいですね。自分が無実ならば」


「ば、馬鹿な……我々の中にアイリスを傷つけた人物がいるだと?」


 宰相子息アドルフが俺の正気を疑うような顔付で見てくる。


「血迷ったか。貴様」


 グスタフがどこか馬鹿にしている様な表情で見てくる。


「何というか、無様な悪足掻きだね」


 そう言って公爵子息ルーベルはやれやれと言わんばかりに両手を上げながら首を横に振った。


「……馬鹿?」


 商会会長子息レオパルドは無表情のままポツリとそう呟いた。


「面白いな。今年一番のギャグだ」


 無表情になった第三王子オルベルトはそう言って俺を睨んだ。


 証人の伯爵子息アルフレッドは居心地悪そうに目を逸らしてただ押し黙っている。


「裁判長、残念ですが答えてもらえないみたいですので、質問を終了させていただきます」


 俺はそんな六人を気にせず、質問の終了を告げた。


 その瞬間、観劇の間はシーンと静まり返った。


 みんなが俺を注視して俺のこれからの発言を聞き漏らすまいと息を殺していた。


 エリーゼ嬢も俺を真剣な表情で見ていた。


「では、証人に対する質問を終了します。これより、弁護人役による主張をお願いいたします」


 裁判長の言葉に場の空気が一瞬で張り詰めた。


 痛い沈黙の中、俺は声を上げた。


「これより、アイリス・フォン・フォース嬢を突き飛ばして怪我を負わせ、エリーゼ・フォン・クロス様にその罪を擦り付けようとした真犯人を告発いたします」


 そこで言葉を区切り、俺は右腕をゆっくり上げた。


 そして勢いよく、振り落しながら叫んだ。


「真犯人は、あなただ!」


 俺はそいつに指を突き付けた。


 その瞬間、その場にいた全員がそちらを向いて驚愕の表情を浮かべた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 正妃が異国の姫なら第3王子も妾腹じゃないのかな。
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