10-4 山歩きするってよ
アツアツのココナッツ。
それかヒヤヒヤの麦茶。
夏の季語になると思います。
山歩きするってよ
[午前9時 習志野駐屯地 食堂兼調理場]
『んふふ…
モーンモーンモンブラーン、モンブランったらモーンモーンモンブラーン!
これでニャンコもモンブラン食べて、喜んでくれるはずだにゃぁ!
…今ニャンコはどこの山にいるんだろう?
エベレストかにゃ?』
「んなわけないですよ!
どうやってエベレストに行くんですか!?」
『坂口師団長さん……さてはアンチだなオメエー』
「なんのアンチなんですか僕は!
神様こそどうして調理場で製菓作りを?」
『…んにゃぁ…いがべ』
(ダメだ…この人、瑠香ちゃんにきっと毒されたんだ)
『味見しますか?』
「………はぁぁうまい」
( 孤○のグルメ好きなのかにゃ?)
[同日12時半 聖高淳高校 二年A組]
こんにちは相沢紗香です。
瑠香の同級生でマブダチしてます。
あたしとえみりは瑠香が無事に空挺降下ができたのか。
そもそも空挺隊員になれたのか、色々と心配しているんだ。
連絡しても忙しいのか、返信が遅いから寂しいんだ。
その動向を知りたいのか、同じクラスの新聞部にいる桐生葵ちゃんと、瑠香が助けた男の子の渡辺智くんが屋上に集合していた。
「よかったぁ…瑠香ちゃん
無事に5回目の空挺降下できたってさ
今から最後の訓練に行くって」
「ずっとえみり心配してたものね
よかった…ちゃんと空飛べたんだね瑠香
なんだか…遠いところに行ってしまった気分だけど
早く学校来ないかなぁ」
「昨日の夜中にLINEの返信が来てて気がつかなかった
本当にごめんって感じだよ」
「この前空挺団さんから、神前さんが飛ぶ瞬間の写真が送られてきたんだ
この前の特集が結構、人気だったから続報でその写真を使おうと思ってね」
部活用のパソコンには、瑠香が5回目の空挺降下を成功させたって言う見出しで原稿が書かれている。
「神前さんが…瑠香ちゃんが空挺降下に成功したって本当なの!?」
どこから知ったのかわからないけど、私たちの前にこの前の事件で瑠香に助けられた佐伯萌さんと瑠香のファンになったとか言う速水涼太が屋上にやってきた。
事件の後、萌さんの取り巻き達はバラバラになって散った。
原因を生んだ田嶋楓は四ヶ月の停学になったと聞いている。
停学になったのにも関わらず学校に来ているってのも聞いているんだよ。
いまだに萌ちゃんのことを心酔してるらしいし。
そんな萌ちゃんは仕切りに瑠香のことを聞いて来るのは…命の恩人だからなんだろうね。
速水涼太はどう思ってるのか知らないけど。
「神前さん…夢を叶えたんだね
僕も見習わないとなぁ、今度の新曲は応援ソングにしようかな?」
「涼太君が作るの?」
「本当はもっと早くに新曲を作る予定だったんだけどコンサートとか色々忙しくてね
うまく作曲とかダンスの振り付けとかできなかったんだ」
速水涼太のいるグループは今流行りのアイドルってのは聞いている。
あんまり紗香自身はアイドルがわからないけど、大変だって言うのはクラスのみんなから聞いてはいる。
登下校中にファンの人がこの学校の近辺をウロウロしてるのも…副担任の麦田先生から聞いてるし。
担任の綾瀬先生なんかも誇らしげにしてたからね。
でも私が1番推してるのは…どんなアイドルよりも瑠香なんだけどね。
「いま瑠香先輩は…どの辺りにいるのでしょう?」
「渡辺君も気になるよね
山に行くとしか…えみりは聞いてないけど」
早く帰ってきてよ…紗香達のスーパーヒーロー。
みんな待ってるだからね。
でも身体に気をつけてね瑠香、私達はここで待っているから。
本当に遠くに行ってしまったって感じがするなぁ。
[同日 午後2時 練馬駐屯地 ]
「ほんまにあっついわ!
なんやねん東京って練馬って!
暑いのは祭りだけにしといて欲しいわ!」
「沖田2曹すごいですね
今年も行くんですね、岸和田のだんじり祭り」
「まぁ染み付いたもんやからな…室戸
そんな事より…うちの大事な瑠香が5回空飛んで
今は山籠りか…えらい事件やわ」
いつのまにかここで育っていった可愛い末っ子の瑠香が、俺たちの背を超えていってしまった。
最初ここに来た時、自衛隊のことなんて右も左も分からなかったのにな。
お前が泣きそうになってるのをいつも廊下ですれ違う時に室戸は見ていたぞ。
俺は応援で3中隊で男のレンジャー学生をしばいていたんだ。
無事にレンジャーになって、すぐに翼者が襲ってきたよな。
その時のお前の活躍も見ていたよ。
こんなにだらしのない兄貴分だけど、常々思うよ。
早く帰ってこい…俺は、いや俺たち即応は練馬で待ってるからな。
今どこの山にこもっているんだ?
蜂とかアブとかヒルが出るからな、気をつけろよ。
早く会いたいな、瑠香。
[同日 23時 ???]
「我の位置…敵の脅威範囲内
生存する空自パイロットがいるのはここ」
「東に200メートルに敵の警門
ここから車両が通る模様」
「山の地形から考えてこの窪みが敵の本拠地となる
隠れるのには学校の場所だ
それにここで俺たちが一つでもヘマをすれば
周りから攻められて、死ぬという事…
っておいこら財前…鼻血、鼻血どうにかしろ!」
「あっ…すいません、
地形とか見ていたら鼻血出ました」
(なんでそうなる?)
みんなからの声がそう聞こえてきた夜の11時。
盗んだバイクで走り出したい、今日この頃。
そんなバイクはおろか、陸自でバイク盗むとしたら偵察用のかっこいいやつ盗みたいですね。
多分機甲科の偵察部隊の人に殺されます。
もうすぐ空挺基礎降下課程も終わりが近づいています。
今から敵陣に捕まったパイロットを助けに行きつつ、敵陣の奴らを千切っては投げ・千切っては投げというスプラッターをかましてきます。
(お願いだ…誰か…助けてくれ
俺は…家族の所に…帰りたいだけなんだ
病気は…完治した…はずなのに!)
「気のせいか?
なんだろう懐かしい声が聞こえて…いやこの感じ
レンジャー課程の時と同じ!」
嫌な予感がして天幕から出て外を見渡す。
当然その声の主がいるわけではないけどなんだか嫌な予感がする。
それにこの声…そんなはずはないんだ。
「財前どうした、訓練中だぞ
その青い目は…何かあったのか?」
「学長…いえなんでもないです東田三曹
わからないです、でもどこかで聞いたことのある声がしたので」
「何かわかったら教えてくれ
ここに来たからずっと妙な感じが付いてきている気がするんだ
いいな?」
「レンジャ」
外を見ても誰もいない。
でも確かに声は聞こえて、助けを求めていた。
それにこの声は間違えようがない。
長く病院で入院しているはずのおじいちゃんの声だ。
何がどうなっているんだ?
みんなが帰りを待っている。
そんな幸せなことが、瑠香の気がつかないところであるのです。
本人は山の中で不穏な空気を読んだみたいですね
次回もお願いします




