9-2 訓練開始!
色々と調べたりキャラの構成を考えているといつの間にか一週間過ぎてました。
空挺基本降下過程の期間は約5週間。
その中で行われるのは、着地法に戦闘訓練。
落下傘や落下傘を構成する装具品の取り扱い。
降下時における航空機からの飛び出し方や、その後の傘の操作方法などを習得する。
もちろん、ただ落下傘のことを覚えるだけでなく体力錬成に格闘術・戦闘方法などをみっちり叩き込むのだ。
「うぐぎぎぃぃぃい、なんのこれしきぃぃぃぃ!」
「自分の腕で上げろ財前!」
「レンジゃぁぁぁぁ!!」
「満足に腕立てできないか!
ぼさっと見てないで腕立てしろ轟!
そんなんじゃメディックになんてなれんからな!」
「あがぁぁぁ!!」
入校して三日が経った今日、私たちに待ち受けていたのは装具の取り扱い方ではなくきつい筋トレだった。
落下傘には主傘と副傘の二つがあり、主傘の重さは20キロ。
これを制するために筋トレをするんだが腕が言うことが効かない。
いきなり落下傘のことをやるとばかり思い込んでいた自分の何か訳の分からない自信は今ここで消えている。
「もっと膝をまっすぐにしろ、腰を落とすな!」
「うぐぐぐぐぐ!!」
「できない様なら私たちでやってやろうか!?」
「レンジャァ!!!!」
学生長の東田三曹も今は根を上げている。
朝霞でレンジャーの資格を優秀な成績で合格したらしいけど、今は補助で来た秋葉三曹にしばかれてる。
これが当たり前なんだ。
できて当たり前、やれて当たり前。
部隊レンジャーの厳しさは部隊によって多少の差があるらしいけど、さすが空挺団だ。
厳しさが全然違う…だからこそ負けられねぇ!
「腕立てやめ、その場に全員立てぇ!
すぐに教官の元に来い!」
痺れる腕を無視して、私達は教官の元に走る。
この課程は全員で50人。
そのうちの5人が空自のメディック、残りの人間は言わずもがな。
もちろんWACは私だけだ。
今からやる訓練の想像はつく…お父さんと必死にやったあの訓練をやるんだ。
「察した人間もいるだろう、今からやるのは5点接地法
まぁ転がりながら着地する方法だ
中には部隊にいる空挺上がりのやつに聞いた人間と、実際にしばかれてきたやつが1人くらいか?」
見ていろとばかりに大林教官は私たちを睨んでくる。
5点設置回転法はまず足で着地し、ひざを30度傾けて倒れる。
その時に後頭部を両手で覆ってひじは締める。
次に上半身…特に腰をねじってスネで着地。
次に太もも、左右どちらかの上半身側面を設置させ回転した勢いで直立できるというやり方だ。
何度も学校の屋上や、駐屯地の中でやったけど
まだ満足に体得できていない。
「一から懇切丁寧に教えてやるギリはないがな
死んでもらっても困る…まぁみっちりしばいてやるさ!
一回の号的で順を追ってやっていく!
小島助教の展示が終わればお前らもやってもらうからな!」
一瞬にして空間がざわつき始めた。
みんなが言いたいのは、一回見せたきりでわかるかと言いたいらしい。
この課程での絶対条件とも言うべき着地法の習得。
これができなければ落下傘を背負うなんて夢のまた夢だし、その先に進むなんて絶対にできない。
今ここで、お父さんと…財前教官との間で学んだことを見せてやるときだ!
一つ一つ解説はしてくれるけど、この動きをスムーズにできるかは自分次第だ…やってやろうじゃんか!
「ところで財前、お前の足元にいるその白い毛玉はなんだ?」
「レンジャァ!…えっ、猫?」
その白い毛玉は綺麗な青い目をした可愛らしい白猫ちゃん。
足元ですりすりして…汚れるからだめだよー!
かわいい、ゴロゴロ言ってる可愛ぃ!
あっあっあっがわいい!
そんなかわいい目で私を見ないで、追い払えない。
おいはらえないよ、だってかわいいんだもん!
「本当に瑠香坊はかわんねぇな…だがな追い払え!
訓練にならんだろう!」
「レンジャァ…あれ、どっかいっちゃう」
この課程で1、2を争うほどおっかない助教で有名な、小島1曹の声を聞いて驚いたのかな?
ひとしきり足元で遊んだ白猫様は、下僕めに興味をなくしてフラフラと自由にお散歩を始めました。
品のある歩き方が可愛いですにぁん!
訓練も大事だけどもふりたい、もふらせてぇ!
「おかえり…俺のかわいい空の子」
「えっお猫様が喋った?
お猫ぉ…あっ…」
一瞬、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
最初は白猫が喋ったのかと思ったけど違う。
白猫が抱っこされて満足そうにしている顔を見せてくれて…がゎいい!
かわいいなぁと言いたかったけど、抱っこをしている相手はまさか。
空挺隊員の前世といえばこの人達になるからか。
ずっとあなたもここで私を待っていたと言いたいんですね。
サァと風がなり木々の間から彼は私たちを見ていた。
その音が鳴り終わった時、彼は消えていて気がつけば助教達も何かを言いたげに私を見つめていた。
「おかえりニャンコ、待っていたよ習志野で」
消える直前に彼の声が私だけじゃなく、この場にいたみんなに聞こえたような気がする。
時より男性陣がなんだなんだと騒いで、助教達がうるさいと止めに入ったくらいだ。
そして一斉にみんなが木の間の方をじっと見つめていたと気がついた時、私の中にある不安という澱みが少し消えている気がした。
肩の力を抜けということですね、神様。
「空の神か、まさかここでお目にかかるとはな
お前ら案内してやるから神様に後で挨拶しにいけ
訓練を再開するぞ」
ふぅとため息をついた小島助教の声で我に帰る。
少し肩の力を抜いてやってみます神様。
訓練が始まりました。
これからいろんな人たちにそれぞれの地獄が待っています




