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9-8 はじめての降下

梅雨です。

この前近くを歩いているとびわがなっていました。

甘くて美味しいんですが、まだまだ熟していなかったので残念、



ついにこの日が来た。

待ちに待ったと言えばいいのか、まだ早いと言えばいいのかわからないけど小さい時の記憶にある光景。

訓練用の白い落下傘用のハーネスを体につけて、白い落下傘本体は固定具に取り付けられ、降下塔の上までつくとロックが外れてふわりと体は宙に浮く。

しばらくの間は風に乗ってゆっくりと、落下傘は降りて行く。

地面が近づいてきた風の流れを見つつ、5点回転接地法で地面に着地する。




「本当にここまで来たんだ私は…」



夏の空が憎らしいくらいに澄み切っている中、私たち訓練生50人は降下塔の下で今から始まる訓練に心躍らせていた。

夢までもう少しと思う人、ようやくと感じる人それぞれだと思うけど私は…。

私は子供の頃に見た遠い記憶の中にこの降下塔があって今それが目の前にある。

幼稚園くらいに見たことあるんだぞとお兄ちゃんには、言われているけど正直覚えてない。

お母さんが生きていたときにみんなでここで観閲式を見ていたらしい。




「まさか私がここにいるなんて、夢にも思わなかった

夢が現実になったよ…お母さん」



4歳の頃の私は、ひっきりなしにお父さんやお母さんに向かって空挺団に入るって言っていた。

それを当時の大林3尉や小島士長…つまり大林3佐や小島一曹は耳の穴をかっぽじって聞いていた。

という話を座学中にみんなのいる前で堂々と話してくれたんだよな。

みんなに笑われるしどうしようもないよ。




やっぱり財前って官品だったんだな




みんなの心の声がダダ漏れですね、ありがとうございました。

そんなことは私にとってはどうでも良くないけど今は目の前のこと以外考えない。

今からやる訓練のことだけで私の心は晴れ渡っているし、とっても気持ちがいいんだ!




「今からやる訓練は、お前らが知っての通り

模擬落下傘をつけて降下してもらう

地面に激突しても安心しろ、俺たちが綺麗に整備してやる」




なんだろう…大昔に同じこと言われた気がする。

でもあの時は降下等の真下はアスファルトだったし、今は芝生が多い茂っているし激突したらどっこいなんだけどなぁ…知らんけど。

なんて思いながらみんなが、吊り上げられてはゆっくりと落下してくる。

ぱっと見てゆっくり落ちてる様に見えても、体感速度は全然違うんだろうなぁ。





「…なぁ財前、この前は悪かったな

いきなり怒鳴りつけて」


「奥田三曹…なんのことですか?」


「えっ、だってお前…忘れたのか?」


「何か言われたっけ、わがんね」


「…っぷ!

お前面白いなぁ、いいぜ気に入ったよ

これからもよろしくな…後、お前のこと俺は応援するよ」


「ありがとうございます…?」




ものすごいこと言われたのは覚えている。

結構傷ついたけど、本人も悪気があったわけじゃないと思うしさ。

そんなちっちゃいことでもないしさ。

何言ってんだよって反論したくもなったけど、もうどうでもいいしさ。

そう言えばみんなずっと私のこと応援するとか言ってるけど、なんで応援するっていうんだろう?

私の班の学長や副学長、それに寺田三曹に伊藤三曹。

加藤士長に有川士長に空自の轟士長も。

みんなずっと応援するって言ってるし謎だべな。



「なぁ財前、お前の番だぞ?

何、降下塔をみて小刻みに震えてるんだよ

怖いのか、ファンタスティックガール」


「轟士長、怖くないです!

なんかちょっと嬉しくて!」


「お前らしいな、財前

お前みたいな面白いやつは、そうはいない

だから応援したくなるんだよ」


「それは知らなかったです

呼ばれてるので行ってきます!」






「本当にお前は明るいな財前

…俺も見習わないとな、FF課程に行っても一緒に頑張ろうな」





真っ白い落下傘をつけたみんながゆっくり降りてくるのを見ていていつの間にか自分の番がきた。

心臓の鼓動がドンドンと、胸を痛くするくらいに強く叩いている。

緊張感や恐怖心を超えて自分の憧れが現実になる高揚

が凄まじく強くなっている。

つよーく、なれーるとかそんなんじゃないけど。

体にハーネスをつけて待機する。



「いよいよお前もこの一歩に来たか

なんだかまぁな、俺も嬉しいぜ

不思議なやつだお前は」


「桂助教…この一歩は大きいですけど始まりにしかすぎないのです

もっと頑張って、空を飛びたいです」


「ったくよ、お前ももう少しは素直になれ!

大人すぎるんだよお前はよぉ!」


「あぃた…あぃたたたた!」



ヘルメット越しに頭がぐらぐらするって桂助教。

頭ぐるぐる撫でるのやめてくださいって!

痛いから痛いから!!

もうまじで酔うって…うぉぅぉ!

ほら、落下傘と吊り上げ装置がきましたから!

装置が降りてきましたよー!



「…さてととてつもなく短いフライトを楽しんでこい

ぜってぇぇ、足は閉じないと死ぬからなぁ!

…行ってこい、財前瑠香」


「レンジャァ!」




体につけられたハーネスに落下傘用のハーネスと固定するための安全環(カラビナが取り付けられる。

今から私は降下塔の天辺、高さ83メートルの地点まで登る。

朧げな記憶の中にある、降下塔から自衛官達が降りて行く景色。

見ている側からやる側に今からなるんだ!

グンっと釣り上げようのワイヤーが動き出し、足元から桂助教の背の高さの170センチのところで止まる。



「両足は揃えられているな

くどい様だが行ってこい、空を飛んでこい」



ウィィィンと音を上げてワイヤーが私の体を空に持ち上げて行く。

だんだんと桂助教の姿が豆粒ほどにしか見えてこなくなった。

ぱっと顔を見上げるとそこには船橋市内がぐるっと見渡せ、私のおばあちゃんの家がなんとなくだけど視認できた。

それにしてもこのワイヤー…軋んだ音が聞こえるけどこんなものか?



「ぅお!」



いつのまにか私の体は空中に投げ出され、ふわふわと空を泳ぐ様に落下傘と共に大地に向かって進み始めた。

風は私の背中と落下傘を押してすうっと空の中を進ませ、時々右に左にと軽く操作用のハンドルを動かして微調整する。

時間にしてどれくらいか、わからないけど私はほんの少しの時間だ空挺隊員らしい事をしているんだな。





「地面が見えてきた、よしそろそろ行くかぁ!」





訓練通りに行くぞ。

足で着地し、ひざを30度傾けて倒れる。

その時に後頭部を両手で覆ってひじは締める。

次に上半身…特に腰をねじってスネで着地。

次に太もも、左右どちらかの上半身側面を設置させ回転した勢いで直立…っと。



「できた…ほんの一瞬のことだったけどできたぁ」



鑑賞に浸りたいけど浸ったらダメ。

いや、やっぱり鑑賞に浸ろう。

降下塔の真下から60メートルくらいは離されたのかな?

でもいいや、今までの訓練や特訓が一つ成果を出せたんだ。

これに満足しないでもっと頑張らないとな、



「おい財前、無事…だった」


「無事で済むはずないですよ、桂助教!

怪我はないね、よかった無事で」


「悠長な事を言うな、桂に畑口!

明治と秋葉はすぐに降下塔に向かえ!

まずいことになったぞ…過去にこんな事件はない」


「どうしたんですか、小島一曹?

大林3佐もどうしたんですか?」


「…無事で何より、今は片付けを優先しろ」




みんなが慌てて降下塔の方に向かう。

その間に訓練生達は私の周りに来て、大丈夫だからとかそんなことばかりを言う。

何があったんだって言うんだ?



「財前…お前、吊られている時に違和感はなかったか?

俺が昔、ここに来た時はそんなことなかったんだ」


「伊藤三曹ってここに来たことあるんですか?」


「一昨年にな、虫垂炎で一度リタイアしたんだよ

再トライしてるんだが、前はこんな事はなかった

財前…お前は地上50メートルから落ちてきたんだ

本来なら高さが足りなかったが、風がお前を味方にしてなんとかなったんだ

この意味…わかってくれるな?」






本来吊り上げられるべき高さに足りていない。

高さが足りなければいくら開いている落下傘といえども扱えず死ぬ可能性があった。

まさかワイヤーに何か仕掛けでもされたと言うの?

一体誰がそんな事を…まさか。

ここに出てくる用語を少し説明します。


官品

文字通り、国からしきゅうされているもの。

代表的なのが迷彩服や89式小銃です。


もう一つの意味が、両親又は片方の親が自衛官から生まれてきた子供です。

つまり、主人公の瑠香やその兄貴の修がその代表です。



降下塔

空挺降下訓練塔が正式名称です。

高さ83メートルまで上昇させることができ、そこから落下傘を下ろすと言うより落とします。

十字に分かれていて、四つに分けられた天辺から落下傘を落として訓練します


毎日探検しているであろうワイヤーの異常な意味は

また今度。


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