13-10 消息不明
七夕には何を願いましたか?
[ 午前5時 ???]
「くそがぁ!」
ここはどこだ?
なんて考えずともわかるか。
この匂い…薬品の中に混ざる僅かな血の匂い。
部屋そのものは薄暗いが教会の聖堂と思えるようなような場所。
地面に押さえつけて暴れないようにしているが、腕と足に鎖を巻いている時点で動きが鈍くなる。
素直に従えと言いたいか?
そんなことはどうでもいい。
俺の目の前にいるのは紛れもなくあいつだ。
真奈美を…殺した実行犯と画策した主犯。
「久しぶりじゃねぇか桐谷勝
この前あったぶりなのに翼者堕ち仕掛けんのかよ坂口
揃いも揃ってクソどもが」
「うふふふふ、久しぶりだね
いやぁ死んでくれていたらよかったのにね
そもそも真奈美は僕のものだったのにね、うふふ」
「お久しぶりですね
いつから先輩が俺があの女を殺したか知りませんが
俺としても今から夢が叶うと思えば嬉しいものですね」
桐谷のことは今すぐにでも殺してやりたいが、問題は坂口だ。
俺がいいように仕込んでしまったが、その技を姿を消している伏兵達に教えたんだろう?
空挺隊員としての技のほとんどを、敵に教え込むなど情けないやつだ。
「そうだぁ言っておくことがあったの!
お前がここに来たから、マリアが怒ってここに来るかもぉ
その時はお前がマリアを説得して、僕のお嫁さんになってもらうぅ!
神様からの啓示だからあはは!」
「は?
俺の頭はいかれてるのか?!」
「うふふふふ!
だってそうだろう、真奈美…ユダが僕を裏切ってお前と結婚したんだから
だからお詫びとして僕にマリアと結婚させろぉ!
そしてお前達、翼者は僕達に従うの!
早くマリアが来てくれないかなぁ!」
頭が逝かれているとは思っていたがここまでいかれてるのか。
何にせよ…瑠香や修を守らねば。
1番の脅威は身内、第一空挺団の中に裏切り者が動き出しかねない。
二人とも逃げてくれ!
[ 午前9時 練馬駐屯地 奥地 ]
「…たった1日で目付きが変わってもうた
沖ちゃんの大好きな瑠香の目じゃないで
あれは…同族殺しの異名を轟かせていた師団長の目よ」
「自分を責めすぎてます
…沖田二曹、どうされたのですか?」
「いや、佐藤のわった
沖ちゃんはね、瑠香の気持ちがわかるのよ
手の残っている感覚、あれに惑わされてしまうとね」
私の手に残ってる。
お父さんの手を一瞬だけど、握った感触がずっと残っている。
あの時、私がもっと手を伸ばせていたら。
あの時もっと私の力を振り絞っていたら、空の子の力を発動していればきっと助け出せれたのだ。
何で自衛隊に足を突っ込んだんだよ。
誰かを守りたいって思った時に、何もできてないじゃない!
私はなんでレンジャーや空挺に行ったんだよ。
私は…私は…なんで!
「辛いであろう」
「田中2佐…田中1尉」
「おぅ、瑠香嬢が泣いてるんじゃぁ祖父どもはねぇ
正明1尉も変われるなら、変わってやりてぇんだよ」
「…」
「ジジイにも答えるのでね、隣を失礼するよ
あっ、あんにゃ…こいつはまた俺の財布でアイスを!」
二人の話を聞いていると、心が和むけど今の私には余裕がない。
自分の不手際がなかったら、こうはならなかったとずっとずっと頭の中でぐるぐる回っている。
あの時の目つきも…何もかもがこべりついて離れないんだ。
助けられなかっt…!
「しゃっけぇ、しゃっけぇ、しゃっけぇ!!!
あっぉ…お兄ちゃん!」
「よぉ…そんなしけた顔しねぇでよ
キンキンに冷えた水をぶっかけたくらいで驚くな
おめぇの顔つきだっきゃ、なまら見たくない
親父がそんな顔見たら泣くべ」
「…」
「親父のことを嫌ってる人間から色々言われ、有りもしない噂も全部ぶつけられてしんどいんだろ?
そいつら、親父の何を知ってるんだよ?」
俺が工科学校を終わって北千歳にいた時も、旭川に行った時もみんな親父のことを感謝してた。
レンジャーでしばかれた学生も、教官が親父の時は怪我以外でみんなレンジャーを卒業したんだよ。
それは当たり前に聞こえるけど、どんな隊員にも等しく平等に接した。
それだけで心救われた隊員がいる。
同族殺しなんて異名もある。
でも、それ以上に親父は仲間をいろんな人を助けてきたんだ。
いろんな人からいろんなものを守ってた。
「瑠香は親父みたく守ろうとしたように、親父も瑠香のを守ろうとしたんだ
それに親父だっきゃそんな顔を望んでいない
守られてる分、今度は俺たちで親父を助けようぜ」
「私守れなかった…大切な人を守られてばかりだから守りたかった
でも私は…できなかったぁ
ぅっ…ぅぅ…うわぁぁ!」
「今はお兄ちゃんがいるして泣けよ
…田中一尉、優しいな俺たちのためにモンエナ置いてくれて」
ぁぁぁぁぁぁあんんんんんんんんにゃぁぁぁぁぃぁぁぁぁ!!!
「「 怒られてるべ 」」
[ 練馬駐屯地 庁舎内]
「なぁ、兄貴
空自のパイロットの知り合いと、防大時代に師団長の教え子だった海自の若い3佐に聞いたんだよ」
「殴るこたぁねぇだろう!?
それと、知り合いが多いなぁ源一郎は!
知りたい達がなんだと?」
「あの翼者なる敵は空にも海にもいた
戦闘機のいる上空にも、護衛艦と救難航空機がいる海にも
双方ともスクランブルしたそうだ」
「それで?
お前が言いたいことならわかるが」
「一時期は数が多いのなんのだったそうだが
今はめっきり数が減った
儂の予想だが」
「一部に集められてるのか…
集められた先にいるのが…」
「おそらくだが
探さねば…これ以上犠牲を増やすわけには行かない
民間人であれ、自衛官で
師団長が攫われ、瑠香の心は荒みました。
ずっと近くで見てもらっていた存在だからだと思います。
それに修もなんらかの覚悟を決めたのだと思います。
田中兄弟が話していたことの真意とは?
師団長はなぜ攫われたのかそれはまた今度。




