9-6 神様、再び!
どうやったら美味しい肉と梅雨を乗り切れるかを考えてました。
鱒寿司食べたい
「最近神様見てないなぁ
どうしたんだろう…お腹でも下したかな?」
神様の手作りガトーインビジブルをもらって一週間が経った。
訓練も中盤に差し掛かって、時間の流れが速く感じる気がして仕方がない。
今日から一週間、みっちりと行われる懸吊着地訓練。
室内で行われるんだけど、建物の中に櫓が二つあって
櫓の櫓の間に五十メートルほどにワイヤーが張ってある。
ワイヤーと自分の体を括り付けるハーネスをつけて落下傘で着地するときに必要とする5点回転接地法を行うという。
「まだまだあるんだよなぁ」
この訓練に加えて行うのが天井から吊り下げられたワイヤーにこれまたハーネスをつけてぶら下がる落下傘操縦訓練。
動画で見た事があるけど、ただ垂直に降りているように見えてるけど実際は風の動きを見た上で降りてきてるんだよな。
コレハオトウサントオニイチャンガユッテタヨネ。
その訓練と先週の水曜からやっていて、想像するよりも10倍難しかったんだよな。
地面から浮いている感覚とハーネスが体に食い込んでちぃっと痛いんだべな。
ハーネスの上には落下傘の制御に必要なハンドルがあってそれを引くことで落下傘にうける風を調節して降下地点に到達できる様にする。
本物の落下傘にもあるけど、それ以前に落下傘つけて降りたらどったら痛みが走るんだべか?
「経験を重ねていくか、宙吊り状態になってもこんなこと考えるだなんてなぁ
そう言えば…さっきからなんか声が聞こえる様な」
ここにきてこいつらのポテンシャルがわかってきた。
やる気のあるものないものそれぞれいるだろうが。
特別熱を持って壁にぶち当たっているのは、空自のエリート轟とじょっぱり加藤。
その次元を超えて1番オーバーヒートしてるのは、ファンタジスタ財前くらいか。
学生長の東田と副学生長の村田は熱はあるがまだ足りないという感じだな。
まだちらほらと熱があるやつはいるが残りがなんともな…。
「この声色からして…小島助教
みんなの事を評価していたのかな
だめだ操縦訓練中だった、集中しないと
それにしても、練馬にいた時よりも視界が蒼くなるな」
「なぁ財前、お前なんでそんなに目が蒼いんだ?
前からおかしいと思ってたんだよ!?
なんだよその快晴の時の様なきれいな空と同じ色の目!」
なっ、いきなりなに言ってんの?
左隣で吊り下げられてるとは思っていたけど?
えーっと確か奥田三曹って人だ。
なんでいきなり突っかかってきたんだよ?
目が蒼いってもしかして今も蒼い目の状態なの?
まずい、元に戻さないと余計に変な誤解が生まれかねない!
でもおかしいな…視界が蒼いままで元に戻らない!
だめだ、今回はすぐに戻ってくれない!
なんて説明したら切り抜けられる?
「なにを騒いでいる!
訓練中だ、静かにできないか!」
「だって桂助教、こいつの目がおかしいんですよ!
なんで蒼い目なんてしてるんですか!?
いきなり蒼くなるなんておかしいです!」
「こいつは練馬でレンジャーになってここに来た
その時の弊害とかで目の色が変わったんだろ?
そんなことはどうでもいい」
「ですけど!」
『そんなことより…自分の心配をしろ貴様
いちいち人様の事を心配する余裕があるのか?
落下傘をみくびると死ぬるぞ?』
「えっあっあぁ!」
建物の中をヒヤリとした風が吹き抜けていくと同時に私と奥田三曹の間に立つ桂助教の隣で彼は立っていた。
白目の部分は真っ黒く、濁った蒼い色の目が私たちを捉えている。
他の訓練生や教官たちが顔を引きつって怖気付いていた。
間違いなく怒っている。
「うっそだろ…神様と財前の目の色が一緒…」
『…へぇ他人の心配をする余裕があるのか
操縦できていない様に見ゆるが
少し揺らしてみようか?
そうすれば自分の余裕が無知な自信だと気がつくだろうなぁ?
そう思わないか、桂慎吾三曹』
「それは…その」
『……甘ったれるな貴様ら、助教や教官達は何度も言っているはずだ
一度でも気を抜けば、落下傘は制御できずに地面に叩きつけられて死ぬ
無様に死にたくなければ、まともに演練をしろ!
じゃあな』
消える直前ヘルメットを軽くポンと触れる感覚と優しくごめんよニャンコと囁く声が耳元で聞こえた。
きっと神様は怒りたくて怒ったわけじゃない。
訓練の様子を見て苛立ったのかもしれない。
地面に叩きつけられて死ぬ…飛行機から飛び出した後は一気に人間の力なんて関係ない。
東京タワーの高さから新幹線みたいな速度で飛んでいく。
細かな風向きとか風速を考えながらやらないと、落下傘は制御を失って死に直結。
神様はそれを言いたかったのか…。
今日の訓練が終わっても、体にはワイヤーに吊り下げられた感覚は残っている。
もちろん神様の話していた言葉も。
「…あれ、これって生チョコトリュフ
二郎系ラーメンの次に好きなものは、そう生チョコトリュフでーす!
ヒィィィヤッホーーー!!!!」
女性隊舎に戻って私の部屋のテーブルの隅に大好きな生チョコトリュフが置かれていました。
置き手紙を添えておかれています。
どうやら彼はいいカカオ豆の買い付けや砂糖、牛乳の調達にココアパウダーを作ろうとして一週間ほど習志野駐屯地にいなかったと書いています。
いやどう考えたっておかしいだろ?
買い付けって神様死んでるはずなんですが?
買い付けってどうやってやったの?
そもそも資金はどっから出たの?
駐屯地の1番近いスーパーとか成城石○とか言って買ってきたんだろ?
なんかカカオ豆の匂い嗅いでるの想像つくけどさ!
「財前…また美味しいお裾分けもらったの?
本当に神様って…財前のお父さんみたいだね
過保護なお父さんというか」
「秋葉三曹…それを言ったら本当の父親が乗り込んできます」
「噂で聞いてるよ、財前教官の娘さんだって…
そんなにお父さんおっかないの?」
「らしいよ秋葉…
習志野で1・2を争う鬼教官だってさ
財前はその時の姿とか見てないの?」
「知らなかったです畑口三曹…
本当にうちの父親が当時迷惑をかけてすいませんて感じます」
「「 官品って重荷を背負いやすいのね 」」
父親がいろんな方面に迷惑をかけたのは知っている。
練馬駐屯地でも暴れまくってるって今も村上三曹。
いや千春ねぇがラインで教えてくれるんだ。
『瑠香パパ 大暴れ 蝦夷ヒグマ化進む ウケる』
っていうメッセージとともに、過保護陸将が暴れる動画が送られてくるのです。
最後はお兄ちゃんがスリーパーホールド決めて、失神させるけど意識戻ったらまた暴れるの繰り返し。
最近の情報では、駐屯地の外れに置いてある丸太に引っ掻き傷みたいなのがあるらしい。
爪まで研いでるのか、あの過保護陸将。
「そう言えば今思い出したんですけど
空の神様…訂正、空挺の神様が着用していた服
いつもと何か違いませんでしたか?」
「いやぁそこまで私は見てないよ?
畑口さんは見ましたか?」
「見たよ…なんだろうくすんだグレーに緑色のマダラ模様というか
脛のところに布巻いてたのは見えたけどどうして?」
「なんか…変わった格好だと思って
まぁいいや、そんな日もある」
まぁいいや、そんな格好の日もあるさ!
知らないけどなー。
もう一個気になったんだけど。
このチョコトリュフ…ちょっと硬い気がするなぁ。
硬い…硬い…堅い…堅揚げポテト…ん?
あっ…そういう事か。
堅い意志を持てって事ですかね。
「畑口三曹…秋葉三曹…
チョコを食べていて少し昔のことを思い出しました
レンジャー課程中に専任助教からのありがとたい言葉を」
「「どんな言葉かな?」」
「その専任助教の受け売りです
『お前の道を迷わずに進めよ』って
チョコが硬いのは、硬い意志を持てっていう遠い言い回しです
硬い意志…お前の道を迷わずに進めよって言う」
「畑口は…そう捉えないよ
むしろお前の強い意志を守り、迷わず進めかな?」
「秋葉もそれに賛成します
優しいな…神様はとても」
夏の前の匂いがふっと鼻をくすぐり始めていたのを私は今気がついた。
自分のことでずっと精一杯でいたから、季節の変わり目に気がつかなかった。
堅い意志も大事ですけど、やっぱり力を抜かないとですね。
堅い意志…私の信じる道を歩みます。
宙ぶらりんになって訓練してます。
空挺団の訓練風景を写した動画からこの話は参考にしました。
落下傘の操縦を訓練しないと…です。
話はとんで神様の着ていた薄いグレーで緑のマダラ模様の服。
実際にこの服装は実在しました。
瑠香は何も気が付かなかったと思います。
次回もお願いします




