8-0 お父さんと特訓
最近アニメのバトルシーンと春を行くをリピートしすぎて頭から離れません
「いっち、にぃ〜、さんしー、ごぉぁろく!
もう一回…いっち、にぃ〜、さんしー、ごぉぁろく!」
「瑠香ちゃん、何それ?」
「さや知ってる…5点着地法でしょ?
…兄貴いるからさ、バ○見て知ったんだ」
「バ…バ○?
でもなんで、瑠香ちゃんが五点着地法?って言うのやってるの?
そもそも五点着地法って何?」
秋から冬に変わりそうなこの時期に相沢紗香は、親友を通り超えて実は三つ子なんだろうかと思うえみりちゃんと、そこで体操服に着替えてひたすら五点着地法をする瑠香と呑気に屋上に来ています。
屋上に行くからカーディガンを着込んできたのに、瑠香のせいで屋上だけ気温が上がって暑い!
とにかく暑い!
『やってんなー
んだよ監視に来なくたってお嬢は訓練やってんじゃねぇかよ!』
数分前からずっと男の人も一緒にいました。
少しあせた緑色の上下の変わった服に、小豆色の襟飾みたいなのを詰め襟につけたかっこいい男気のある男性がいました。
その男の人は、誰かが屋上に入らないようにドアに寄りかかりながら座ってケラケラと私たちを見ています。
「田中正明さん、お久しぶりです
駐屯地から出ていいんですか?」
「えっ、えみりちゃんの知り合いなの?」
「知ってるよー、この前飴くれたの」
「へへへ、そういやぁさやちゃんだっけか?
俺は田中正明ってんだ
お嬢の…まぁ上司から頼まれてお目付役やってる
よろしくな、あと俺自衛官じゃねえからよ」
「えっ、えっ?」
「その格好…軍服ですか?」
「おっ、えみりちゃんさすがだねぇ!
これはな、昭五式軍衣ってんだ
襟裳の変わった色をしてんのは兵科の色
俺は工兵…今の施設科の色さ
俺は昔の兵隊で、死んでんだよ
お化けの類で…どちらかと言うと神様ミテェなものさ」
「「るっ…瑠香ちゃぁぁ」」
「怖がらせないでください、一尉!
二人は耐性ないんですよ!」
「だーれが、怖がらせるかよ
まぁ、お前にくっついてる挺進兵よりマシだろ!」
すごい話が全然分からない!
確かに怖くないけど…怖くないかな。
とっても怖くないわ、おばけって感じしないし。
なんだか…すごく、かっこいい。
…って、なんか匂うと思ったらタバコ!
ここで吸ったらバレるよ!
「タバコ吸わないでください!
怒られらますって!」
「あーん?
そんなすぐにバレんのかよ!
ケチ臭い世の中になっちまったもんだ!
お嬢の集中力が切れるなら…吸わねぇよ
代わりにバイポでも吸ってやろ…たぁくよ」
「田中正明さんでしたっけ?
どうして瑠香が、こんな事を?」
「なんだよ、お嬢は何も二人に話してねぇんだべな!
決まっちまったんだよ…あの場所に行くのがな
早ければ今年の十二月に行くんだとよ」
習志野駐屯地、第一空挺団によ
「だから特訓してんだ…その時の話ってのはこうだ」
「外出禁止が解けた〜!!!
ひゃぁぁぁぁぁぁあ!!!!!
もう、なんでもできる気がする…空だって飛べる!」
「飛んで怪我してこい
治してあげるから…地面を」
「酷い…飯島3曹、酷いです!!」
我、神前瑠香は外出禁止が解けて心がハッピーです!
空だって飛べる、海だって潜れる、ハッピーシンセサ○○ーだって喉潰して歌える。
もうなんだってできる気がする!
宿題もビリビリに破いて、駐屯地の周り走り回れるよ!
今日も一日、ハッピー!!
「頭の病院連れていってあげようか?」
「健太それが賢明ね…ざっ財前陸将!!」
「向井一尉…うちの娘をお願いします、ぴえん」
「ざっ財前陸将…お疲れ様です」
見られたくなかったのに、見られたくなかったのに。
見られてしまったぁぁぁだ!!
もう嫌だ、こんなのまた後でいじり倒される!
やめてー何もしないでー!
……あれ?
何も言ってこない?
「田中ジィジから許可は得ている
瑠香を今日一日中、借りさせてもらおうか」
「えっ?
私が…財前陸将と…ですか?」
「構わんだろ、向井一尉?」
「田中3佐から許可を得ていると言うのであれば」
なんだこの気迫に、今まで感じたことのない凍てついた財前陸将の顔。
美形だから余計怖いって前までなら余裕ぶっこいてたけど。
今までと比にならないくらい怖い。
向井一尉が…冷静な向井一尉ですら怖気付いてる?
いや…手が震えている?
「…まぁ、少しだけ瑠香を、いや神前2士を鍛えるだけだ
先輩空挺隊員として…これからその空を飛ぶ者に無様な格好をさせない為にな
悪いが今は優しい財前陸将でも、甘ったるい父親でもない…」
「財前…教官ですか?」
凍てついた目が硬っている室戸3曹の方を見つめる。
ふっと笑っているけど、その目に光なんて物はない。
自衛官として本来あるべき姿、本当の財前誠という自衛官像なのか…?
怖くて、冷たくて凍てついていて孤高の存在。
完璧を求め、常に完璧である姿。
それを体現したのが、目の前にいる自衛官。
普段の父親としての顔とは全く違う。
「俺が教官だった頃を知っているような口ぶりだな?
お前が空を目指した時の教官どもは俺がしばいてやった連中だからな
その姿を見せれば神前は壊れるだろうなぁ?
楽しみだ、とてもとても」
みんなの顔が硬ったというより、戦闘モードになってる。
だめだ、この前みたいに戦争になりかねない!
まずい距離を開かないと!
どうやれば、どうすればいい?!
「なんて言うのは冗談だが、神前を特訓するのは本当の話だ
ついてこい、特別に稽古をつけてやる」
「あっ、ありがとうございます!」
みんなの顔が物凄く固くて怖い。
こんなことになるなんて、なんて言ったらいいんだよ?
財前陸将…どうしてそんな風に言ったんですか?
執務室を出てもまだ凍てついた目のままだ。
時として非情に成らなきゃ行けないのはわかってるけど。
これでいいのか…な?
「暗い顔をするな…そんな顔した瑠香は嫌だよ」
誰もいない廊下に硬い半長靴の音と、くぐもった財前陸将の声だけが響く。
外からの強い風の音が、目の前にいる人の声と同じくらいに冷たくてたまらない。
廊下を抜け正面玄関を抜けて、冷たい風が吹く外に出た。
「隊舎前の空き地でいいか
即応の連中も安心して見れるだろ?
今から五点着地法、正しくは五点接地回転法の演練を行う。
空挺降下の際、着地した時の衝撃を体を捻り回転させ分散し着地する方法だ
基礎降下過程で習うが…それじゃあお前のためにならん
習志野に行く前に俺が叩き込んでやる」
「レンジャァ!」
「今日は身体中の皮が擦りむけて、風呂なんて入れんぞ?
まず足で着地し、ひざを30度傾けて倒れる
その時に後頭部を両手で覆ってひじは締めろ
次に上半身…特に腰をねじってスネで着地
次に太もも、左右どちらかの上半身側面
回転した勢いで直立できるからな」
「レンジャァ!」
「理解してねぇのにレンジャァ、レンジャァって言ってんじゃねぇぞボケが!
今からいくらでもやらしてやるよ…満足にできるまでしばき倒してやるからな!」
「レンジャァ!!!!」
「ってな事があったわけ
まぁ俺が見たわけじゃねえけど」
「「スパルタ…だね」」
「空挺降下は死人が出るんだよ…だからスパルタになっちまうんだ
それにお嬢の親父さんも、元空挺レンジャーだから尚更な」
「瑠香ちゃんの夢って、空挺レンジャー」
「お父さんの背を超えたい的な?
そっか、だからこんなに」
「はぁ…はぁ……、お父さんの…背を…超えたくて…
超えれない…けど…超えたいから…頑張りたい…」
瑠香の夢は到底叶えられるような夢じゃない。
瑠香の事が気になって、自衛隊のことを調べた事もある。
第一空挺団のことは見たことあったけど、まさか目指しているだなんて知らなかった。
前に瑠香がいるのが練馬駐屯地で、普通科?ってのも聞いたけど第一空挺団ってもっとすごいらしい。
ネットで見た程度だから、どうすごいとか分からないけどこんな風に夢のために努力してるのはかっこいいな。
「……瑠香、オメェはすごいよ
だけどな、無理はすんじゃねぇぞ
って言っても今はそう言ってらねぇか
実際に親父さんが4階から飛び降りて着地法の実演やってたからー
バケモンだな、挺進兵ってやつわ!」
「「4階から飛び降りた!?!?」」
「しかも無傷だってよ…
日本一の空挺隊員はすごいねー
ほれ、さっきまで休んでたのにまた練習してやがる」
休んでいたと思っていたらまた特訓してる。
どんな時でも、特訓して一人前になろうとしてるんだな。
さやも夢のために頑張るかな!
瑠香が頑張ってるところ見せられたら、やってやるって気持ち湧いてきたし。
さやの夢は、日本一のヘアスタイリスト。
それに向けて、頑張ってやる!
「なってやる…超えてやる…お父さんの背中!」
「お嬢…パレンバンに咲いた真白き薔薇の子になんざなるんじゃねぇべ
それに、義烈みたくなってほしくねぇ
…お前の力は、人々に力を分け与える光だと思いがなぁ」
「…すごい、神前さんってかっこいいな
俺も…見習わないと、俺ももっと頑張って日本一のアイドルになりたい」
「涼太君…萌も神前さんの事かっこいいって思う
幼稚園の時から、変わってないね
やっぱりカッコいい瑠香ちゃんのままでよかったわ」
「さっきダイイチクウテイダンって聞こえたけど?」
「調べておくわ涼太君
屋上にいたらこんな話が聞こえてくるって思わなかった…
幼稚園の頃から変わらないですね
空挺団の夢…叶うといいね」
5点着地法は後々も出てきます。
今年は第一空挺団の年始の降下訓練が一般公開されないと聞いたのでライブ配信しないかなーと期待してます。




