表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/144

4ー5 知りたくなかった真実

昼寝して少し運動しようとしたらこの時間でした


ファー○!

最後の工程を終えてすぐに下山するためのルートをほとんど駆け足で降りた。

足が震えて進んでるのか、わからない。

なんか、走って降りると言うより滑り落ちてるって言うのが正解だべ!

だから今も…




「落ちるー!!

ああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」


「足を止めたらダメよ瑠香ああああああああああああああああ‼︎」


「アネ○ン…アネ○ン

ダメだ吐きソォォォォォォロロロロロロロ‼︎」


「いやー

今回も良い滑落日和だな…

大島1曹、茶の準備ができたよ」


「ありがとうございます

こうやって自然を見ながら部下の滑落する様を見るのはとてもワビサビですな」




おいぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!



「おかしいだろォォォ!!

どっから持ってきたんですか⁉︎

何やってるの、ってその茶の間は何よおじいちゃん!」


「千春怒るな…

これは、沖田が作ってくれた即席茶の間だ…

いやぁ、工兵はいつの世も匠よ

あっ茶柱ぁ」


「アネ○ン、アネ○ン、アネ○ン」


「いやーん!

もう誰か止めてぇ‼︎

沖田さんの事止めてぇよ〜!」


「「ぶぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」」


「おいぃぃ!!

佐藤、小野コンビ走るのやめて転がってるじゃないの!

お母さん止められないじゃないー!」


「ぶっ…ぶつかぁ!!!」




その時私たちはふと思いました。

人間という生き物のちっぽけさを…。

そして、自然という偉大な存在に常に敬意を払う大切さを…。

そして、田中3佐の近くで転がる黒い塊を私たちは涼しい目で見るしかない。



「源一郎さまァァァ!!

ご機嫌麗しゅうぅァァァァァァ!!」


「なんでテメェがここにいるんだ白石!

貴様なぜこの場所が!」


「例え、火の中・水の中・敵の砲火の中!

源一郎様の元にならどこまでもゲロロロ‼︎‼︎」


「こんな所で吐くな貴様ぁ!」


「田中3佐…田中3佐!」


「なんだ神前ィィ!」


「本当にぶつかります!!」




「「「「「「「「あ!!」」」」」」」」





それから1時間後、真っ黒の煤だらけになって私たちはチェックポイントとなる駐車場に降りてきた。

いろんな隊員にどうしたその顔って言いたげに見られたのは、悲しい事なのです。

みんな真っ黒になっていたから、怖くない。





田中3佐曰く…


『みんな一緒なら怖くない!』


大正解だと思います。



「身体中痛いし、最後に爆発するしわけわかんないです。

で、なんで富にィいるの?」


「源一郎様と同じ空気を吸えて

罵倒されて…はぁ白石は夢見心地ですぅ」


「まるで人の話を聞いていない

人間じゃないね、瑠香

村上千春ポイント、-1145141919810364364893点」



村上3曹のとんでもないマイナス域に達したところで、用意されていた大型トラックに乗り込んだ。

あんなに重たいと思っていた荷物も、今では何も感じない。

肩に食い込んで痛くてたまらなかった銃の負い紐も、今ではとても懐かしくて不思議だ。

トラックの中で、今度は眠気と格闘…。

右隣に座る大島1曹の良い匂いが…ねむ。




「ふんふ、ふんふんふんふんふーん

ふふふーん、ふふふん」


「ふん…ふん…糞?

大島1曹、トイレ行きたいのですか」


「鼻歌だべさ!

なんでふんふん言っただけでトイレ連想するの?」


「ふんふんって…」


「だからそうじゃないでしょうがぁ!

…って何笑ってんだお前ら!」



何人も肩を小刻みに縦揺れし始めた。

変なこと言ったのに、なんかこっちが恥ずかしくなってきた。

でもなんだろうな、眠気が……。

寝そう…。



「そういえば、さっきの歌はなんです?」



小野陸士長の…声も…子守唄に聞こえ…。

だめ…ねちゃ…だ…め。

んんんぅ…。



「俺が昔いた部隊の歌だ

空の神兵っていう歌でな。

習志野駐屯地に所在する第一空挺団の歌だよ…

神前…?」


「おきれまふ、寝てまへんへば!」


「わかった、わかったから!

今から、俺の歌聞いてくれるかい」


「ヘァー!?

聞きまふ、ききまふ!」



明るいテンポだけど歌詞の内容が…。

大空に真白き薔薇の花模様?

赤き血潮(ちしお)って…つまりどゆこと?

でもなんだか、さっきよりもねむ…た…。



「寝たのか…この歌は即効性があるなぁ」

その寝顔といい…そっくりだ」



そっくりに育ったみたいだよ…マナミ




1時間ほど揺られて私たちは河川敷についた。

練馬駐屯地から10キロの地点にいる。

トラックの外からわぁわぁと何か聞こえるけど気にしない。

沖田専任助教に言われてドーランを濃く塗り込んで

トラックから外に出た。

堤防の上の方に沢山の人がいる。

物珍しいから写真を撮る人や子供、横断幕を持って何か言っている人…。

人多くね?




「気にするでないぞ神前

よくあることでな、気にしたら負けだ」



車両から外に出て隊列を組んで、ゆっくりと歩く。

歩けば沢山の人がついてくる。

どうでも良いわけじゃないんだけどね。

この格好で街を歩くのはなんだか気持ち悪い。

だけど、迷彩服を着た私の視線で見るとすごく平和なんだなって思う。



…あれ?

こんなに足って痛かったのか?

膝が曲がらない。

呼吸がいつもより早い気がする。

10キロなんて余裕だと思っていたのに…!

歩くたびに関節が…悲鳴を…!

ふざけんな…ふざけんな!



「安心と疲労がやってきたようだな

さぁこれからが正念場だ…

ここはアスファルト…山と違って足の痛みが違うぞ」



大島1曹…なんでなんでこんな…。

足が動いているのかわからない。

目が…かすんで見えない?

体が…心が…壊れそうだ!

こんな…こんな…!





「神前、貴様!

ここで諦めさせんぞ!

しっかり前を見ろ!」


「お前の根性そんなもんか!?

船橋のばぁちゃんの家に帰りたいか!」


「ここで負けようものなら、あんたの事アンテナにくっつけるよ!」


「モルヒネ打たれたい?」


「負けても良いぞ!

負けたらもう一回、しばいてやるよ!

それとも狙撃銃で打たれたいか!」


「バズーカの的にされるか!

それとももう一度きつい訓練受けるか!

両方受けるか、どっちが良い!?!?」


「最後まで戦い抜くのよ!

じゃないとお母さん、対艦誘導弾にくくり付けて海まで飛ばすわよ!」


「気合が足りぬ!

駐屯地まで残り2キロだ、走って帰るからなぁ!

歩調数え!」



我ら!     我ら!


最強!     最強!


最凶!     最凶!


即応!     即応!


レンジャー!  レンジャー!



歩調ーぉかぞぇ!



1、2、3、4!   1、2、3、4!




「レンジャ…レンジャ…」


「声が聞こえねぇべ!

貴様はその程度か!?」


「レンジャァァァァァァ‼︎‼︎」



体の言うことなんてもう無視してやる!

悲鳴なんてただの嘘っぱちもいいところだ!

連続歩調から時折聞こえる、頑張れって声が…。

負けるものかよ…見せてやんだよ!

大島1曹に私はレンジャーになるって見せつけんだよ!

私は…レンジャーなんだって!



「あともう少しぃぃ!!」


「その調子だべな!」


我らが! 我らが! 我らが! 我らが!


神前!  神前! 神前!  神前!


レンジャー!    レンジャー!


課程を!  課程を!


クリア!  クリア!





「神前…お前はもうすぐ、俺ら即応強襲部隊に配属なんで…!

ここで意地見せてみろやボケがァ!!!」



「レンジャァァァァァァ!!!」






瑠香ちゃんファイトー!!


瑠香、もうすこしよー!


神前2士、頑張れ!!


レンジャー!!!



「お前のために、牧野さんやおばあちゃんが待ってんだよ!

走れや、神前ぃぃ!」



門が見えてきた!

遠くからおばあちゃんや牧野えみりちゃん。

三中隊…いや男軍団が手を振ってる。

他の隊員の皆さんも、即応強襲部隊ってのぼりを振って応援してるだなんて…!




「走りきって神前!!」


「レンジャァァァ!!!」



門を過ぎた!

行ける…行ける!

やるんだ!

私は…私は、レンジャーになるんだ!










「…よく頑張った

神前、お前は胸を張ってレンジャーと言える

女性初のレンジャーだ、おめでとう」





体から何かがふっと抜けた気がした。

みんなの声が、聞こえてくる。

あの静寂の闇から帰ってきたんだ。

大好きなみんながいる練馬駐屯地。

家に帰ってきたんだ…帰ってきたんだ!




「瑠香…よくやったね、頑張ったね」


「おばあちゃーーーん、うわぁぁぁぁん!」


「瑠香ちゃんおかえり!

すごいよ、かっこいいよ!」


「えみぢゃーん、帰ってきたよ!」




みんなで神前を胴上げするぞ!


荷物下ろさせろ!


こっちこい神前、お前が主役なんだよ!


せーの!


わっしょい! わっしょい! わっしょい!






「あっー! あっあ! 吐くからやめちくりー!」




あれ、田中3佐と大島1曹何話してるんだ?

それよりも誰か胴上げとめちくりー!

吐いちゃう、吐いちゃうって!

きもぢわるい!




「神前…おめでとう おじさん嬉しいよ」


「大島1曹ォォォ! わだじ…わだじ!」


「泣くなよ…泣いたら可愛い顔が台無しだ

そうだ、これを渡したくてな」



大島1の手にあったのはぐるぐる巻きにされたビニール袋。

おまけに、ブラックテープでガチガチに固められてる仕様って最低だな!



「なんてな…これだよ」


「それ!

瑠香ちゃんに渡しておいて欲しかったお守り!

手紙も入れてたから、休み時間とかに見てほしくて」


「すごい嬉しいよ

ありがとう、えみりちゃん

訓練終わったけど、後でじっくり読むよ!」



ふふって笑い声が聞こえた。

音の方を見ると透き通った琥珀色の目が私を見つめている。

なんでこんなに暖かいんだ。

心の中まで見透かされてそうで怖いけど、大島1曹なら怖くないや。




「神前、鉄帽を取ってくれないか?

俺からも、渡したいものがある」



言われた通りヘルメットは取った…。

あの…あのぉ!!!


「神前、レンジャー養成訓練終了おめでとう

俺からは、頭ポンポンだ…」




あ、あの、あのぉ!

大島1曹、大島1曹!

すっすっすきぃ!




「財前陸将!」



一人の声がグラウンドに響いたと思った途端、大勢の走る音にざわめきのようなものが響いた。

音の正体は…司令部の陸曹に幹部たち、かれこれ10人くらいはいる。

なんで大島1曹に敬礼してんの?

財前陸将…ってまさか



「すまないな…留守中、辛抱させてしまったな」


「化け物に襲われたと聞きましたがお怪我は?」


「無事だ…なぁ神前」


「大島…1曹ですよね」


「ふざけるな神前! 

誰に向かって口を聞いてる!

それにこの方は大島1曹ではない!」



怒るなよ…お前ら


「すっすいません、しかし二等陸士のこいつが…」


「説明していない俺が悪いんだ…

神前、俺は大島誠一等陸曹じゃない」





陸上自衛隊、関東一の防衛・警備を担当する第一師団の長

陸将 財前誠


「それが俺だ

神前の成長を見たくて階級と名前を偽って近くにいたんだ…許してくれ」


「…レンジャ…」


「そういうことだわかったか!

財前陸将…お時間です

挨拶もありますので、ここは」


「あぁ…すまない神前

また後で執務室に来なさい

話がある…じゃあな」




それから先のことはもう覚えていない。

えみりちゃんが心配して私のそばにいてくれた。

田中3佐も、怒っていたっていうのは聞いた。

でも頭の整理が追いつかないよ。

どうして、そんな嘘をついたんですか大島1曹…。

なんでですか…財前陸将!










数分前


あぁ、こんなに成長して。

負けるとばかり思っていたのに、耐えて耐えて耐え忍んだ。

諦めてしまうと思った俺の負けだ。



「大島1曹…いや、財前陸将

もういいでしょう、あの子は認められたのです

皆に認められたのです…

財前陸将?」


「…私の負けだ

あの子と少し話してきます

まだ真実を伝えませんが…ね」


「行ってあげてください

ずっとあなたの背を超えたいと言ってたんです」


「わかりました…ありがとう田中3佐」


「礼には及びませぬ」



でもまだ伝えるわけにはいかない

俺が…瑠香の…。

いや、伝える勇気がない。

助けてくれ、真奈美(マナミ)

知りたくない事沢山あります

大島1曹というお節介じみたおじさ…げふん!

陸曹ではなくまさか陸将だと思わなかった。

瑠香にしたら裏切りです


次回からは自衛官編です

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ