14-0 居た堪れない
夏の暑さのせいで軽く熱中症になりました。
水分補給大事!
「今なんだって?」
「桐谷勝の実母だ
聞きたくなかったかも知れぬがこれが事実だ
わかってくれ、ブァカ瑠香」
この修道女の格好をした人が桐谷勝の母親?
この人が私の母親を奪った人間の親だと?
顔がぐしゃぐしゃになるくらい泣いているのに。
今目の前で泣いている人に何の感情も湧かない。
何と言ったらいいんだ?!
親が良心の呵責に耐えかねて、泣いて詫びているのに今頃あいつは私の父親を誘拐して…。
「何て言えばいいの?
瑠香ちゃんよね…私のバカ息子があなたの家族を壊したのよ
私が死んで詫びたいくらいだわ…」
「よく聞いて瑠香ちゃん
桐谷麻子さんも狙われているの
奥多摩の教会から避難して、ここにきてくださったの
誰とは言わないけど、わかってくれるわね?」
結衣さんが言いたいことはわかっている。
でも私の心の整理がついてくれない。
ついてたまるかとずっと拒否し続けて、不憫だと言いたいし辛いけど親の仇がいると思えば!
でもこの人もある意味で被害者なん…だよ。
「私の息子がおかしくなったのは…私のせいでもあるのよ
あの子の異常性に気が付かなかったのよ」
もう何十年と昔のことよ。
教会の少し離れた住宅の屋根裏で見つけてしまったの。
烏の羽と猿の肩甲骨辺りを無理やり縫い合わせた死体があることに。
それはもう怒ったけど、言うことなんて聞かなかったのよ。
夫に相談して死体も見せた。
でも夫は結合したその縫い目を見て喜んだのよ。
この子は医者に向いていると。
そこからはずっと異常だった…。
医学の世界を目指し、その裏では死体を解剖して結合。
キリストの教えを真似て、かつて私の夫が見た光景を脚色を踏まえて書いたオリジナルの聖書を作ったの。
そしてつい最近になって私は見てしまったのよ。
首無しのコウモリの標本だけど人間みたいに手足がある小さな何かを。
「きっと息子が作った翼者の『芽』
そして光の楽園が信じる悪魔の正体らしいもの
あなたも知っているかも知れない」
「何処からか闇が現れ、この地を無に返す
兵を上げ戦うがその兵たちはやられる
しかし蒼き眼お雷を振るう空の子が現れ闇を払い平穏をもたらす」
「それは、息子が軍医だった私の夫から聞いた事を信じて経典に載せたのよ
きっと蒼い目と雷を持つ兵隊さんがいて、その子孫を探したのよ
同時進行で悪魔を…翼者を作ったの
まさか、その兵隊さんの子孫があなたのお母さん
翼者の適応者が、お父さんになったの」
この人は何も悪くない。
なんとなく桐谷勝の同期がわかった。
あいつも自分の私利私欲、特に持ってはならない好奇心を暴走させた挙句に、いろんな人の人生を狂わせてきたんだ。
目の前にいる桐谷麻子さん然り、私の父と母もそうだ。
空挺の神…いや忍さんのことを知って、神の使いを人工的に作ろうとしたの?
翼者って自分が作り出した化け物を活用して?
なんてやつだよ。
「ブァカ瑠香、事態は深刻ですよ
知っての通り関東一帯には、治安出動命令が降っているはずです
あいつらは動き出しているのです
それと財前の居場所の候補はいくらか上がっています」
「私は父を助けに行きたいし、目的もできたんです
私はこの手で桐谷勝を、ぶん殴る
母と、息子さんを心配している麻子さん
そして翼者の被害に遭った人たちの仇討ちをしてやる」
「仇討ちの先にあるものは、一つです
ですが…僕も手伝いましょう
まずは桐谷麻子さんを安全な場所に移動させることが先ですがね」
もう絶対に許さない。
いろんな人たちの命や人生を滅茶苦茶にして弄んだこともそうだけど、誰かを悲しませてそれに気づかずに今も暴走していることが!
絶対にこの手で殴ってみせる。
大切な家族を、お父さんを取り返しに行く。
そして私を育ててくれた練馬の人たちや、習志野の人たちをこの手で守るんだ!
その首洗って待っていろ!
暴走は誰にも止められません。
危険な好奇心は猫も殺すと言いますから、桐谷勝の猟奇的な好奇心は母親の力を持っていたとしても止められなかったのです。
瑠香は復讐者になることを選んだのです。
彼女にとって正しい道になったのかはまた今度。




