15-9 清算
急性胃炎を発動してました。
それにしてもお父さんの後、100メートル後方で拘束されている坂口はずっと震えて腰抜かして…漏らしてるよ…。
「さて、自分は関係ないとばかりに黙っている桐谷
久しぶりにしては、お前も何も変わらず傍観者か?
何百人もの人生を破滅に追いやったお前が」
「ぅっ…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
元はと言えばお前が真奈美を、口説いたからだ!
真奈美は僕のお嫁さんになって、マリアになるはずだったのに!
お前が奪ったからだこの悪魔!」
「何を言ってんだ、てめぇこの
その話と今の現状は関係ねぇ
目の前にいる坂口しかり、俺たち家族しかり
全てのお前や光の楽園に関わった人間の人生…
その全てをどう清算するつもりだ?」
何も答えなければ、ただお父さんのことを睨むだけ。
反省していない。
1ミリも…いや反省の[は]の字なんて、こいつは全くしない。
自分の私利私欲のためにだけ生きている。
翼者なんてものを生み出して、全く罪のない人を実験の素材にして己の猫を殺す狂気と、不快と感じた人間を消す。
おまけに自分の患者を金づるとしか思っていない。
正真正銘のクズ野郎!
「瑠香…その青い目と雷を消しなさい
手を下す必要などないんだよ
俺もこいつに操られていたんだ、復讐心を駆り立てる呪いの様なものに
だけどな、手を出したら終わりなんだよ」
「お父さん…」
「だけどまぁ痛い目あわせたいだろ?
ちょうどいい石を拾ったんだ
やってみるといい
射手…立ち撃ち、雷弾使用
標的は桐谷勝、攻撃始め!」
お父さんに渡された平べったい石をじっと眺め、私は自然と腕を伸ばして立ち撃ちの姿勢を取っていた。
でも私がさっきまで望んでいた復讐心は消えている。
こんなことをしても私の望んだ世界はやってこない。
お母さんとお父さんと、お兄ちゃんと私。
平凡で幸せな家族がこいつを殺したからと言って帰ってくることなんてない。
もう私も…飽きちゃったよ。
「そうだ瑠香…大人になったな
実はもう俺も復讐ごっこに飽きたんだ
こんなことをやっても真奈美は帰ってこない
家族が元に戻ることはないんだ
懸命な判断だよ」
いつのまにか手に持っていた石を適当に軽く投げて、深くため息をしてぎゅっとお父さんの胸の内に入り込んだ。
私の行動に気がついて、またお父さんは部分的に翼者になる。
胸元のふわふわな羽がべらぼうに気持ちええですわァ。
なんて言ってたけど、私の視界の端にはワラワラと何かが桐谷の周りに集まり…まずい翼者が集結し始めた!
「だがな、被害者というのは何も生者だけじゃない
翼者もまた被害者だ
坂口は俺の家族を殺したが、ある意味唆されたのだよ心の弱いところにな
どうなるかは、彼ら次第だ…見ない方が良い」
目の前が真っ暗になる。
でも身体中にふわふわの羽に包まれて何も聞こえないようにしてくれた。
物理的には聞こえないけど、翼者達の声がずっと頭の中に響く。
許さない…殺してやる…病気を治してもらおうとしたのに。
なんて恨みつらみ節が。
身体中から悪寒がするし、今まで動かなかった何かが翼者に化けて変わって動き始めた感覚がする。
首のある…そう、練馬で首アリの羽が四枚ある翼者が私の左隣の方をずっと歩いてる感じだ。
「先輩…俺はあんたのことをまだ越えれてない
やったことに後悔は…ない
だけど、桐谷は嘘をついたんです
あんたを超える力をくれるって言ったのに…何もくれなかったんだ
なのに何も生まれなかったんだ…
俺の人生返せぇぇ!!!」
「坂口…空挺…団長?」
「見ない方が良いというのはこういう事だ
あいつは坂口と同じ反省していない部分がある
だが、あいつも人生が狂わされた
許すつもりはないが、俺はあいつの全てを傍観させてもらう」
それからは何も見たくなかった。
見えはしないけど音でわかる。
だいぶと前に佐藤士長とみた旧式のアニメ映画で出てきたバラバラになるシーン。
あれと同じことがお父さんの体を挟んで向こう側に広がっているんだ。
「終わったよ…復讐が
帰ろうか、お父さんも疲れ…
いや疲れたと言えないな
まずいなぁ、翼者がこっち向かって飛んでくるなんて計算をしてなかったんだ
俺たちの武器弾薬はもうない
制御する桐谷がいない今、次に狙うは俺たちか?!」
ずっと頭の中に声がけたたましく響いている。
生者がいる、全て見られた、生きている
羨ましい、人として生活できるのか?
殺してやる、殺してやる。
なんてずっと響いている。
次に狙うは私たちだし、反撃する能力ももう何も残っていない。
どうすれば良い!?
全ての原因を作った桐谷に制裁を下す事を飽きたというように、復讐をする事ほど変なエネルギーを使ってしまっていました。
誠が言ったように呪いに近いものなのです。
瑠香も疲れたと言っていたのも、ある意味彼女の中で決着がついたのです。
桐谷をぼかしている翼者しかり。
ですがターゲットを瑠香達に切り替えたようです。
抵抗する術ももうありません。
しかし希望を捨てるのは程遠いですぞ




