13-7 無事だった
ゴリラゲイ雨の時期になりましたね。
夏はすぐそこだ。
おじいちゃんの事件があってからもう一週間近く経ってしまった。
未だに家は警察の捜査があって帰ることはできない。
それに精密検査を色々とした結果、おじいちゃんは健康そのもの。
でもおばあちゃんのショックが大きくて、精神的に疲弊している。
私自身も学校に行くのが最近怖くてたまらない。
駐屯地の門前に不審者が出没するようにもなったし、白い法衣のようなものを着た人たちが外柵の周りをうろついているって聞いた。
「破壊神、顔色が悪いぞ?
今日はお前の担任と副担任の見舞いに行くんだろ?
だったら、笑っていたほうがいいぞ」
「あっ、すいません」
「謝ることはないんだ
お前は色々と頑張っているのもみんな知っている
後はヒグマだな」
「…れんじゃ」
今からお見舞いに行くっていうのに、私の心には苦しみが渦巻いていますのよ。
うちの師団長のせいで!
あいつが丸太に爪とぎのつもりか知らないけど引っ掻いてるから傷だらけなのよ。
熊牧場に身柄を送ろうか!
「いってらっしゃい、駅に着くまで変装は解くなよ」
「行ってきます」
門番をしている一中隊の陸曹に挨拶を済ませて外に出た。
門を出て練馬駅に向かって歩くのはいいけど、道路の反対側で光の楽園側の人たちがお祈りをしている姿が異質だった。
気持ち悪いっていうよりも盲信的というのがしっくりくる。
[ 午前11時 練馬区立病院 ]
病室前で見張りをしていた警察官の方に身分証と事情を説明して中に入る。
病室の窓よりもドア側にベットが縦に並んで二人談笑している。
二人とも怪我から復活してよかった。
それにしても、麦田先生の首の線状のあざが消えている?
「来てくれてありがとう
忙しいのにごめんね財前さん」
「回復されたと聞きました綾瀬先生と麦田先生
ご無事で何よりです」
「…ありがとう財前さん
ずっとひどいこと言って、悪かったわね」
「もう気にしていませんから」
ここに来る前に富にぃから事情は色々と聞いていた。
麦田先生と綾瀬先生が襲われてしまった理由。
富にぃが言っていたのは、麦田先生は光の楽園の信者の娘…つまり宗教2世。
綾瀬先生は旦那さんが風邪をひいたと言った先の病院で入院…そして帰らぬ人となった。
その後に娘さんが風邪をひいたと訴えて行った先の病院で再検査をと紹介された病院が旦那さんと同じところへ。
最後は同じ運命を辿ってしまったと言う。
その時に出会った看護師がユリア…桐谷遥だったと。
今は息子さんと二人で暮らしているそうだ。
「財前さんを見た時に、昔…光の楽園の被害者の会であった貴方のお父さんと顔がそっくりだと思ったの
休校明けに持ち物検査とかやったでしょ?
貴方の目をカラコンだと疑った時に、親御さんに電話したらまさかの…」
「そんなことが
私の父はそんなことを一言を言ってなかったのに」
「私から頼んだの
貴方を守ろうとしたのに、私が傷つかないように酷いことを言ってしまっていたの
ごめんなさい」
「いいえ…もう私も先生のことを
でももう先生の思いが,わかってよかったです
こちらこそありがとうございます」
麦田先生がスンスンと涙を流しながら、ずっと俯いている。
胸の内の重たいものが取れたと言うように、麦田先生の顔は笑顔になっている。
不意にドンと,ドアが開く音が聞こえ振り返った先にいたのは速水涼太だ。
私の顔を見るなり、泣き笑いというか安心したと言う顔をしている。
「久しぶり、学園祭の時に助けてくれてありがとう
今日は俺も仕事が休みだから、先生のお見舞いに来たんだ
あの時助けてくれなかったら、俺も死んでいた」
「"死んでいた“はやめてくれよ
でも速水も元気そうでよかったよ」
「気を失う手前で、財前さんに力強く握ってくれた時に感じたんだ
守ると言う強い意志を、尊敬するよ」
「またまたぁやめてくれよ」
速水が狙われたのは、アイドルという若さとかっこよさ。
その血を飲めば自分自身の若さを保てると、村井が勝手に思い込んだからだと速水自身から聞いた。
放送室にいたのも、放送室そのものが防音措置が施されているから多少悲鳴をあげても外には聞こえないと考えたのだと。
イカれてるとは思ったが、度し難いな。
気がつけば夕方になりつつあるし、そろそろ駐屯地に帰らないとね。
「それじゃあ私は、駐屯地に帰ります」
「財前さん、今度…ちょっとだけ話がしたいからまたきてくれないかしら」
「…わかりました麦田先生」
何だろう、この胸騒ぎ。
綾瀬先生の秘密、麦田先生の過去に少し触れました。
こんなこと起きたら溜まったもんじゃないです。
綾瀬先生自身は瑠香のことを守ろうとしたんでしょうがそれが裏目に出ていたのです。
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