12-1 束の間の平穏
いつのまにか一月も後半に差しかかってる。
悔しい
「1降下ー、2ぃ降下ー、3降下ー、4降下ー傘開けー!」
「だいぶ破壊神も様になってきているな
空挺隊員として、陸自の人間としても」
「やっぱり大林3佐はそう思われますか?
私は、破壊神がのびのびしすぎだと感じます
どこぞの師団長に怒られないかヒヤヒヤします」
「小島はそう思っているのか…俺もだよ
まぁどこぞの師団長は猫可愛がりが過ぎるからなぁ
過保護が酷くなったと倅から聞いたが」
「「それよりもあいつは、落下傘が似合うな」」
財前瑠香一等陸士は順調にいけば陸士長になれそうですが、今ものすごく緊張しています。
年明けすぐの訓練で、今ようやく高高度降下低高度開傘の操法について勉強中です。
教官たちが見る中で、謎の一ヶ月の特訓で学んだ知識をここで発揮して、ある意味実技テストのようなものをやっております。
何もできていなければ、空を飛ぶことは愚かFF課程そのものから追放されるので必死になってます。
「…着地用意…てぇ!」
みんな見てる、みんな見てる、みんな見てる!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
上手くできたよね、出来たよね!
なんで、高台みたいなところから義烈の人たちも見てるのさ。
しかもみんなお酒飲んでるし、水上一尉は点数つけてるよね?
みんなやいのやいの言ってるよね?
遠目から見てわかるよ…あの、運動会とかお遊戯会じゃないんだよ?
試験だよ、これ言っておくけど?!
ふっざけんなって…待て待て待て待て待て待て茶。
応援団やってるよね…そこで応援しないでよ!
アーッ、これもうわっかんねぇなぁ!
「財前、実技は見せてもらったぞ
一ヶ月間のブランクが如何程の物かだが、残念だっだな…結果は合格だ!
次回から実際に空を飛ぶから死ぬ気でやれよ!」
「レンジャァァァァァァ!」
「とりあえず今日はここまでだ」
「ありがとうございました!」
「だが一つだけ、欠点がある
いつもお前が降下する際にわっしょーいって言ってるだろう?」
(なぜバレた…どこからこの情報が漏れたんだ?)
「これは空挺降下と同じなのだぞ?
言っていなかったな…降下失敗ということだ
腕立て80回やろうか」
れんびゃぁぁぁがぁぁぁ!!!
「泣け泣け…可愛いやつめ!
あっ…義烈応援団の皆様も腕立てを80回やってどうぞ」
俺らもかー!
ふざけんなって聞いてねぇぞ!
神前お前…どうにかしろよ!
大林少佐殿のサイコパスぅ!!
ニャンコ頑張って…俺たちおじさんも頑張るから!
ふざっけんなよ、何がおじさんだ忍ジジイ!
腕立て伏せをさせて今は腕を使わせなくすればいい。
今はこれがあいつの最高であればいいさ。
おまけに別口の過保護連中も道連れだ。
さて瑠香のことは放っておいて、俺は仕事に戻らないとな。
瑠香は色々と無理をしすぎているが、立派な空挺隊員になったよ。
空挺隊員のモットー…降下搭の中間付近の鉄骨にもつけてある『精鋭無比』だが、男でも根を上げる奴が多いなかでwacなんてなりたくても…という声が多い。
男性でも女性空挺隊員の存在を忌避するものも少なからずいる。
畑口三曹と秋葉三曹の後に続く、瑠香も当然だが嫌がる声も聞いた。
だがそれすらをも踏み倒し前に進む姿や、落下傘の重圧に負けぬ力強さ…何より親の七光りと鼻で笑う連中が度肝を抜く根性と勇敢さ。
努力に努力を重ね、満足することなく精鋭を目指しFFを狙うその心。
まさに…そうまさに
「精鋭無比…真に誠の挺進兵だ
大きくなりすぎてしまったなぁ瑠香ちゃん
大林にぃちゃんはちょっと悲しいよ」
「この前の100キロ行軍であいつ、歩きながら寝てましたし
いきなり列から抜けたと思ったら、いつの間にか戻ってきていて、何したか聞いたら笑顔でゲロ吐いて隠したって言ってましたし」
「こじまん…それは可愛い物だろ?
親父と同じ二階から飛び降りからの五点着地
もう、倅の修がやったように娘の瑠香もやってるだろう
血が濃過ぎるだろ…おかしくないか?」
「俺は違う話を聞いたが…
どちらにせよ、あんなに小さくて可愛かった五歳児がもうやだぁ!」
「大きくなっただろう瑠香は?
空挺隊員としての力がついたと思わないか
だからこそ心配なのだ、ばやしもこじまんも思うだろう?」
「そうですね、財前中隊ちょ…!
なんですか、その格好は?
どうして全身が黒い影みたいなものに?」
「大林さん、俺らの体ががんじがらめになってるのか動かないですよ
それに、この人は俺たちの知ってる中隊長じゃないです」
いつのまに俺たちの背後をとっていた?
それに真っ黒い影みたいなものだと思ったが、これは雨傘をかぶっている様にも見えるな。
だが背中から伸びてる二本の固く細い帯の様なもの。
察するに鱗のあるスキー板か?
なるほど、今目の前にいるのは習志野から出て冬季遊撃部隊にいった凍てついた目をした隊長じゃないかよ!
身体中に影が這い回る同時に弄られる様な感覚。
それに翼者という敵の容姿に似ているという点は、全てを捨てて化け物になりつつあるんですね。
「まだ確証がないから誰とは言えないが
我の部隊に裏切り者がいる…しかも複数だ」
「何ですって…習志野にいるっていうのですか!?」
「こじまん落ち着け…
隊長はもう誰が裏切り者が誰かわかっているのですか?」
「あぁ…だがここであの子に知らせば酷く傷つくであろう
それに我の部隊の火力発揮にも支障が出かねない
絶対に知らせないでくれ、そして俺の代わりに守ってくれ」
頼んだと声が聞こえると共に影はどろりと溶けるが如く消え去っていった。
先輩の言う裏切り者は誰なんだ?
隊長の言いたい事がなんとなくだがわかるんだよ。
この駐屯地にいる特殊作戦群の連中とかいうべき人間には一定数の隊長の信者というべき人間たちがいる。
その連中の中にまさか?
それとも他にもいるというのか?
瑠香が習志野に来てから、彼女の周りの視線がどこか執拗だとは思っていたが関係があるのかもしれん。
瑠香と義烈応援団が腕立てをやめて走り始めたな。
瑠香には悪いが一度、習志野から板妻や朝霞でもいい。
ここから避難させるべきなのかもしれない。
さぁどうすればいいかな。
瑠香はまた一つステップアップするために空挺降下の中でもエリートとされるFF課程に身を投じているのです。
周りの人から成長していると喜んでもらえているのは彼女は知りません。
さて黒い影が出てきましたが、その出立ちは冬季遊撃部隊の訓練時の姿をした誠です。
影が話していたことも気になりますがここまで




