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婚約破棄~開廷宣言

 国立総合学校の行事である初冬の晩餐会にて、それは起こった。


 突如中心辺りで怒号が上がり、第三王子の婚約者が突き飛ばされて床に転がった。


「エリーゼ様だ」


「突き飛ばしたのは殿下だ……」


 近くにいた友人たちがそう言っていたが、正解だ。


 突き飛ばされたのはエリーゼ・フォン・クロス嬢であり、クロス侯爵家の御令嬢だ。


 銀の長髪の彼女は、容姿端麗で小柄な姿はどこか儚い印象を受ける。


 突き飛ばしたのは、彼女の婚約者であるクロースズ王国第三王子のオルベルト王子だ。


 中肉中背の彼は成績優秀で顔もイケメンだが、何処となく傲慢な感じがする。


 好き嫌いがはっきり分かれるその傲慢な雰囲気は今の国王一家の血筋とでも言うべきだろう。


 そんな第三王子の背後には、怒りの形相で眼鏡の宰相の息子が立ち、並ぶようにエンド公爵の色ボケ息子が立っている。


 その横に陰気なインター商会の会長の息子がひっそり佇み、大柄で筋肉質の男グスタフが威圧感を滲みだしながら無言で立っている。


 そんな彼らの前に立ちふさがった小柄なご令嬢が最近よく聞く噂の男爵家のご令嬢だろう。


 両手に杖を持ち、右足は包帯や添え木で固定されている。


「ま、待ってください。乱暴は駄目です。それにエリーゼ様が犯人とは――」


「アイリスは優しいな」


 そう甘い顔で言った第三王子は喋るアイリス嬢を片手で抱き込んだ。


 アイリス嬢が固まってしまっているが、第三王子は全く気にせずエリーゼ嬢に冷酷な表情を見せた。


「貴様、アイリスを階段から突き飛ばしたそうだな」


 自身の赤髪を弄りながら第三王子の忌々しそうに発した声の後に青色の髪の毛を逆立てるような勢いで怒気を発しながら宰相の息子が続いた。


「他にも彼女に対する嫌がらせの証拠は挙がっているぞ。エリーゼ・フォン・クロス」


「な、何の事ですか殿下。それに、私が彼女に嫌がらせとは、一体何の事です?」


 そう言ったエリーゼ嬢に、エンド公爵の色ボケ息子が鼻で笑って彼女に向かって嘲笑した。


 フサフサの銀髪をかき上げる仕草をしているが俺は知っている。


 あいつはカツラを被っているだけだ。


「とぼけちゃうんだ。レオ、あの監視用の水晶をあいつに見せてやれよ」


 そう言ってエンド侯爵の息子が隣の黒髪のインター商会の会長の息子にそう言う。


 レオと呼ばれた彼は無言で頷いた後、手に持った監視水晶を掲げた。


 すると水晶から光が漏れて宙に大きな映像が映った。


 そこには特上級の青いドレスを着た銀色の長髪の何者かの後ろ姿が少し遠巻きに映っていた。


 そいつは後ろから静かに近づいて階段を降りようとしていた荷物一杯の男爵家の御令嬢を突き飛ばした。


 階段から前のめりに落ちていった男爵家の御令嬢の姿が消えた後、痛そうな音が晩餐会の会場に響いた。


 その後、僅かにこちらをチラリと見て銀色の長髪の何者かは走り去っていった。


 そこで水晶の映像が終わった。


「監視水晶にバッチリ映っているぞ。貴様の犯行姿がな」


 映像と同じ特上級の青いドレスを着ているエリーゼ嬢は顔面蒼白になっている。


 アイリス嬢も証拠の存在を知らなかったのか呆然とエリーゼ嬢を見ていた。


 周囲の野次馬もここまでの証拠を見せつけられるとは思わず、ざわめきが治まらない。


「他にもあるぞ。貴様がアイリスの教科書を破いた瞬間を見たという証人もいる。スール伯爵嫡子アルフレッド!」


「は、はっ!」


 第三王子の大声に、やせ気味なスール伯爵家の息子が視線をあちこちにやりながら立ち上がった。


「君が見たもの、聞いた事を全てこの場で言いたまえ!」


「は、はいっ! エリーゼ・フォン・クロス様が確かにアイリス・フォン・フォース殿の教科書を破っていました! そして、今見た事を喋るなと自分を脅しました!」


「なっ……」


「と、言う訳だ。エリーゼ・フォン・クロス殿?」


 そう冷たい声で宰相の息子が締め括った。


 エリーゼ嬢は真っ青な顔で必死に首を振った。


「そ、そんな。私は何もしていません」


「往生際が悪いなぁ~。レオ、とどめを刺しちゃってよ」


 そう言ったエンド公爵の息子はまたインター商会の会長の息子にそう指示した。


 インター商会の会長の息子はこくりと頷いて、別の監視水晶を掲げた。


 今度は、男爵家の御令嬢の机の前に立つ特上級の青いドレスを着た銀髪の何者かが教科書を取り出して破っている後ろ姿が映し出された。


 するとスール伯爵の息子が教室の前側の扉を開けて入ろうとして立ち止まった。


 そこであっという表情をしたスール伯爵の息子は少しの間、銀の長髪の何者かの犯行を眺めていた。


 その後、教科書やノートを破っていた長い銀髪の何者かはスール伯爵の息子に近付いていった。


 そしてスール伯爵の息子の傍でいったん立ち止まってから少し背伸びをする仕草をして耳元に顔を近づけた。


 スール伯爵の息子がビクッとして怯えたのを確認してから何者かは教室から立ち去っていった。


 あの監視水晶は教室の後ろ側に飾られている監視水晶か。


 周囲のざわめきはひそひそと小さくなり、疑惑の目をエリーゼ嬢に向けていた。


 エリーゼ嬢は半泣きの状態だった。


「わ、私は本当に何もやっていないのです。信じてください。殿下」


 そう訴えるエリーゼ嬢は第三王子に悲嘆の表情を向けた。


 すると今まで黙って控えていた短い金髪の男が動いた。


 戦略科で成績二位のグスタフが前に出て第三王子とアイリス嬢の前に無言で立ってエリーゼ嬢の視線を遮った。


「まだそんな事を言うか。仕方がない。父上にこの一連の騒動を報告して婚約を破棄させてもらう。流石に他人を虐げて恍ける様な女に俺の妻という立場はふさわしくない。当然、退学処分の後に然るべき報いを受けるだろう」


「そんな……」


 そう言ってエリーゼ嬢は体を震わせながら悲痛に苛まされたように顔を歪ませた。


 今の国王の対応からして、苛烈な罰が侯爵家に向けられるのは間違いない。


「異議のある者はいるか!」


 宰相の息子の発言に野次馬たちは目を逸らしたり侮蔑の目でエリーゼ嬢を見ていた。


 エリーゼ嬢の取り巻きだった者たちも見捨てたのか誰も何も言わない。


 悲しみ、無力感、諦め、そんな負の感情で染まる彼女の顔を第三王子、エンド公爵の息子、宰相の息子、グスタフたちは侮蔑した表情で見ていた。


 インター商会の会長の息子は無表情で突っ立っており、男爵家の御令嬢は周りの険呑な雰囲気にオロオロした様子だった。


「異議のある者はいないようだな。やはり悪は正しく裁かれるな。この汚れた女め」


「……?」


 その時、俺はなぜか違和感を覚えた。


 その違和感は、ある仮説を俺の脳内で素早く組み立てた。


 決して無視できるようなものではないその仮説はエリーゼ嬢の無罪を確信できるものだった。


 もし仮説が正しいなら間違いなく冤罪が発生するが、エリーゼ嬢にとってこの場の空気は極めて不利だ。


 このままでは誰も庇ってくれずに、エリーゼ嬢の学校生活、いやこの先の人生が終わってしまう。


 だから、俺は机を思いっ切り叩いた。


「異議あり!」


 大砲や銃の発砲音でかき消される戦場で大声は必須の技能なので、俺は晩餐会の会場に響き渡るように声を発した。


 当然、晩餐会出席者の視線が全て俺に注がれる。


 友人たちも呆気に取られている顔付きだったが、それを視界の端に追いやりながら俺は歩いてエリーゼ嬢の前に立った。


 第三王子一派の俺を見る目付きは胡乱なものを見る目だったり、睨みつけるように鋭い目をしていた。


 俺はそれを気にせず、第三王子に発言の許可を求めた。


「アラン・フォン・バーデムと言います。殿下、発言をお許しいただきたく……」


「バーデム辺境伯の四男坊か。その女を庇うつもりか?」


「その通りです。殿下」


 そう言うと周りがまたざわめき始めた。


 第三王子の一派が憎々しげな表情で俺を見てきた。


 だが、俺はそれを気にしない。


「何を疑問に思って貴様にその女を庇うなんて選択肢が出てきたのだ?」


 第三王子は低い声でそう言って俺を睨みつけてきた。


 俺はエリーゼ嬢の視界になるべく第三王子たちが映らないように調整しながら答えた。


「無論、その証拠に疑問があったためです」


「何を馬鹿な事を……」


 そう言い放ったのは宰相の息子だったが、俺は気にせず言ってやった。


「その証拠にエリーゼ様だと確信できる証拠はありません」


「君の眼は節穴かな? ちゃんと映っているじゃないか。特上級の青ドレスを着た銀の長髪のエリーゼ・フォン・クロスがね」


 そう爽やかに笑いながら言ったエンド公爵の息子の目は全く笑っていない。


 その隣に立つインター商会の会長の息子は無表情で俺を見ていた。


「そうですね。ですが、顔は映っていません。別の誰かがエリーゼ様を嵌めようとした可能性があります」


「ならば、スール伯爵嫡子アルフレッドの証言はどうなる? 彼が嘘を吐いたとでも?」


 グスタフの言葉に俺は鼻で笑った。


「その通りです。流石は戦略科の成績第二位のグスタフ様でございます」


 そう言うとグスタフの顔つきが悪魔みたいな凶悪な表情になった。


 明らかに小馬鹿にしているのが気に食わなかったらしい。


「実戦を知らない一位の頭でっかちが偉そうに……」


 そんな挑発染みた怒りの声を無視しして俺はグスタフを黙って見返した。


 グスタフの目には激情の色が浮かんでいた。


「フハハハ!!」


 突然、第三王子が笑い出した。


 そちらに目を向けると笑うのを止めて俺を見た。


 その目にはグスタフ以上の激情が宿っていた。


「貴様、そこまで言うならエリーゼが犯人ではないという証拠を出せるのか?」


「そうですね。ですがその前に彼女がいつ被害にあったかを聞きたいです」


 そう言って俺はアイリス嬢の方を見た。


 彼女は少しだけ怯えた表情をしていた。


「答えていただけますか。あなたが突き落とされた日時や教科書を破かれたであろう時間帯を」


「え、えっと……」


「答える必要はない。アイリス」


 そう言って宰相の息子は遮ろうとしたが、アイリス嬢は答えてくれた。


「確か、突き落とされた日は晩秋の学校祭の翌日の放課後です。教科書は、三ヶ月ほど前の星の会の放課後と次の日の朝の間までに破かれたと、思うんですけど……」


 男爵家の御令嬢は言葉の節々を詰まらせながらそう言った。


 晩秋の学校祭は先週にあった催しだ。


 確かにその後でどこぞの男爵家の御令嬢が階段から落ちて足を骨折したという噂が流れた。


 犯行時刻と噂が出た時期に違和感はないな。


 教科書の方も後で購買部の再購入日や周囲の聞き取り調査でいつ犯行が発生したかぐらいすぐ分かるので嘘ではないだろう。


「エリーゼ様。その時の時間帯にあなたが別の場所にいたという証明はできますか?」


「あ、わ、私……」


 少し震えている彼女はどちらも一人で寮の部屋にいたと掠れる声で言った。


 女子寮は学校の敷地の一番奥にある。


 正門から見て敷地の手前に校舎があり、奥の敷地に校舎側から順に男子寮と女子寮がある。


 校舎裏口や男子寮、女子寮の監視水晶の設置場所はそれぞれの校舎の裏口や寮の生徒用入口ぐらいだ。


 窓からなら簡単に監視水晶に映らずに出入りできる。


「つまり、貴様に無罪を証明する術はない」


 第三王子がそう言った瞬間、周りは完全に疑惑の目をエリーゼ様に向けており、俺をただの道化として見ていた。


「これで決まりだね。エリーゼ・フォ――」

「そうでしょうかね」


 エンド公爵の息子の言葉を遮って俺はそう言った。


 そして俺はエンド公爵の息子に近付くふりをして、その隣に立つインター商会の会長の息子が持つ二つの監視水晶をさっと掠め取った。


 少し驚いた雰囲気を出したインター商会の息子は俺からそれを取り返そうと無言で詰め寄ってきたが、それを軽い足払いで体勢を崩させた。


 すぐに距離を取った後、俺は片方の監視水晶を起動させた。


 少しして、ある場面を映し出したのでそこで映像を止めた。


 その映像には、先ほどと同じアイリス嬢が突き飛ばされた直後の場面が映し出されていた。


 もう片方の水晶の映像も起動して、誰かが教室の後ろの扉から入ってアイリス嬢の机に近付いていっている瞬間の場面でその映像を止めた。


「殿下、これらの映像、本当に疑問はありませんか」


「何がだ?」


「例えばです、殿下。あなたがこういった事を仕出かそうと思った時、どう考えて行動しますか?」


「は?」


 唐突すぎたようで第三王子はポカンとしていた。


 なので、俺が答えを言った。


「普通、この水晶の存在を頭に入れて行動しませんか? こういった事は分からないようにするのが普通です」


「ふん、衝動的な行動だったらそこまで考えないだろう」


 そう言って宰相の息子は俺を侮蔑した表情で見ていた。


 その反論が通じるのは、晩秋の学校祭の映像がなければの話だ。


「ならば、晩秋の学校祭の映像を見てください。銀髪の何者かがそこの彼女を今から突き飛ばします」


 そう言った俺は映像を少し巻き戻した後、ゆっくり再生させた。


 アイリス嬢が階段に近付いていって降りようとしていた。


 その直後、特上の青いドレスを着た銀髪の何者かが走ってきて彼女を突き飛ばした。


 アイリス嬢は悲鳴を上げながら前のめりに階段の下に落ちていった。


 その直後、痛い音が響いた。


 そして、銀髪の何者かがチラリとこちらを僅かに見て前を見た瞬間、映像を止めた。


「おかしいと思いませんか? 今の映像」


 俺は宰相の息子にそう言ってやった。


 宰相の息子は鼻を鳴らした。


「どこがだ」


「もう一度再生しますよ」


 そう言って俺はほんの少し巻き戻した。


 痛い音が鳴った後、銀髪の何者かがこちらをチラリと見てから前を向いた所でまた映像を止めた。


「この銀髪の何者かは間違いなく監視水晶の方をチラ見しているんですよ。でも、そのまま走り去ろうとしているんです」


 そう言って俺は映像を動かした。


 すると、銀髪の何者かが走り去っていき、階段の下あたりからアイリス嬢の呻く声が聞こえた所で映像を止めた。


「つまり、監視水晶の事を認識していたにもかかわらず、彼女を階段の上から突き飛ばすという暴挙に出たんです。このチラ見の後の反応に驚きがなくそのまま走り去っているので間違いありません」


「ただパニックになっていただけじゃないの? それなら辻褄が合う」


 エンド公爵が少し焦ったようにそう言った。


 よほどエリーゼ嬢を犯人にしたいらしい。


 エンド公爵とクロス侯爵は敵対派閥のトップの家同士だからだろう。


 この機に乗じて敵対派閥を潰す算段でも立てているのだろうか。


「ならば、なぜこの監視水晶を今日までの一週間、ずっと放置したのでしょうか。自分が犯人だという証拠が映っているのですよ。持ち去りませんか? 別の監視水晶を用意してすり替えませんか? この一週間の間にそれぐらいはできるはずです」


 監視水晶はそこそこの値段はするが、辺境の男爵の子息でも簡単に買える。


 1個や2個すり替えるぐらいは簡単にできる。


 そう説明すると周りは沈黙した。


 俺は言葉を続けた。


「この教室の映像もそうです。確かにこの水晶は教室の後ろの壁の上の方にありますが、別に回収は不可能ではありません。足場にできる物さえ用意すれば取れるのですから」


 そう言って映像を動かした。


 教室後ろ側の入口から侵入した青いドレスの銀髪の何者かがアイリス嬢が使用していると思われる机に近付いて彼女の教科書を取り出した。


 そして、それをビリビリに破っていた。


 そこを教室前側の入り口から入ってきたスール伯爵の息子がアッという表情で見ていた。


 ビリビリに破り終えた銀髪の何者かは入口で唖然としているスール伯爵の息子の傍で一旦立ち止まって何かを囁く素振りを見せた後、そのまま教室を立ち去った。


「顔はやはりどちらの映像でもちゃんと確認できません。まるで、この監視水晶を意識しているような行動です。つまり」


 そこで言葉を区切って、俺は周囲を見て、断言するように大声で言ってやった。


「エリーゼ様を嵌めようとした何者かが、この映像を撮るためにこのような暴挙をしでかしたんです! 顔が映っていないのは当たり前です。なぜなら、その顔はエリーゼ様ではなく真犯人の顔だからです!」


 そう言うと周りはまたざわめき始めた。


 野次馬連中は困惑の表情で隣の友人たちや第三王子たちを見ていた。


 第三王子たちも二人を除いて苦い表情になっていた。


 まるで認めたくないが認めざるを得ない時の表情になっている。


「……だが、エリーゼ・フォン・クロスがこの映像に映る人物だと否定する証拠はない」


 そう言って例外の一人で無表情のままだったインター商会の会長の息子が小さな声でそう言った。


 ちなみにもう一人の例外のアイリス嬢は完全に戸惑っており、どうしていいか分からないみたいだ。


 手強い。伊達に状況に流されない無口無表情の鉄仮面か。


「そちらの証拠も絶対的な証拠とは言えないはずです。顔が映っていない」


「偶然の一致がそう何度も起こるとでも? その銀の長髪、その特上級の青いドレス、履物、背丈、目撃者。こちらは全て揃っていて、そちらは難癖だけだ」


 立て直したエンド公爵の息子がそう言って口角を上げた。


 相変わらず、目が笑っていない。


 周囲の人間の反応は、大体半々と言った所か。


「殿下、このままでは平行線です。とりあえず、一旦この場はお開きにしてお互いに冷静になるべきです。そして、一週間後に学校裁判を開きませんか?」


 その言葉に周囲が驚きの声を上げた。


 学校裁判。


 それは、自身の立場を掛けた戦いの場である。


「ほう……」


「当然、エリーゼ様が犯人なら、私はこの学校を去りましょう」


 そう言い切ると俺の友人たちを中心にざわめきが強くなった。


 俺が頼む側なので、これは絶対条件なのだ。


 そして向こうが頼まれる側なので、向こうに負担がかからない条件にしないといけない。


 そうでないと受けないだろう。


「しかし、エリーゼ様が真犯人ではないのなら、その真犯人が学校を立ち去る。これでどうでしょうか?」


「追加だ。エリーゼが犯人なら、当然本人も一緒に退学処分だ」


 第三王子はそう言って了承した。


 俺はエリーゼ嬢の方を見た。


 少し体を震わせるエリーゼ嬢は涙目のまま俺を見上げていた。


「エリーゼ様。申し訳ありませんが、それでよろしいでしょうか?」


 というより、この条件で飲んでもらわないと第三王子は本気で明日、明後日でエリーゼ嬢との婚約を破棄して、退学処分を国王から学校側に働きかけて実行させるだろう。


 エリーゼ嬢もそれを理解しているのかコクリと頷いた。


 それを確認した俺はすぐに肯定の意を伝えた。


「その条件を飲みます。殿下の御英断に感謝いたします」


「よい。貴様のその意気が気に入っただけだ」


「その御言葉に感謝感激で御座います」


 そう無感動に言って俺は頭を下げた。


 生徒会長でもある第三王子は大声で一週間後に学校裁判を開く事を宣言した。


 とりあえず時間は稼げたし、場の流れも劣勢から互角にできた。


 そして何より、学校裁判の約束もできた。


 後は俺の仮説が正しいかどうかだ。


 この一週間はその証拠を集められるかどうかが鍵となるだろう。


 早速、協力者を募らなくてはいけない。


 そのままエリーゼ嬢が犯人だと演説する第三王子を尻目に俺はエリーゼ様に手を差し伸べた。


 呆然と見上げていたエリーゼ嬢は涙を零しながら俺の手を取った。


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