5-3 こんなことある?
毎年、動画で総火演見てるのですが
今年は観客なしが寂しいですね
仕方がないけど
「…あの」
「ふんふんふーん」
「…あの」
「ふっふーん」
「あの、財前陸将すいません!」
「どうした?」
「なんで…なんで」
なんで私と走ってるんですか!?
レンジャー課程の訓練が終わって、基礎課程の訓練が始まった。
基礎課程訓練では、敬礼や銃の扱いを学ぶ基本教練。
格闘の基礎の基礎を学ぶ格闘。
敵地に匍匐前進からの突撃攻撃を行う戦闘訓練などなど。
たくさんある中で、基本教練や行進訓練や後何個か訓練が免除された。
まぁレンジャーの訓練受けたってのが理由なんだって。
そんなこんなだけど今は体力錬成中。
自分のペースで走れるからいいんだ。
おかしいなぁ…私、速いペースで走ってるのに
同じペースで走ってるはずの財前陸将はなんで汗かいてないの!!
いや、この前自主トレしてたら財前陸将一向が走っている姿は見ていた。
その時、取り巻きの人たちみんな顔面真っ赤で泣きそうになってるのに財前陸将鼻歌歌いながら取り巻きの皆さん煽っていたし…。
今もそうだよ、マイペース維持で走っているはずなの
に、いつの間にか財前陸将ペースになってきてるし。
こんなことある?
「いやぁ、新隊員と走るのは楽しいなぁ」
「汗…一つ…かいてない…化け物だ」
「聞こえているぞ
守りたい人を守りたいなら化け物になるのが一番だよ」
「レンジャ」
「そんな返事しないでくれ
今はレンジャー課程の訓練をやってないし
気が滅入るだろう?」
「わかりました…
財前陸将…聞きたいことが…あるのですが」
「訓練課程中に、3中隊の教官たちをボコったことか?
あれは、あいつらが俺の教え子だからだよ
あいつらが若手3曹とかで空挺レンジャー課程受けてた時に、俺が教官やってたんだよ
山に入る前に、たるんでないか奇襲かけるぞって言ってたんだよ
本人たち了解だ」
総合訓練の時に三中隊の教官たちをボコボコにしていたこの人。
空挺がどうのこうのと言っていたのがずっと気になっていた。
刺身にするとかいろいろ暴言吐いてたし。
敵にやられたら終わりだし。
「だから空挺レンジャーが…ドウノコウノッテー」
「怖がらせてすまなかったな!
熱が入るとどうも俺だめなんだよなぁ
そうだ、俺からも質問だ
お前が化け物に襲われそうになった時…お前の名前叫んだのわかったか?」
「聞こえてました…あの時はどうにもできなくて
名前を呼ばれた時、驚いちゃいましたけど心配させてしまったって思いました…財前陸将?」
どこか遠くを見つめる財前陸将。
なんでこんなに悲しい顔するんだってくらい表情がどんよりとしている。
そんな顔しても、イケオジ様なの分かってるのでフェロモン出すのやめてもらっていいですか?
そうか…財前陸将はデーモンコアと同じ破壊力を持った
フェロモンが出せるのか…。
あっ浄化…!
「実はあの時な…神前…!」
神前ィィィ!!!!
消えるなぁぁ!!
十分後 衛生科、診療所
「っは!
ここは…我は知ってるぞ
知らない天井だぁ!!」
「黙れ、鎮静剤打たれたいの?」
「すいません」
おかしい、我は財前陸将と走り申し候。
何があったというのだ…。
微かに覚えておるのは…財前陸将のイケオジフェロモンで悩殺され…そこから覚えておらぬ。
そういえば、イケオジフェロモンではなく財前陸将は何処に!
我らの殿でいらっしゃる財前陸将は!
「お前も引っかかったんだな
イケオジフェロモン悩殺攻撃に」
「なぜそれを!
某は、飯島3曹には伝えておりませぬぞ!」
「その口調になるのも症状の一種だから仕方ない
しばらくすれば元に戻るよ」
「そうでありますか…」
よくわからないであります。
財前陸将から浴びたフェロモンの影響で私はこのような口癖に変貌したでありますか?
しかし、たった10キロ走った程度でこの様。
流石に陸上自衛官として相応しくないであります!
こうしては…こうしてはいられませぬ!
「大丈夫か?」
麗しきバリトンボイスとも言える声のした方向には心配し過ぎて疲れ切った財前陸将がいるであります!
イケオジ様にはイケオジボイスがついてくるであります!
いつの間に迷彩服に着替えてたの?
よく見れば…目がうるうるしてる。
すっごく目がうるうるしてる!
泣きそう、泣きそなの?
おっ、口調が元に戻ってきたゾ。
「何処にいらっしゃったのですか財前陸将」
「田中3佐のところだよ
こっぴどく叱られてね…あの人には頭上がらないよ」
「今回の症状は軽いほうです
イケオジフェロモン出すのはいいですが、加減してください
神前でも耐えたほうだってことをよく自覚してください」
「飯島、イケオジフェロモンってなんだ?
まぁよくわからないが、お前を苦しめたのなら俺の責任だ…すまなかった」
さっきよりも目がうるうるしてきてる!
謝らないでください。
心が…心が痛いよ!
そんな…悲しそうな目でみないで!
ダメです、私のHPはもうゼロよ!
わかんない!
なんで私の視界もぼやけてるの?!
なんで私も泣くの?!
やだ…やだ…やだよぉ!
「こんなダメな陸将だけど…許してくれるかい?」
今…私の頭に手がぽんって乗ってる?
ちょっと首傾げて…聞いてきてるのは財前陸将?
こんなにいい匂いで…こんなに素敵なおじさまは本当に財前陸将…?
こんな人が私のお父さんだったら毎日幸せなのかなぁ。
優しくて…イケオジで、ちょっとおっかないところもあるけど。
いつもの透き通る様な琥珀色の目が綺麗ですね。
無理…イケオジすぎて…死ぬ。
「神前…神前?
おい、しっかりしろ神前!」
「すいません、変わります!」
瞳孔は完全に開き切っている…
手を持って離すもパタってベットに落ちる。
息は…していない。
この状況…察するに…。
せめて、瑠香に暖かい春の陽気をたむけてあげよう。
これが彼女に対する弔いだ。
窓を開ければ…ほら、春の匂いだよ。
「飯島…神前はどうなったんだ?」
「……御臨終でございます」
「そんな、ふざけるな!」
ふざけているのは貴様であります
財前誠中将閣下殿!
注意したのにも関わらず…。
この不届き者が!
「この声は、田中3佐!
これは、事故なんです!」
「我が同胞を天に還す所業
なかなか、鬼畜では有りませぬか?
許してはおけぬ」
「田中3佐…その手に持ってるのは?
その長物しまってください!
おじいちゃん、お願いだからしまって!
飯島助けろ…あっあっあー!!!!」
春から少しずつ暑くなり始めてきたこの頃。
旅立ちというのは、あっけなくやってきます。
それは、上の人事然り…命のやりとりも然り。
そんな中、私は静かに手を合わせました。
流石、我らの田中3佐です。
見事に財前陸将を気迫だけで失神させました。
帝国陸軍の歩兵少尉を経て、武甕雷兵という魔改造を施され…。
今は、陸自のスーパーおじいちゃんです。
流石ですな。
「ふふ、モンシロチョウ」
神前のために開けた窓からふわりと春の風に乗って僕の指にモンシロチョウが止まりました。
花と間違えたのかな?
僕は…この世界が大好きです
あー、平和だな。
春ってとても気持ちがいいです。
素敵だなー。
「おと…さ…ん
どこ…に…も、い…か…な…い…で」
「「「 神前!?!? 」」」
「神前よ、お前今なんと言ったのだ?
ずさまには、お父さんと…」
「子供の頃の淡い夢を見ているのか?
…大丈夫だ、もう俺はどこにも行かない
本当はもう会えているんだよ」
瑠香
今回はギャグというはイケオジ回です
イケオジ財前のモデルはうちの会社の本当にいるイケオジ上司です
パートは違いますが




