12-4. 前触れ
ドカ雪積もると嫌すぎるんですが?
全然関係ないですが2月14日はバレンタインでもありますが、パレンバン空挺作戦の日でもあります。
(午前10時 練馬駐屯地 第二グラウンド )
「よーし、未来の工兵たちよ!
今日は先輩工兵、いや施設隊員である俺様
田中正明大尉が庁舎建設の方法を教えるぜ!
いいか、まずは地震から守るため植杭をするからハンマーを持て!」
「馬鹿者!
勝手に建物を増やそうとするな兄貴!
それに旧軍の兵隊が出たと恐れられるだろうが!」
「出たよ…いい子ぶってる田中2佐
頭硬すぎるんだよこの頑固者
これだからバタはうっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ」
「んだとこの土方!」
「やんのかぁ!」
朝から元気にケンカですか。
嫌になっちゃうわねぇ、似た顔の人同士が喧嘩なんかして。
仲がええのはええことやけど沖田宏人二曹は後輩たちが萎縮しないか心配になるわぁ。
萎縮というより修羅場を見て飯ウマしてる自候生もいるじゃない!
この子たち…即応に入ってほしいわねぇ?
素質あるわよ、狂戦士の!
ところで瑠香…アンタは今、どこの空を飛んでるの?
早く帰ってらっしゃい。
(正午 習志野演習場 上空500メートル)
「降下6分前ぇえ!」
この日私はFF課程の最終行程を迎える。
自由に空を飛び敵状の把握と偵察及び強襲を行うための存在。
ほんの一握りの精鋭に私もその敷居を跨ぐことになった。
基礎降下課程の頃は飛行機のハッチから身を乗り出すこと自体、怖くて怖くて仕方がなかったけど今は違う。
私は今、凍てつく空を飛びゆく権利を得た。
飛行機のお尻のところの…あれ、なんだっけ?
車とか乗り入れできる…なまら大きいドアっていうのか?
そこから私は今から飛び落ちる。
さぁやってやろうじゃねぇか!
「降下3分前ぇ…ぅ!」
今日の降下長は大林3佐、次に飛ぶのが基礎降下課程でお世話になった村田三曹で。
今さっき、空自の降下ガイドのお兄さん『ぅ!』って言ってたよね?
なんか苦しそうな感じの声が聞こえたんだけど?
後ろに何かいるの?
それとも翼者が襲撃してきたの…あ…なんだ…って!
『おっしゃあ、お前ら空挺降下するぞ!』
いぇえぇぇぁぁあァァァァァァァ!!!
あーい、よっりっあっおっきー!
おおぞーらに、おおぞーらに!
「…いつこの飛行機に乗ってたんですか?
そういえば2月14日はパレンバン空挺作戦の日
水上隊長さんは元気なのか
財前、放っておいていい
義烈さん達は頭がおかしくなってるんだ
他の連中も放っておいていいから」
大林3佐が気まずそうに空自のガイドさんに謝ってるのを私はもう何も感じないようにして空を飛ぼうと思います。
Aサビくらいまで歌い始めましたね。
私の初陣が潰されたような気がするんだけど?
だいぶ前もあったなこんなこと。
彼らの服装はいつもの降下服と降下外皮とヘルメットに手袋…おかしいなぁ陸自使用の落下傘を背負っていますが、後で整備隊の人たちに怒られるんじゃないかと不安です。
でもなんだろうこの胸騒ぎ。
ずっと嫌な感じがこの飛行機の中から感じられるんだけど?
「過去の空挺隊員達の遺構だか知らないが俺の娘の邪魔をするとはいい度胸だ」
「お…お前はこの前の!
えっ…なんで、私の周りの人は気が付いてないの?
それに時間がゆっくり流れてる?」
大林3佐も村田三曹も義烈さん達もみんな気がついていない。
ドアの淵というかギリギリのところの物資投下用のレールを踏まないように軽く仁王立ちをしている黒い影のようなもの。
翼なのかわからないけど、首の部分から数本の帯のようなものが垂れている。
前回会った時と違うのは、顔がしっかりと黙認できること。
FF用の落下傘を背負って奴が…あれが…お父さんが立っている。
[コンボイ1番機
コース良し・コース良し
ヨーイ・ヨーイ・ヨーイ…降下降下降下!]
大林3佐が後ろ歩きしながら飛び降りているのをみて今気がついた。
目の前にいたあれは姿を消して、探そうとしていたらみんな飛び始めてる!
気持ちを切り替えろ、せっかく願った空の中だぞ!
水泳の飛び込みのように前のめりになって落下してい…!?!?!?!?!?
今私はどこを向いているんだ!
どっちに頭を向けてる?!
「風圧が…体の制御が…持っていかれる!!
身体中がばたついて…ダメだコントロールできない!
あっがぁぁぁぁ!!!」
『落ち着いて…深呼吸をしろ
無理にばたつかせれば、コントロールを自ら失うことになるぞ?
手足を広げて…様になってきているな
そうだ風を感じ取りなさい』
「どこから…声が?」
「今お父さんは瑠香と一緒になって飛んでいるんだ
修お兄ちゃんの時もそうだったように
そろそろ開傘するぞ、レバーを思いっきり弾け』
開傘させるために紐を引いてるけど、固くて引っ張れない!
左手首ににつけている気圧計が地面に近くなってきているから上がってきている。
危険域まで行ったら傘を開く前に激突して死ぬ。
落ち着け…まだいける。
まだ猶予はあるから何がなんでも引っ張ってやれば…引っ張れば…引っ張れば!
『ごめんごめん…少し意地悪してしまったよ
さぁ傘を開くべ…アチャと一緒に飛ぼうな』
「うわぁおぁ!」
『ふははは…瑠香は軽いからな
少し反動が大きく出て、5メートルくらい上に登ったか…
いやぁ、落下傘はいい物だ」
傘を開いた瞬間に本体から離れて5メートルほど上空に登ってしまった。
それでもなんとか制御はできているからいいけど、私の体に纏わりつく黒い影…いや、お父さんが私の体を半分乗っ取っているような感じが…。
それなのになんだろう、とても安心するというか。
『一つ俺の夢が叶った
陸将になった場合、空を飛ぶことはできなくなる
俺が降下長になって3人で空を飛びたかったが
…ありがとう、いい夢を見れた
お前はできる子だ、落ち着いてやればできる
成長した姿を見れて幸せだべ
そろそろ着地だぞ、頑張りな』
落下傘の両手に握りしめたハンドルをグッと引っ張って失速させ、気がつけば地面に着地していた。
周りを見ても、さっきの真っ黒な影を纏ったお父さんの気配はない。
一緒に降下した人たちも、義烈応援団も心配して駆け寄って来てくれたけど大林3佐だけはずっと私を見て震えていた。
ずっと親父さんがそこにいた、飛び方から何からまで同じだったと顔を青ざめさせている。
忍さんも何故か私のことを…私の背負っていた自由降下用の傘を睨んでいたし。
何がどうなってるんだ?
サラサラし過ぎるくらいですがサラサラした文章です。
今回の空挺降下方法は、瑠香がやったように水泳みたく飛び込むように落ちます。
普段の降下はドアの端っこを踏み蹴って両足閉じて飛びます。
影もどきのお父上参戦しました。
影がやったように空挺降下ができるのは陸将補(上から3番目)までです。
夢を叶えたかった本体の代わりに飛んだのでしょう。




