15-8 解放
本当に寒すぎ!
今年は思ったほど私の住む場所では雪が降らなかったので安心です。
『そろそろ着くぞ…空挺降下は禁止だからな?』
「やりません」
『ならばよろしい』
もう気がつけば夜になっていた。
デジタル時計は7時を指している。
もう全部終わったんだな…ん?
いや、ここって船橋なんだべ?
どうやって練馬に帰るの?
『着地する
行き足殺すから、じっとしてろ」
「うわぁ!」
地面に着地する瞬間に勢いを殺すからって地面に向けて羽ばたいたはいいけど、風圧が凄すぎる!
ヘリからのダウンウォッシュを受けたみたいだ!
何枚か羽が抜け落ちてるし、お父さんの身体自体にも負担がかかってるんじゃ!?
降ろされてお父さんから少し離れたのはいいけど、片膝ついて息を切らしてるし。
「…はぁ…はぁ、俺も歳だな
昔みたくうまく行かねぇが、生きる事とはこれがいいんだ
さて坂口よ、もう決着はついたと判断するぞ?」
『…なんで届かない?
なんであんたはそんなにも恵まれてんだ?
俺はあんたになりたかった、強いあんたにだ
でもなれなかった…幸せそうにしているあんたが許せなかった
俺の目の前では冷酷無慈悲な同族殺しの魔王と言われたのに」
私の家族をバラバラにした原因を作った人が何を言っているんだ?
同族殺しだの魔王だのと何を今更。
幸せになって何が悪いんだよ!
あれ…坂口空挺団長って前は心の声が聞こえていたのに、今はなんで羽をばたつかせている様な音しか聞こえて来ないんだ?
「十分に届いていたぞ、坂口
お前は十分に届いて俺を超えていた
もう翼者に心を食われるな
手に持っているそのナイフ…真奈美を殺した時の武器だな?
俺を超えたいがために教団入って、翼者を体の中に取り込んだ
だが翼者はお前の全てを奪っていっているんだ…
それに翼者に唆されてナイフを使ったんだろ?」
何を言っているんだよ?
お父さんのことを超えたって言ってるけど、なんでそんなに悲しい顔をしてるの?
この人は私たちの家族…待ってよ。
今、翼者にそそのかされたって言ってたよな?
首無しのコウモリ人間に?
それとも遠隔で桐谷に操作されていたの?
でも殺していい理由になんてならないんだ!
「お前は俺を越えようと必死だった
そして歪んだ理想をもちお前自身を歪めてしまった
歪んだ理想を叶えようとして翼者になり、お前の中にある殺意を代償として俺の様な化け物になったんだろ?」
「だったらなんだっていうんだよ!」
「もう、肩の荷を下せ
俺も降ろしたんだ…お前に対する復讐心は消えた
本当の坂口安吾に戻れ、もう操られるな」
坂口を解放してやってくれよ、グリトリー。
グリトリーを解放してやれ坂口。
もう十分すぎるくらいに戦っただろ?
「俺は…俺は…」
項垂れて頭を抱え、声にならない悲鳴があたりを包み始めた。
お父さんに勝ちたいがために、お母さんを殺した人が背中に激痛が走るくらいにに背を丸めてもがいている。
お父さんにとっての復讐って、坂口空挺団長を殺すことよりも生かして罪を償わせる事だったんだ。
坂口の過去に行った行為は自己中心的なもの。
そこに翼者が心の弱いところに巣喰い、瑠香の家族をバラバラにしたのです。
ですが今は坂口自身はもう人にあらず。
必死に頭を押さえてうずくまって呻いています。
懺悔ではなく、混乱の様なものでしょう。
さてこの場所には元凶がもう1人います
次回は元凶に対して瑠香がどう言った反応をするのかお楽しみください。




