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10-3 5度目の空

帰ってきました乗り遅れた人です

復活しましたのでよろしくお願いします。


すごく心が静かだ。

先週の日曜日に久しぶりにドラム叩いたからかもしれない。

えみりちゃんと紗香がギターとベースやってたのは知ってたけど、急遽セッションができてよかった。

ボーカルが欲しい…ボーカルが…欲しい。




「いや待てよ…違うな」




あれだ…オムライス作っておばあちゃんとお兄ちゃんと一緒に食べたのがよかったのかもしれない。

でもこの前お父さんが来て私の頭にドアをお見舞いしてくれたのは許せないけど。




「ヒグマ…ヒグマ」




あのヒグマ野郎覚えておけよ、帰ったらイワンオンネチェプカムイの供物にしてくれるわ。

いや釧路川に投げればいいかな。

どの道、処刑するのは免れない事だべ。



「っふん!

有川士長の恨みもわたしが代わりにヒグマにぶつけるべ

なんまら簡単なことよ…クフフフフ!」


「財前の私怨が怖いッッッ!」




神さ…じゃなくて忍さんの癖の強い笑い方が出たところで私の中にある不快指数はメーターを超えたッッッ!

新たなる高みと虚構に包まれるこの心をなんと言おうかと学生長の東田三曹に問うたところ返ってきた答え。

それはなんとも単純で明解な答えであった。




『笑えばいいと思うよ』




その一言で全ては解決した。

地球がなぜ自転と公転をしているのか、宇宙の果てとはなんなのか。

なぜわたしに向かって忍さんはニャンコと言うのか。

そう全てここの答えに通ずる一言こそ、笑えばいいと思うに全て含まれていたのだ。

これこそ圧倒的…感謝なのだ。





「財前お前…カイ○の見過ぎだぞ?」


「ざわ…ざわざわ…

夢じゃありません、現実です…

これがげん」



「それ以上はやめておけ、壊れかけのラジオみたいに話すな

心がダメになるぞ?」






心を無にして逝く万年。

基本降下課程終了に向けて今から5回目の空を飛ぶ。

不思議とここまでくるのに時間がものすごく長く感じたけど、もうすぐその課程も終わりを迎えるんだな。

戦闘訓練の時も、長船三曹に両足引きずられて最初からってマジキチスマイル浮かべてやられたなぁ。

明治助教にも、腕立て120回とか言われて泣きながらやったし。

相変わらず桂助教は、笑いながら釣り上げようのワイヤー揺らしてきたし。

ミンナマジキチ好キスギダヨネ。

コレハ全然慣レナカッタヨネ。

アトハ…ソウ、男達ガ上半身裸デ一緒ニRUNシタノハビックリ!




「どしだば…その片言のうるさい外国人風の話し方」


「コマケェコタァキニスルナ!

コレハ富治カラノ受ケ売リダヨネ…クフフフフ!」


「それおめぇ、いろんな界隈のユーチューバっきゃ敵さ回したべ」


「津軽ノ訛リハ、わがんねぇべ」





「「日本人に戻った!」」





ワタシの心の中に某カレー大国の人が乗り移り、今カレー大国の方に帰ったところで私たち訓練生50人のラストフライトが始まる。

今回の降下地点は習志野演習場と言う点については変わらない。

ただ厄介なことに上空の風が普段より強く吹いていると言うことだ。

おまけに風の方向が定まっていないため、飛んでいる飛行機に寄ってしまうか、反対に演習場の側に着地する可能性が生まれやすくなる。





『天気は晴れて良いが風が厄介になる

遺書はいつもよりも深くかいておけ』



昨日の夜にあったブリーフィングで、大林教官の鉄仮面みたいな顔が、いつもよりも若干怪訝そうにしていた。

小島助教もずっとイラついていたみたいだし、5回目にして難易度がグンッと上がったんだな。

今更嫌だとか空を飛びたくないっていう気持ちはない。

どんな難しい状況でもやり遂げてみせんだよ。





[オールコンプリート

コンボイナンバーワン…テイクオフ]



グングンと機体が…あれ?

機体が上がっていかないような気がするんだけど?

なんだろう、パイロットさん達もなんだか深刻そうに話してるし。

何か機体にトラブルでもあったのか?

あっ…パイロットさん達の声が聞こえて来る。

またこの感覚だ…色んな人の声が頭の中に聞こえて来る不思議な感覚。







機長…離陸ポイントが起点より2メートルほど進んでから発進しています。



まさかパッセンジャーの人数が定数以上いると言うことか!?

そんなはずはない…クルーが確認して人数の照合も陸自側でもやっている。

まさか…そんなはずは。



どうされたのですか…まさか。





『あーいよりあっおっきぃ

おぉぞーらに、おぉぞーらに

たぁちまっちっひっらっくぅー…クフフフ

何も一人増えたところで、驚くことなどなかろうに』



「…あんたは…空挺の神

財前の頭をポンポンするな…財前は固まるなぁ!」


『そんな大きい声出すなよ小島助教さん

ニャンコが怖がってしまうだろう?』




わなわなと震える小島助教や、頭を抱える大林教官など気にもしないで私の頭をヘルメット越しに優しく撫でている神ぃ…じゃなくて忍さん。

私たちのつけている装備とは全く違う。

灰色のつなぎ状の服、降下外皮と言われる服に茶色のブーツ。

縛帯の前部分には黄色い鞄が取り付けられていて、背中には大型のこれまた黄色い鞄が取り付けられている。

機内が熱いのか、それとも男達がむさ苦しいのか知らないけどヘルメットを取り払って数回ほど頭をかいていた。

黒い革手袋かっこいいね。





「で、なんで私の隣に座ってるんですか?」


『えっとねぇ…特に意味はないね』


「えっ、あの…はい』


『ちょうど良いや…

今日俺がこの機体に乗っているのは簡単なことだ

お前らがどれほど成長したのか見定めるためぞ

訓練から得たもの、訓練を余裕と感じたもの・その反対のもの・実力を隠しているもの・再度挑戦するもの・高みを目指すもの

中には…己の進む道を見つけたもの多くいるであろう』


(なんで私の方見たの?)


『サァ今日で泣いても笑っても5回目の空だ

若き挺進兵達よ…ここで全てを見せてみろ

祝福たれ…未来達よ!

あっそうだ、これ終わったらチーズケーキばら撒くからよろしく』




今なんて言った?

チーズケーキばら撒くって言った?

ばら撒くって言うかいつの間に作ってたのよ。

ワンホール何個分作ったんだろうこの人。

財源はどこから出てるって言うんだよ。




[ 降下6分前でーす!! ]




「1番機ィィィィィィ行くぞッ!」


「おう!」


「行くぞ!!」


「おう!!」


「行くぞッ!!!」


「おう!!!」


「立てぇぇぇ!!!!」





小島助教の声が機体に響きわたり、最後の降下訓練に向けてみんなが立ち上がった。

飛行機につけられているワイヤーに特殊なカラビナをつけ開傘帯がからビナを伝って垂れている。

根元のカラビナ部分を握りしめ、取り付けられている装具品の確認を再度自分自身と、後ろにいる隊員同士で数をカウントしながら確認する。




『様になってきたじゃねぇか

ヒヨコから軍鶏になったってか?」




神さ…じゃなくて、忍さんのつけている開傘帯というか紐のようなものがワイヤーに取り付けられている。

降下のために開かれた飛行機のドアから入る風の影響でゆらゆらと高速で揺れているみたいだ。



[ 降下1分前ぇぇぇ…降下ァァァ!!! ]



今このタイミングかよぉぉぉぉ!!!

って思っていた時期が私にもありました。

ドアハッチを力強く踏み蹴り、私の体は空中を舞う。

今までに感じたことのない風圧と、空気の壁に叩きつけられる感覚。

肉や骨が軋みちぎれるよな激痛が体を襲っている!

傘は開いた感じはしたけど、風向のせいで傘と私の体がワイヤーの絡みのせいでねじれている!

うまく…息が…できない!



「うわァァァァァ…えっかっ神様ぁ!?」



『落ち着いてニャンコ

そう、深呼吸すること良いね

5回目の空を無事に飛べたみたいだ

よかった…これでひと段落ってところだな』

 



みんなが空をゆっくりと演習場に向けて降下しているにも関わらず、私はゆっくりと空の上へ舞い上がっている。

上へと登るにつれて少しずつ、空気が冷えていくように感じる。

身体中に感じていた痛みは少しずつ引いていった。

いや、痛みそのものが体から抜けていくような。

体そのものが空と一体化するような感じがするって言って伝わるかな?

目の前には神様…じゃなくて忍さんが白い落下傘をはためかせながら大空をふわりと漂っている。




『おめでとう…この言葉をどうしても言いたくて

少し風やニャンコの落下傘をいじったんだ…

それにしても本当にO D色だね!

俺たちの白いやつとは違う…』


「忍さん…あのそろそろ降りたいんですが?」


『そうだね…ごめんごめん!

でも瑠香、よくこの五週間を乗り越えた

女性自衛官という型枠を壊したんだよ

それより瑠香はやっぱり俺の思う空の子だ…

おめでとう…真白き薔薇の神兵よ

永遠に健やかであれ』



「忍さん…」


『あっ、駐屯地に帰ったら冷蔵庫にスカイブルーなチーズケーキムース作って入れてるから

畑口さんと秋葉さんと3人で食べてね

しゅわしゅわのラムネのゼリーの下にチーズケーキムース乗っけてあるの!

小ぶりのタルトくらいのサイズだからねー!』


「落下していってる最中に言うんじゃねぇべ!

甘やかさないでっていっしょうやぁぁぁ!」




急降下する私と落下傘。

もうダメかと思ったけど、演習場の地面が近づくにつれてゆっくりと降下し始めた。

その中で見える船橋市内が、私たちが守りたい場所なのだといつの間にか悟っていたんだ。

みんなのいるこの場所…練馬や学校も含めてここには守りたいものがたくさんあるんだと実感させられたよ。

忍さん…教えようとしてくれていたのですか?

…だったら私は、もっとこの空を飛んでみたいです。

ここからが、スタートですから!







{1時間後 練馬駐屯地 即応強襲部隊執務室}





「そうですか!

無事に5回目の降下を…はい…はい!

連絡ありがとうございます、へば…」


「おじいちゃん…どうしたの?

なんで電話切った瞬間にプルプル震えてるの?

おじいちゃーん、源一郎おじいちゃーん?

千春にもわかりやすく教えて?」


「った…やっ…のか」


「おじいちゃん?

ねぇ健太、これってどうゆう事?」


「喜んでる事に違いはないんだろうけど?」


「うぉぉぉぉぉおお!!!!!!

瑠香ぁおめぇってやつは、祝砲だ祝砲さ撃つべ!

健太、千春…外に行って垂れ幕下ろしてこい

瑠香が…瑠香がぁ!」



「「……ぁぁぁぁあ!!

おめでとう瑠香ぁぁぁぁぁあ!!

行くぞー!!!」」




お久しぶりです、飯島健太です。

どうやら瑠香は、基礎空挺降下の最終項目に当たる5回目の落下傘降下を果たしたそうです。

これから垂れ幕を下ろしに屋上に向かいたいと思います!

みんなに朗報だ…やったぜ!

さぁて屋上に着いたぞ、今から垂れ幕を…千春?




「…」


「どうした?

この音楽は…修ぅお前、なんで天○マンダンスを

踊りやるんじゃ?

ワレ…気でも狂ぅたんか?」


「ねぇ健太…私に強めの薬処方して欲しい」


「後で衛生隊行って取って来るけんね

ちょっとの間待ちんさい。」




無表情で踊り狂う瑠香のお兄ちゃんで、俺の同期の修が天○マンダンスを踊り狂い、その目の前で師団長こと瑠香パパ…又の名を(ヒグマ)が携帯で動画を撮っていました。

この親子は狂っている、空挺団でも対応できないバカ二人がここにいるのです。

俺も薬もらってこよう、あぁ入道雲が憎らしいや。

最後の方は完全に頭おかしいのがバレましたね。

瑠香がきっちり飛んだのに他の二人がバカをしたせいで後味が悪くなりました。



用語説明


イワンオンネチェプカムイ


巨大なイトウという魚

北海道の主



神様の歌っていた歌

「藍より蒼き青空に」から始まる当時の歌です。

挺進兵…昔の空挺隊員達の活躍を歌にしたもの。

ようつべにもありますので興味があれば!


神様の作ったチーズケーキ

差別化を図るために瑠香のチーズケーキはゼリーとチーズケーキの層を作ったもの。

どこでレシピを見つけたのは不明

大体はインターネット

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