9-7 諦めない!
この前陸自さんの体操をしたら体が筋肉痛になりました。
まだ取れてません。
「最近…財前の顔つきがとてもいいような気がするんだが
村田副学長、何でかわかりませんか?」
「東田学長もわかりますか?
財前の顔つき…日に日に良くなっていってると言うか
何かに気がついたのかわからないですけど」
「「物凄くカッコいい空挺兵になってる!」」
最近、なんとなくコツではないけど掴めてきている気がする。
と言うよりも訳のわからなさと言うのかひとまず消えたように感じた。
自分自身の中にある不安はいつの間にかスッキリと消えていた感じだし。
今やっている蹴り出し訓練も、不思議と身についてるように感じる。
「みぃよ落下傘、空にふぅり
みぃよ落下傘…そらをゆぅく」
こんな風に歌っていたら怒られるけどね。
今やっている蹴り出し訓練は、飛行機を模倣した塔のドアっぽいところから体につけたハーネスと外につながるワイヤーを通って百メートル進んだ先にある土壁まで滑空するって言う訓練。
最初の頃は訳が分からずひたすらにやって覚えていたけど、今は違うとだけ言える。
「正直言うと練馬の降下塔よりもここは怖い」
人間が1番恐怖を感じる高さは12メートル。
ビル4階か5階建ての高さの場所にいて、この高さから飛び出して恐怖心を和らげるのだそう。
だからこそ、この訓練は空挺隊員にとっては必須の訓練になる。
つまり、陸将補だろうが陸士だろうがベテランだろうがひよこだろうが過保護陸将だろうが飛ばなきゃいけない。
飛び出した後の宙に浮く感覚。
両脇に通してあるハーネスのガツンとくる痛みと衝撃、空中に投げ出されてからは体を下手に動かすとすぐに死に直結する恐怖。
正しい姿勢を理解して、感覚を研ぎ澄ませ養う事。
落下傘を制するなら必要と言う現実。
「…最近というか、前からだが財前はあまりビビっていないな?
むしろ懐かんしでいないか?」
「そうなんですかね、明治助教?」
「俺に聞くんじゃねえよ、飛べやボケが!」
「レンッジャーー!!!!!!
いやぁぁぁぁぁ!!」
「…ったくよぉ、修ちゃんと違って妹の方は賑やかだなぁ!
明治…もっとしごいてくれって修ちゃんから言われなったのかぁ!?」
「俺は修から何も聞いてません桂三曹
(いや、妹の事頼んだって言われたの口が裂けても言えない)」
「どうせ、妹の事頼んだって言われたんだろぉ!?」
「…(最初から聞くなよ)」
この数週間で財前は頭角を現してきた。
ようやく財前の頑張りが実ってきているように明治は思うんだ。
それに最近、どうもあいつを見ていると目が離せないというか守りたくなるというか。
ただ財前が…いや瑠香が高校2年生だっていうのはわかっている。
でもちゃんとこの気持ち…伝えたほうがいいかな?
なんてバカだな俺。
でも俺は応援したい…可愛い妹分の頑張りを。
最高にカッコいい挺進兵になって欲しいと言う思いも。
「……(すっごく心の声がダダ漏れです明治助教)」
「財前、顔が死んでるが大丈夫か?」
「大林教官…もう一回飛びたいです」
「だめだ順番だ、順番守りなさい!
お父さんと同じこと言っているぞ!
ったくよぉ、そんな目をするな
わかったからもう一回ってこいこのぉ!」
「ありがとうございまぁぁす!!」
「走るなあぶないだろうがボケガァァァ!
親父さんに似るんじゃねぇよぉぉ!
もうやだこの親子、修も同じだったんだぞー!
本当にやだわぁ、もう!」
何がどうしてっていうのは分からないけど、すごく気分がとても良い。
今まで謎の不安のようなものは空に近づくたびに消えて無くなっている。
今までやっていた訓練が一つの流れになっているかと思うとワクワクが止まらない。
ハーネスが肉を潰すくらいに引っ張ってくる感覚。
骨が軋んでビリビリする感触。
でもその一つ一つが空挺隊員への道になっていったってことを気づけた。
焦ることはないって気がついてようやくわかった。
沖田専任助教…ようやく自分の道を見つけました。
だから絶対、諦めないぞ!
「より良い訓練になっているか大林くん
…いつの間にか、親父さんの背を越えようとしているね
そうか、無理に焦ることをやめたのか」
「坂口団長、いやそんな事ではないです
瑠香は周りと自分を比べて焦るがあまり自分を見失っていたんです
ですが、気がついたんでしょう」
『自分ができる精一杯という迷わない道を見つけた』
「なるほど自分ができる精一杯…
瑠香ちゃんらしい答えだね
それで他の隊員たちのエンジンがもっとアツアツになればね
ところで大林3佐、最近この習志野駐屯地界隈で翼者なる敵が現れはじめた
うちの隊員たちも目撃して、且つ攻撃を受けている
狙いは…」
「財前の身…ですか」
ファンタジスタ財前がここに来てから良いニュースと悪いニュースの両方を聞くようになった。
空挺隊員としての頭角をメキメキと現しはじめたといういいニュース。
それと同時に、あの組織が財前の行方を追うかのようにここにまで魔の手を伸ばしているということ。
この前習志野に来た白石検事だったか。
その人が言うには、財前の力を欲しさに近づいているという。
「大林3佐…これを」
小島の声が聞こえた気がして振り向く。
朝一番から訓練用落下傘降下塔の点検に行っていた小島に畑口・秋葉の三人の顔が点検から戻ってきて降下塔まで来たようだ。
だが目に見えてきたのは、要らぬ土産物もだ。
畑口が持っている真っ黒い羽はカラスやトンビなどよりもはるかに大きい。
60センチくらいと言えばいいか。
明らかに鳥ではないな。
「小島1曹、降下塔の点検は?
その真っ黒い羽はまさか」
「おそらく…当該目標の羽と思われます団長
降下塔のワイヤーに括り付けられていました
細かい羽も落としては起きましたがなんとも
それに最近、われわれの祖である空挺の神が財前の周りを彷徨いています」
そう…懸念事項は翼者だけてばない。
我々の祖である空挺の神なるものが財前の周りを彷徨いている。
過去の候補生たちの話では遠くから見ているだけだったが、甘い菓子を作って食べさせるという行為がやけに目立つ。
まさか、言い伝えが本当に現実となるというのか?
挺進兵達が最後の出撃前に残したという言い伝えが?
「運命を仕組まれた子供ということか瑠香ちゃんは
空の子であり未知数の力を持つがあまり、母親の敵から狙われるとは…かわいそうに」
「外出に制限をかけざるを得ませんね
それに、あの子の出身高校からも色々と」
「あぁ、あの担任ですか
まぁ良いでしょう、あのこの取材は受けましょう
それがあの子のためになるなら」
財前の担任もそうだ。
この前の取材の時に、財前の事を心配する素振りなどせずむしろ暴力を浴びせていい、壊れるまで無茶苦茶に扱えと言いたげに話していたな。
我々の職務をわかっていなようだ。
わかりにくい部分があるが、どうも目の敵にしているようにしか思えない。
「では私はここまでで…また来ますね」
財前には話せないな。
あいつの夢追う場所である、習志野駐屯地に闇が追って来ようとしているとは。
明日から行われる降下塔での訓練だが、無事に遂行できればいいのだが…。
どちらにせよ…財前には伝えでばならんな。
空挺館にある…あれの存在を。
先週現れた空挺の神が来ていた服装の謎も。
(午後16時 高淳高校 新聞部)
「…これこの前見たあの人の…」
「桐生さん…誰か知ってる人?
なんで…なんでガトーショコラがこんなところに?」
授業が終わって二人きりの部活タイム。
この前作った新聞の原稿の訂正箇所をやり直そうと、私は新聞部の部室…パソコン室に大槻守くんと入った。
そしたら…私たちがいつも使っているパソコンのデスクにガトーショコラが置いてあったのです。
しかも置き手紙付きです。
『ハロハロー、僕は空挺の神様!
百式輸送機に乗って産地直送、ガトーショコラ!
みんなのハートにズームイン!
この前わ、僕たち挺進兵の後輩である第一空挺団へよく来てくれたネ!
学校新聞に来てくれてベリーベリーサンキュー!
今後ともよろしくネ!
追記
また機会があったら取材という名の遊びに来てね。
瑠香もきっと喜ぶと思う、それが力になるからね。
ガトーショコラの感想は瑠香に伝えてネ
やっぴー、やっぴー!」
私の家は神社。
そんなこともあっていわゆる、霊感とか言われているものはついてしまう。
色んなおばけさんを見て怖くてたまらなかった。
でもこの人は…頭ぶっ飛んでるのね?
だって教室のドアの丸い窓からね、手を振ってきてるしさ。
全身薄いグレーのスーツにヘルメット。
黄色に前掛けの黄色いカバンが見えるのよ。
そんな人がさ、
[ベリーグッド? おっおいしい?
本当に!? よかったー]
って言ってるしこれは…今まで見てきたのと違う。
これだめなやつだわ、あの…あれよ。
頭のネジがなくなってるわ。
「このガトーショコラ…ケーキ屋さんのガトーショコラみたい
めちゃくちゃ美味しいよ、桐生さん」
「えー…これあの…えー?」
この日、私は神前さんにラインを送りました。
ガトーショコラを貰ったこととか、色々と。
ごめんねって言ってたけど、むしろこっちがなんかごめんね。
このおばけさんをどうしたらいいかも聞きました。
笑えばいいよと言っていたので、放っておきました。
いつの間にか消えてました…。
まぁいいや!
「それにしてもこのガトーショコラ…口説くない甘さなのに濃厚で美味しいわ…
カンシャエイエンニ!」
「きっ…桐生さん?」
いつか、ここにいるキャラたちで陸自第一体操を阿鼻叫喚しながらやってほしいという願望があります。
瑠 「えっ、空挺体操でも死にかけてるのに…
やめてよ、あんまりいじめないで!」
空挺 「…これ俺もやるあれかな?」




