13-11 訪問者
ラストエンドに向かって走ります!
[ 高淳高校 午前9時 ]
「瑠香ちゃん…大丈夫?」
「まだ、吹っ切れてないけどね
心配してくれてありがとう…えみりちゃん」
「いつでも相談してね
きつくなったら、話は聞くから」
「ありがとう…またラーメン二郎、練馬店行こうぞ」
「うん…大ラーメンマシマシだけはダメだよ?」
「肝に銘じております!
レンジャー財前は反省中…なんつって!」
「こらっ、紗香抜きで話を進めないでよ!」
「萌きゅんも話を混ぜてほしいしん!」
「麦田先生は、看過できないかな!
なんちゃって!」
お父さんに対する自責の念のようなものはまだまだ残ってる。
きっと消えてくれることはないけど、学校にいるときは少しだけ晴れるんだ。
ずっと一人だと思っていて尖っていこうとした。
けど今は目の前に大好きな人たちがいる。
それを気付かされたんだよな。
変にカッコつけてたけど、それもやめた!
「そろそろ数Bを始めるから、みんな教科書とノートを出して
じゃあ教科書の70ページからね」
夏の空は憎いくらいに青空で、入道雲が天高く連なっているのが憎らしい。
自分の所業とは言え、みんなに迷惑ばかりをかけているのが、どうしても心の中で詰まっている。
先生の声もセミのうるさい鳴声にかき消されそうな感じだ。
『瑠香ダメじゃないか
教科書の50ページを開いて』
「…ッ!」
視界が…歪む?
いやこれは、視界に幕が張ったような感じ。
一気に空気が重たくなって、周りの人たちの行動がスローモーションみたいに遅くなってる!
声の感じ…機械音みたいな感じだけど、この声は!
間違いない、春先に見た翼者と人の両方を混ぜた奴。
黒いポンチョみたいなのを被って、肩なのか頭かわからないけど細くて黒い帯を六本くらい伸ばしてる。
じっと見たら何かわかるよ…。
どの時の訓練かわからないけど山に入って訓練しているレンジャーの。
「おとう…さん?」
『お父さんじゃない…アチャって言え!』
「…」
『なんだべ、そのジトッとした目つき?
おめそった童じゃねぇべな?
せば、早ぐ教科書開けこの!』
なんだろうな、心配して損した気がする。
なんでこんな風に私の前に現れたんだ?
まさか、お父さんは私の事を…分身体を使って恨んでいるの?
それを言うためにわざわざ学校まで出てきたの?
お父さんの体にメスが入っていたら?
私が夢の中で見たのは、医療関係者の姿。
それにお父さんが昔言ってた、司祭の昼の姿は医者。
人体実験されていないか心配だよ。
『大丈夫…俺はそんなにヤワじゃない
修も言ったように、俺はお前を助けれて嬉しかったんだ
泣かないで、泣いたらめんこい顔が台無しだよ』
「わかっている…けど」
『大丈夫…大丈夫、もう俺はお前達とさよならはしない』
不意に視界が暗くなる。
私の体の半分が黒い羽じゃなかった!
高級な羽毛布団に包まれたような感覚が、泣けてきたよお父さん。
ありがとう、大好きだよ。
廊下を走り抜ける音が聞こえたけど、何かあったのかな?
…学年主任の先生が入ってきたけど、何かそんな切羽詰まったことでもあったの?
視界が明るくなった?
「財前さんは…いた!
いきなりだけど、白石さんって人が来てるんだ
大切な話だから、今すぐ来てくれ!」
学年主任と廊下を一緒に走って、職員室に着いた。
入り口を入って奥の方に、3人が座っているのを確認できる。
渋い顔をする富治と、不安そうな顔をする結衣さん。
その左隣にシスターさんだけど、老齢の女性が応接用のソファに座って私を見るなり辛そうな表情を浮かべている。
「…なんということでしょう
あぁ、神よ…私の息子がこの子の幸せを
ごめんなさい、許してちょうだい!」
泣きながらその場に崩れていった。
この人の心の中が、ものすごく真っ暗なんだ。
見えないわけじゃない。
守ってきた存在に傷つけられて、それでも守ろうとしたけど叶わない。
それを目の前で見てきたんだ。
ずっと信じていたものに裏切られたって今になって知った…彼女の中に巣食う闇は裏切りにある感覚が襲ってくる。
「ブァカ瑠香、よく聞きなさい
この人は桐谷麻子さん
カトリック系列の奥多摩教会のシスターであり
光の楽園の創始者の一人…そして」
現司祭である桐谷勝の実母だ
訪問者。
影を送って安心させました。
目の前で攫われたショックで、塞ぎ込みそうになっていた瑠香にとっては嬉しいことかもしれません。
二人目の訪問者はとんでもねぇ人です。
まさか敵に近しい人間が、学校に来たんですからそれなりの意味があるんでしょう。
でもね瑠香、何がともあれ友達と二郎に行く時は大ラーメンは控えなさい!




