9-5 挫けそう
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか!
私は小説に関連するイラストとか描いてました。
画力が欲しい
「あそこで屈み跳躍やってるの瑠香じゃね?」
「わった…お前目がいいな
さすが俺と同じ名を持つバディよ!」
「あ〜んた達ぃ、そんな事はどうでもええのよ!
あんなにも…あんなにも無理させすぎやわ!
沖ちゃん泣いちゃう!」
「…連れて帰りますか、練馬に?」
「健ちゃんそれはきついぜ?
ただでさえこの壁は…有刺鉄線ぐるぐる巻きの壁は越えれないぞ?」
「室戸さんのいう通りです
でもいますぐ連れて帰りましょう!」
「千春…
そこは沖田の工作キットを使って門を壊して入るのよ
和子お母さんは止めないから」
「ゴッゴッゴッゴッゴゲゴッゴォ!
(訳:討ち入りじゃ…姉御今行くぜ待ってろ)」
「奪還すべき時が来た、丸太は持ったか!
行くぞ我らの孫娘の元へ!」
おー!!!!!!!
「とぉぉぉおつげぇぇぇぇぇぇきぇぇ!!」
「神崎を視認!」
おはよう、儂は田中源一郎だ。
第一普通科連隊長と即応強襲部隊長を仰せつかっている。
今回は我がかわいい孫娘の瑠香を、空挺団という怪しい組織から奪還すべく動いているのだがなぁ。
これやっていいのかどうかわからん。
まぁ一応、奪還作戦に似合うように迷彩服を皆にはきさせたが通報されそうだな。
まぁここは習志野駐屯地。
ちょっとやそっとのことでは通報されまい…。
「こっこけっこっこ!」
「なした、ピヨ助ェ…ねっ猫…猫ちゃんだとぉ?」
「田中3佐…私たちはどうやら囲まれたみたいです
お母さんも…びっくりです」
儂らの四方八方を塞ぐように猫達が威嚇してきている。
ピヨ助が仕切りに警戒音を放ち、威嚇しているのは分かっていたがまさかここに来て猫を相手するとは思わなかった。
誰かが餌付けしてここに寄せたという数ではないな。
この感じ、この気配というのはあいつが呼び寄せたと言いたいところだが。
いや、確実に呼び寄せたようだな。
『まさか…こんなところにまで来て過保護ですか?
昔は鬼だの軍神だのと恐れられた少佐が』
「…本当に噂は本当だった
あなたが空挺の神様、出会った隊員に幸福を与えるといわれる」
『そんな大層な神様じゃないよ室戸亮ちゃん
ここで育っていく隊員のことは覚えているからね
怪我で断念したけど、また来るかい?』
「室戸三曹…こいつ本当に」
「わった…いいか下手に刺激するな」
『小野渉くん、俺はそんなことで怒らないよ
でも今はちょっとみんなに怒ってる
瑠香は大事な訓練中だ…お引き取り願おう
否が応でもって言うなら、俺の雷…食らうかい?』
こいつの体から黒い雷が帯電し始めた。
向こうは本気なんだろうなぁ、大事な空の子とやらを守るので躍起になっているんだろう。
だが瑠香に伝えねば、無理をしすぎていると。
「皆さんセンスがありませんね
源一郎様の歩兵魂のいらない部分をトレースしてるだけですよ?
この少年騒ぎの旋風を起こし二枚目憲兵少尉であり、セクシープリティーイケメン優秀検事である白石富治と私のできる嫁であり副検事の三田結衣に任せない
可憐に入って…」
あぎゃやゃゃゃゃ!!!!!!!
「白石…星になれよ!」
「すごいですね、一撃であの黒い雷を白石さんの頭に落とすなんて」
「一撃必殺の能力なのかもな千春
飯島三曹は助けないけど」
それにしても何だ、こいつの底に眠る異常な何か?
昔…あの地獄で経験した血肉が燃え、骨髄まで塵にかえる炎のようなもの。
儂が死んだとされる後に起きた戦闘。
図書館で見たことはある、唯一の熾烈な地上戦。
やはり義烈空挺隊の何か怨念か、いまだに残る己のみに巣食う呪いのような何かなのか?
どうなんだ挺進兵?
『少佐殿、今はただ待っていてください
あの子は今大事な時期にある
父親を意識し過ぎ、兄の背中を負おうとする焦燥
今あの子に立ち塞がる壁を壊す時期だ
この一週間ずっと訓練にもがき、しがみつくがあまり己を失っている
故に邪魔はしないでください、それでもというなら
憲兵殿よりももっと酷い目にやりますよ?』
「わかった…今日は帰ろう
儂らの思いを代わりに伝えておくれ…
いつでも儂らは、お前のそばにいると」
門番に結衣殿が何か書類を手渡しているようだな。
そんなにすぐ終わる要件ではないのだろうが、部が悪いのだろう。
神とやらを恐れ、上官が倒れたのだ。
こいつの目、瑠香と同じ美しい空の蒼と同じだが白めの部分が真っ黒いな。
ここにいる猫の目もこの髪と同じ目だ。
紛い物の生き物を作ったか知らんがな。
『そんなに怖い顔しないでください
月白に菱形の瞳孔その縁を小さや菱形が8つ
少佐も神様に似た存在ですか…
では先ほどの言葉、瑠香に伝えましょう
では…』
「皆帰ろうか、練馬に帰還するぞ
ここでは部が悪い、良いな?」
[同時刻 習志野駐屯地内 訓練場]
「何で…何回も飛んでいるのに、掴めないんだ私は?」
何だ……わけがわからない。
自分は何度もこの降下搭から飛んでいるのに。
なにもわからない、どこがダメでどう克服すればいいのか。
周りの人が自分が理想とする飛び方をしているのに、私はそれに追いついていない。
綺麗で一直線に飛ぶなんて初歩的な事がなに一つとしてできていない。
「何でだ…よ」
「…いいから飛べやクソが!」
「レンジャァ!」
「ありゃ…ダメだ
凝り固まっていやがる、これじゃ落ちて死ぬぞ瑠香坊」
「なにがあったんですかね?」
「たった小さな台だからこそ、見えない挫折に苦悩してんだよ桂ぁ。
何度も反復してやれば良いってもんじゃない
満足いくまでやらせるか、辞めさせるかだな」
俺にはわからなかった。
俺が訓練生の頃はこんなちっぽけなことに悩むだなんて事はなかったぞ?
そこまでに駆り立てる何かでもあると言うのか?
わからなさすぎるな。
そう言えば財前は、この前の装備品の確認の時からどこか固まっていたな。
色々と吹き込まれてきたから緊張でもしてるなら馬鹿馬鹿しいが。
「あいつもしかして…だからか!?」
このままだったらダメだ。
このままだったらお父さんどころか、お兄ちゃんにも練馬のみんなにも追いつけない。
えみりちゃんになんで言えばいい、紗香に胸張って言えない。
私はなんで空挺隊員になりたかったんだ!?
なんで、なんでみんなができることを私は出来ていないんだ!
「どうしたらいいんだべ?」
「なぁ財前、お前そんなに焦ってどうしたんだよ?」
私の前に片膝ついて不思議そうに見るのは筋肉ゴリゴリマッチョの加藤勝陸士長だ。
確か青森から来たって言ってたような。
このメンバーの中で誰よりも先陣切って行動してる。
「加藤士長…わがんねぇ、わがんねぇがらどったらしていいがわがんね…わがんねぇんだよ…」
「おめぇ、津軽衆だべ?
財前、おめぇみったぐねぇことねぇぞ?
わぁから見ておめぇだば、ほがの男連中より綺麗に飛べてるし大林3佐が言うように一直線になっきゃぁ
まんず…まんずかっこいいよ、うん!
へば比べて見ろ男衆達、ばやばやして話てなんだ
せばだばまいねびょん」
ん?
なに言ってるかわからない。
わかんない事ないけど癖が強い!
つまり、え?
「津軽衆じゃないですよ、おらほの家は北海道の陸別ってところです
加藤士長はなしてなまらかっこいいって言うんだべか?
なしてそったら事を言うんですか?」
「他の空曹や陸曹とか陸士っきゃ見てみろ?
みぃんな惰性でやってるべ?
本当にやりたいって思ってるの…財前と有川と空自の轟くんとが数少ねえじゃぁ
もっと自分に自信っきゃ持て、俺は応援するぞ」
なんて加藤さんに言われたと同時に、課業終了のラッパがなった。
それと同時に今日の訓練が全て終了して私達は隊舎に戻った。
あの後有川さんや、轟さんも私が気がつかなかった異変に心配して来てくれた。
慰めが欲しいんじゃない、自分の中で落とし込めない何か澱んだもの。
どう捉えていいかわらかない悔しさ。
みんな惰性でやってるわけがない。
みんなの足を引っ張っている気がして仕方がない不安。
『そんなに…悔しい顔しないでニャンコ
可愛い顔が台無しだよ』
「神様…ってここはwacの隊舎ですよ!?
なにやってるんですか!」
『外に行こう…風呂も掃除も済んでいるんだろ?
隊舎の横の非常階段あたりに行けばいいんじゃないかな
靴磨きも兼ねていけば怒られないさ』
靴磨き以外のことは終わっている。
いやなんで靴磨きやってないこと知ってるんだ?
まぁいいや、じっくりやろうって思っていたし。
隊舎の端っこにある外の階段の踊り場に新聞紙を引いてその上に今日もご苦労さんこと汚い半長靴を置き靴磨きセットを取り出す。
神様は私の事をよく見たいのか、何段か階段を上がってそこにおりしけ…じゃなくて座臥…じゃなくて…腰掛けている。
『さてさて今日の差し入れだよ
今日はガトーインビジブル、リンゴが正規分の正規だけどいいリンゴがないからバナナで挑戦してみたんだ
俺さ敵性語を使ってるけど大丈夫?』
「今は令和ですよ?」
『よかった、じゃあ大丈夫だね』
「すごい…バナナと生地の層になってる」
『でしょでしょ!
…ねぇニャンコどうしてそんなに焦るんだい?
焦る事ないんだよ、加藤君も言ってたでしょ?』
「わからない…どうしてか
みんなができているって思ってでも自分はどうだって思ったらそう見えなくて」
『なるほど…やっぱり君は空の子らしい考えだ
できる出来ない、得意苦手は多種多様
ニャンコにとって出来ていなくても、周りはできていると思っている
ニャンコ…食べつつ靴磨きをしながら産業廃棄物の俺の話を聞いてくれるかい?』
いいかい、苦手や得意は誰にでもある。
ニャンコはどうだろう?
ずっと周りができているって思っているのは、確かにあると思う。
それ以前に大勢で訓練を受けることに慣れていないのもあるかもね。
練馬でずっと一人でやってきた、なんだって一人でやらなきゃいかないと思ってしがみついて走ってきた。
慣れない環境もあるだろう、ずっと頑張りすぎてきたんだ。
そういう意味で空挺は恐ろしい場所さ、どんなに強い人間でもたやすく壊れる。
そこに抗おうとしているのが今の状態、互いに傷の舐め合いや教官に楯突くわけでもない。
ちゃんと落とし込んでいるし、理解もしているんだろうけどそれでもなぜかうまくいかない。
違うな、うまくいきすぎていて気がついていないだけさ。
『俺が言いたいのは…ちゃんと一端の挺身兵になってきてるってこと
頑張りすぎているくらいに頑張っている
俺はすごいと思うよ
今はまだ教わることの方が多い、経験を重ねてそれを糧として血肉にさせなさい』
「経験を重ねる
だからガトーインビジブルってちょっと神様!」
階段に座り込んでいたはずの神様は、いつのまにか私の横に来て私の顔を胸の中に収めて頭ポンポンしてくるし!
なんなのよもー!
…なんなのよ、もう。
『ご名答、大丈夫俺だけじゃない
教官たちや他の訓練性に練馬の少佐達も見ている
ニャンコは一人じゃない
悔しい気持ち…俺の胸に収まっているうちに泣いてスッキリさせな』
話が難しいけど…それでも、聞いてもらえてよかった。
一人で戦っていたつもりは私個人で感じていないわけじゃなかった。
ずっと不安だったんだ、だからずっと挫けそうだった。
神様…ありがとうそばで見ていてくれて。
なんとか行けそうだよ。
今回は青森弁、とりわけ津軽弁が少し出ました。
そして陸自用語でおりしけと座臥を出しました。
これは両方とも座るという意味です。
田中「その場におりしけ」
とかいうとその場で座れってなります。
昔、予備自衛官補の訓練で曹長の人に言われたことあります
瑠香「おりしけぇ」




