11-0 悪夢
夏休みなんて知らない子なんて思いながら今回の話を、どうするか考えていました。
夏バテですね
あれ、ここどこだ?
なんだろう聞き慣れない音が聞こえてくる様な?
私なんでこんな心が苦しいんだろう。
ずっと下を向いてるような。
耳障りな音は、プロペラの音…って事はここは飛行機の中ってこと!?
そうだ、この格好はまさか。
『時間の様だな、サァ逝くか』
嫌だ、行きたくない!
今行けば私は、この手で人を!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
体が…勝手に動く、止めたくても…足が勝手に出口に向かって行ってる。
黄色の紐が天井に吊られているのはそういう事なの?
周りにいる人たちの服装も、みんな私と同じ格好。
なんとなく今から起きるのが空挺降下だってわかる。
けどこの服装は陸自の迷彩じゃない。
『さて降りるぞ』
やっぱりこの服装は昔の…挺進兵の降下服装だ。
私の口から出ている声の主は間違いない。
空挺の神様…忍さんの声だ!
私、今空から飛び降りてる?!
憎いくらいに空が青いし、なんだか暑く感じる。
『ひとーり、ふたーり…ちょうどいいこれを使えば』
何この暑さ!
…燃やしてる、私草と一緒に何かを燃やしてる?
嫌だ…嫌だ、やめて!
私は人を殺したくない、人を殺すなんて嫌だ!
あれ、また場所が変わってる?
夜なのに明るくて…また何かが焼ける匂いと、鉄の匂い。
地面が赤黒くて、空には絶え間なく閃光が見える。
ここは…
「地獄だ」
「そうだ、ここは地獄だ…地獄だよ」
体が動かない…身体中にどす黒い液体が纏わり付いてくる!
鉄の匂いに混じって油の様な匂いがする。
機械で使う油じゃない、嗅いだ事はないけど脂だってなんとなくわかる。
振り解こうにも余計に絡みついてくる!
体の中を弄られるみたいで気持ち悪い。
視線が声の主を捉えている、わかりたくないけど見てしまう!
やめて…もうやめてよ!
「なぜ拒むんだ?
あんなに優しくしてあげているのに?
まぁいいか、それよりニャンコ
君は英雄だろう…学友を助け、後輩を救いましてや駐屯地で上官を敵から救い出し、その大地を守った
なら身体中キズだらけで、ボロボロの俺のことを助けてよ
見てよ、俺の体ぁ…すごい血みどろだろ?
痛いだけじゃなくて、すごく寒いんだ」
薄いグレーにくすんだ緑色のまだら模様の服の下は真っ赤な血でベタベタになってる。
いや…何か胸の中で動いているものが見えるけど、見たくない!
それなのにこの人は、微笑みながら歩いて近づいてくる。
「ぁ…ぅぁ…ぐぅ!」
「なんで…どうしてそんなに拒むの?
俺はニャンコの事を愛しているのに?
どうして助けてくれないんだ…だから、ほらみんなが焼け死ぬぞ」
嫌な感覚が足元からする。
やけに柔らかいのに所々固い様な…!
嘘だ、こんなの見たくない…嘘だと言ってよ。
なんでみんな煤けてたり真っ黒に焦げていたりするの!?
あちこちから悲鳴が聞こえる…鉄と何か焼ける匂いが強くなってきたし、私まで焼ける様な感じがする!
「助けて…神前、ねぇ助けて瑠香!」
「千春…ねぇ…?」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
皮膚が焼ける、肉が溶ける!」
「健太にぃ…?」
「神前…水を…水をかけてくれ!」
「室戸さんそ…待って」
体が動かない、この変な黒い液体のせいだ!
抜けれれば…みんなのことを助けられるのに!
なかなか抜けられない!
「喉が…喉がぁ」
「小野しちょう…水を…くそ…体が!」
「身体中が溶けそうだ…喉が張り付いて苦しい」
「佐藤…士長ぉ!」
「まだ死ぬわけにはいかんねん…助けて」
「沖田二曹…沖田二曹!」
「お願い…助けて…お願いよぉ」
「向井一尉…待ってください!
今助けますから!」
「…何を言っている、お前は誰も助けてなどいないぞ」
「たっ…田中3佐?」
「みんな…お前を守ってくれていたのに裏切るの?」
「お兄ちゃん、そんなことないよ!」
「じゃあなんで誰も助けてくれないんだ!
助けてくれよ瑠香ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「お父さん…お父さん!
もう嫌だ、やめて…やめてよお願いもうやめて!」
みんなが倒れていく…真っ黒い隅の様なものになって消えていく。
無念の色を見せて…恨む様な目線でみんなが倒れてる。
みんなが最後まで私に手を伸ばしてきたのに、何もできない。
唸り声も、悲鳴も何一つ聞こえない。
バタバタとみんなが倒れて、灰になってそれで消滅した。
「富にぃ…結衣さん…結希くん…そんなぁ!?」
結衣さんが結希くんを守る様にして、それに覆い被さる様に富にぃが守ろうとしている。
みんな私が殺したんだ、だからこんなことになったんだ。
「かわいそうに…誰一人として助けられないんだ
可哀想な俺の愛おしい空の子よ
その力を解放すれば助けられたはずなのになぁ
よしよし…かわいい俺の子」
気がつけば私は、忍さんの血だらけの胸の中に埋もれていた。
鉄と硝煙と嗅ぎたくない何かの匂いに包まれて、この前感じた嫌な感覚と一緒を思い出した。
習志野で忍さんに抱きしめられた時、ものすごく寒くて暑くて苦しくて抜け出せれない感じ。
底無し沼のように、ずっとへばりすいてくる感触。
周りから真っ黒く消えてなくなってしまう様な、消えない負の感情のループ。
これが地獄ってことなのか…。
「さぁ力を解放してあげよう…ここにおいで
俺の可愛い瑠香、俺の愛おしい愛娘よ」
闇が迫る…何も感じなくなる。
心に残るのは空虚と、憎悪に絶望。
今にも消えてなくなりそうだ、嫌だ…嫌だ
嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「るっちゃん、しっかりしろ!
おい、瑠香…瑠香!」
「へぇ…お父さん…お兄ちゃん…なした?
…あれ、2人とも…無事だ」
「無事とかそんなこといいから、何があったんべ!
修、リビングからティッシュ持ってこい!」
「おっ…おう!」
壁にかかっている時計は夜中の一時を指していた。
ここはお父さんの家で、クーラーが効いたほんのり暖かいオフトゥンの中で悪夢にうなされていたんだ。
部屋の中はオレンジ色の豆球のおかげでぼんやりと明るい感じ。
お父さんに何度も声をかけられていたとは知らず、ずっと泣き叫んでいたみたいだ。
今は布団の上で膝を抱えて座り込んでいる。
「なした…そったに怖い顔して、夢の中で何を見た?」
「みんなが…消えていく夢
みんなが燃えて、墨みたいになってるのに助けれなかった。
みんなが助けを求めているのに体がゆうことを聞かなくて」
「その中にアチャはいたのか?」
「お父さんも…アチャもいた
お兄ちゃんも、即応のみんなも…いた
最後に忍さんに…空挺の神様に可哀想って言われながら…抱きしめられた
神様も…胸のところから…黒いタールみたいなのがついた内臓…見えてた」
「…怖かったな、大丈夫だ
今はアチャも修もいるから、落ち着いて
そうだ…久しぶりに子守唄でも歌うか?
せば、落ち着いくるっしょ?」
「子守唄?」
腰をトントンと優しく叩かれながら私はお父さんに抱きつく。
怖くて怖くてたまらなくて、そんな気持ちを紛れさせたくて、怒られるかもしれなけど私はお父さんの胸の中にぎゅっとした。
不思議とお父さんの鼓動が気持ちがいい。
あっ…黒い羽が見える、お父さん翼者化したんだ。
ふわふわしているし、モフモフだし…落ち着くなぁ。
「あーいよりあおきー…おおぞーらに、おおぞーらに
たぁちまぁちひらぁくぅ…ひゃぁくぅせぇんのぉ…
まぁしろぉきぃばぁらぁのーぉ…はなぁもようぅ
…子供の頃から何も変わらないね
空の神兵を歌って寝落ちてしまうのは」
「ティッシュ持ってきたけどいらなかったか?
落ち着いたんならいいべ
なぁ親父…瑠香が見た夢って」
「おそらく神という名の魔物が見せた幻覚に似た何かだ
るっちゃんから聞いてはいるよ
過去に真奈美と神との間で何かあったにせよ、俺はこんな事を起こした神を許さん
娘に悪しき呪いをかけた者を
だが今は寝ようか…明日は3人で渋谷さ行くべ?
さぁ、寝ようか」
「うん」
るっちゃん、一体どんな夢を見させられたって言うんだい?
それにずっとるっちゃんの、周りを纏うこの嫌な感覚や気配と言うべきものは何がしたいと言う。
嫌な胸騒ぎしかしないな。
空挺基礎降下課程の時に何を見て、何を知ったんだ?
今まで信じていた神様、忍さんですがどうやら優しくない神様見たいです
何を夢の中で見せたのかは、真相は神様と夢を見た瑠香のみです。
今回、会話の中で出てきた『アチャ』と言う言葉はアイヌ語で、お父さんという意味になります。
瑠香のお父さんは北海道出身なんで、まぁ多少はね?
「誠: …アチャだべ!」
「瑠香: ヒグマは北海道に帰ってどうぞ」




