4-0 総合課程前の小休止
ようやくここまで来たって感じです
もう少しで日常編スタートです
橋梁を爆破してから丸一日経った。
私達の部隊は、藪の中に設置された宿営地で軽く休憩を兼ねて食事を取ったり仮眠をしたりしている。
交代制で見張りをして敵がきたら知らせるのも任務の一つ。
「もうすぐ交代だぁ
んんん、肩がぁ痛たたた」
ずっと重い荷物を背負って歩いていたのに、身軽になると急に肩の痛みが現れる。
また荷物を持つと忘れられるのになぁ
誰かくるな…
「交代だぞ、小野陸士長」
「お疲れ様です
特にコレと言った異状はありません
お願いします」
「そういえば…俺が足音消して近いたのに気がついていたな」
「そうですかね?
あまり自覚はないのですが…」
嘘です。
バッチリ気がついていました。
この山に来て長くいると、いろいろなものや音に気がつく。
足音、爆発音…思いつくだけでキリがない。
足音ならどのくらいの距離にいるのかが面白いくらいにわかるようになった。
この訓練にプラスして自衛官としての基礎訓練が待っている。
レンジャーよりは楽らしいけど…
「あっ、そうだ
田中3佐が、待っているぞ
お前と話がしたいんだとさ」
「レンジャ」
「それじゃあ、休みなー」
最近、みんなが優しく感じる。
訓練中はボケだのバガだの罵詈雑言と理不尽を言ってくるけど、それ以外の時は本人らしい素の部分が見えてきている。
認められたという証なのかそれ以外にもあるのか。
先遣隊…男連中の教官はどうなってるんだろう。
なんて考え事しながら歩いた先に3佐のいるテントがある。
入り口の覆いをめくると、沖田専任と無線を聞きながら作戦らしいもの立てていた。
「レンジャー神前入ります」
「む、来たかい…
説教ではないのだ…聞きたいことがあるのでな」
「聞きたいこと…ですか」
「夜中に見た幻影のことだ」
なんで幻覚を見たことを知ってるのさ!?
一言も話していないのに!
まさか田中3佐も心の声が聞こえるの?
でもそんな事あるはずが…
「お前がぶつくさ何かを話していたのを聞いていてな
その時だよ…感づいたのは」
「あ…なるほどわかりました」(分かってない)
「まあいいさ
沖田といるのは気がまずいだろう
深呼吸がてら、外に行こうか」
「レンジャ」
いつもなら睨んでくる沖田専任だけど、ひらひらと手を振って無線に齧り付くかのように集中している。
次の想定のことなんだろうとはわかるんだけど何聞いてるだろ?
ペーペーにはわからないか…
「ここでいいか…さて座ろうか」
倒木を指差して私に座るように促した。
ゆっくりと腰掛けてのんびりする田中3佐を見ていると本当におじいちゃんに見えてくるなー
あぁ、船橋に住むおばあちゃんに会いたいな。
ばあちゃん…
「今さ、儂の事をおじいちゃんと思った?」
「レンジャ⁉︎⁉︎⁉︎」
「はははは、図星だべな?
いいべ、皆にずさまーって言われているからの
ところで神前よ、教えてくれぬか
幻影のことを」
なんといえば言いのかわからない。
ただ言えるのは高い空の上から、私の体は落下していくこと。
その中で白寄りのグレーの色の服を着た男の人が立っていた。
体には黄色にカバンみたいなのを背中とお腹に付け。
ヘルメットも顔の側面を覆う不思議なものをかぶって
おでこのあたりには星が書いてある。
そしてその人は、私のことを空の子と言った。
「うむ…皆目検討がつかんなぁ
何者だろうな、その男は…」
「わかりません…
ただその人の目は澄んだ空の色…
綺麗な蒼い色に六芒星が写っていました
最後に…」
俺と同じ転輪の眼を持ってナラシノにきて欲しい
「…なんて言われたんです…田中3佐?」
「少し昔の話を思い出した…
その前にこの絵を見てくれ
うまくはないがな…」
渡されたメモ帳には私が話した特徴が全て私の見たままのあの姿通りに描かれている。
男の服の特徴…
一枚繋ぎのような独特な服装で茶色の革靴。
膝丈のズボンの下から同じ色のタイトズボンのようなのも一致している。
それに背中とお腹にあるカバン…
いや、足に脱落しないように紐が通っていた。
「どうやら、この姿のようだな…
少し昔の話になる、儂がその世界に入る頃だ」
あるジィさんが話してくれた。
第二次世界大戦中、南方の島の方で戦っていた時の事だ。
歩兵だったそうだ…今でいつところの普通科でな。
戦闘が終わり、その爺さんが手当てを受けた後だ。
ふと外に出ると念仏が聞こえてきた。
少し小高い丘のところに座って念仏を唱えている兵がいた。
『そこにいるのは誰か!?』
そしたら念仏を唱えいた男はゆっくりと立ち上がって
こう答えたそうだ。
『空から来た死神…挺進兵×××だ』
名前は聞こえなかったそうだが。
だがジィさんは驚いたそうだ
酷くやつれていて心身ともに弱っている姿を見てな。
すれ違いざまに男の顔を見た…
目の下のクマは酷く涙を絶え間なく流し続ける。
それによだれを垂らし項垂れるように
ふらふらと自陣に戻っていたそうだ。
その時の目が…蒼い目にうっすらと六芒星が写っていたんだよ。
「そんな…ことが」
「だがコレだけではない…男が念仏を唱えていた場所に問題があるんだ
ジィさんがいうにはそこには敵味方関係なく作られた簡易的な焼き場があったんだ」
「え?
焼き場ってつまりそれは」
「死体を地面に掘った大穴に入れてそこで焼くのだ
ジィさんは吐いてな…
そして男は…そういう意味で念仏を唱えたんだよ」
「供養…という事ですか…?」
「事実を知る術はもうない
なぜあの時に念仏を唱えていたのか…
懺悔かも知れん、あるいは弔いか…な」
幻覚の中で見た男の人の正体は少し分かった気はした。
でも、よりにもよって私の前に現れたのかわからない。
何か意味があるのは、わかるけど真意が不明確だ。
空から来た死神…あの人は自分で言うほどに人を…。
考えたくないな。
「瑠香…もう一つ心当たりがあるのだ
挺進兵の後継にあたる部隊が陸自にある
所在するのが船橋にある習志野駐屯地だ」
「聞いたことがあります
あれ、そこって私の祖母の家の近所じゃ」
「何か関係があるのかも知れんな
同じ眼を持って習志野に来い…か
この訓練と残りの基礎訓練1ヶ月を乗り越えたら…
行くか、習志野に」
「え?
それってどう言うことですか!?」
「何、見学というやつだ
だが会えるといいな、その男に
そろそろ戻ろう、次の訓練が始まるぞ」
そう言われて私は3佐の後を離れた。
背嚢の重さが最初に比べて軽くなっている。
その分弾薬は確実に減っている。
目的地に着く前に、補充はあるのかな…
なんてねー。
「ふぅ、瑠香に少し嘘をついてしまったな…
ジィさんは昔の儂の事なんだがな
いずれは言わねばならぬな
ところで…」
いつまでそこに隠れているつもりだ
お前の姿はとっくの前からわかっていたぞ
空から来た死神の挺進兵よ!
『バレていましたか…
お久しぶりですね、田中少尉殿
いえ、田中少佐と言えばいいですかな?』
「どっちでもいいさ…
して、死神と豪語する貴様は何者か?
なぜあの子に寄り添おうとするのだ」
『昔、ある人に頼まれたのです
私がダメだったらあの子たちをお願いしますと…』
「あの子たち?
瑠香ともう一人いるというのか⁉︎」
『今は答えられません
ですが、時が来ればお話しします
それまでどうかあの子を…空の子を守ってください
お願いです田中少佐殿』
「あいわかった…
このじじいが必ず守ってみせよう
だがな、お前も見守ってやってくれ」
男は嬉しそうに敬礼をしてスゥと音を立てるが如く消えていった。
瑠香の元に行ったのかそれとも…
昔に頼まれたことってなんだ…
なんだか、とてつもなく嫌な予感がするな
さぁ主人公の瑠香と上司の田中は話をしていましたね。
まさか田中3佐の過去だとは主人公は思っていないと思います。
昔約束したこととはなんでしょうね




