13-4 現場検証
熱々の夏が始まります。
でもその前に温泉に行きてぇ。
[ 聖高淳高校 セントラルホール ロビー]
「朝早くからどうもありがとうございます
私、警視庁捜査一課長の橘と申します
今日は…みなさんに現場検証の協力をお願いします」
朝の9時にあの事件の日にいた関係者達は、玄関とホールの境目にあるロビーで現場検証をすることになった。
今回の事件の裏には、文京区で起きた火事と私のことを狙う光の楽園って新興宗教が絡んでいるって田中2佐が言っていた。
その田中2佐は今日は体調不良で衛生さんに見てもらっているってさ。
「…忌々しい事だ、ブァカ瑠香
ユリアを殺した村井って教師は、留置所で私は悪くないと永遠に言っているのだ
後は時任という小娘、瑠香の裏の顔を見た途端に大人しくなった
最低ですねぇ」
「富にぃ、そんなこと言わないでよ」
「ですが覚えていなさい
空の子の力であれ、空挺隊員のノウハウといえ
異能力を持つことは、周りの人間から恐れられ
反対に利用されることも」
なんとなく言いたいことはわかるんだ。
私のあの時の姿を見て、時任さんの態度がいい意味でも悪い意味でも変わった事を。
えみりちゃんや紗香氏…いやクリスピークリームドーナツ教のメンバーは変わりなく私の事を理解してくれてるのかな?
でも能力を発揮した時点で、私も考え方を変えないといけないかも知れない。
「瑠香ちゃん…大丈夫?
私たちは瑠香ちゃんの味方だから安心して」
「時任さんの態度の事は気にしないでいいから
手のひら返しがすごいよね…シャイゼ!」
「…えみりちゃんに紗香氏、ありがとう
私は大丈夫だからさ」
今日の練馬は梅雨の空気を帯びていて、じっとしていても汗が滲んでスカートの裏地と肌がくっつく。
白いセーラー服に黒い平たい帯のようなネクタイが嫌になる。
少し蒸し暑いホールの中をすぅと冷たい風が吹いた。
風上になる方向を見ると、腕を組んで壁に背中をもたれて項垂れている空挺の神…いや、忍さんが立っていた。
ファッションは空挺降下用の服と外被に、靴は焦茶色の降下靴と黒い革手袋。
灰色ワントーンカラーコーデですね。
ワントーンカラーコーデって言って怒ったのね?
黒い雷パチパチっ怖いからやめてよね?
『瑠香、処すよ?』
「…すいませんでした」
[ 練馬駐屯地 即応強襲部隊長室 ]
儂としたことがやってしまった。
俺の必殺奥義を遂げるくらいに練り上げていた力を奪われてしまった。
異変を感じたピヨ助が鳴き叫んで、驚いた村上が倒れた儂を見て失神したのだ。
第一普通科連隊長として、即応強襲部隊長として失態を犯してしまったようだ。
飯島の手当てを受けたまではよかった。
最近来た三好も天城も、驚いて10式戦車を隊舎の入り口まで持ってきてしまったんだ。
あなや悲しや。
「ほんで聞きますけど、何を取られたんです?
大事なもんを取られるって,なんですの?」
「沖田二曹…田中2佐は大阪弁わかってないですよ?」
「やかましいわ、室戸!」
「あっははは…ところで本当に何を取られたんです?
三好はまこちゃんのことを…財前師団長がやったと思えないです」
「まぁ行ってしまえば、一撃で全てを焼き尽くす炎
必殺奥義…真打かしょうざんまいが打てなくなった
また溜めねばならなくてな」
「どれくらいの時間が必要なんですか?」
「わからんのだよ室戸
だが今まで溜めた分で、軽く関東一帯は燃やせるさ
日頃からガス抜きはしているから爆発はせんよ」
財前の能力がわからぬ以上、儂の体の自由を奪った影のような鷹のように強い翼者の羽。
もしあれが、光の楽園の手に渡れば?
仮に光の楽園を潰すに等しいくらいに信者を殺すようになれば?
暴走すれば、何も関係ない者たちもしぬる事になる。
それにあの時の財前の目、赤く光る中にうっすらと瑠香や修と同じ六芒星があった。
よもや、神前忍…お前なら何かわかるのか?
[ 練馬駐屯地内 第一師団長執務室]
『いい加減こんなやり方は通じねぇってわかんだべ?
田中2佐のカショウザンマイを奪ってまでなにがしてぇの?
歯止めをかけないと誠じゃなくなるよ?」
「…田中2佐には悪いが、俺には俺のやり方がある
それに俺はどうしても欲望が抑えきれないのだ
瑠香と修…二人と戦う夢を
そして二人を、英雄にしたいのだ」
翼者という物の怪から、全てを守った英雄として。
裏切り者は俺の手で消す。
それこそが俺の復讐だからな。
おそらく瑠香の心境としては学校に行きたくないのが本音です。
白石がやったように力を持つ人の側には嫌う人とあやかる人間のどちらもいます。
財前の場合は力を持っているのも関わらず、欲望のために田中2佐から力を奪ったのです。
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