12-10 始まってしまった
春は桜の季節ですね
花見がしたい
『それでは、今回のミスコン参加者に登場していただきましょう!』
「大丈夫かな…儂の孫娘は?」
「俺も手汗がすごいです…緊張して」
田中源一郎2等陸佐は心配です。
始まってしまったものは仕方がないですが。
強制的にみすこん出場を言い渡され、なにも準備という準備をしてない孫娘のことがとてもとても。
本人が望んだわけではなく単なる逆恨みで出場が決定したのですから。
仕向けてきたのは時任小春という瑠香の同級生。
聞けば有名な財閥の御令嬢。
逆恨みの理由も、同じ学園で同じ教室の学友にあたる速水涼太と仲良くするのが気に食わない。
「速水涼太…はて?
どこかで聞いた名前でありますなぁ」
「田中2佐、出てきました…
みんなめっちゃ綺麗なモデルさんだべや」
えぇ綺麗です。
みんな思い思いにドレスと言えばいいのか己を気品高く且つ艶やかに着飾り、己の努力に努力を重ねてきたのだと。
ここからアイドルやモデルに芸能界入りを…彼女らの夢がここで叶うと思えば胸が苦しいのです。
今、このランウェイと呼ばれる場所を歩く様も…努力の賜物なのでしょうな。
元は公開処刑役も、アイドルなどを目指していたのでしょうがいつのまにか…このような正に公開処刑を行う場になったのであるならば。
「…正に酷い話…だっ…ぺ」
最後に現れたのは孫娘。
時任小春殿やその他の参加者に負けぬ美しい歩き方。
左隣で佐伯殿が誇らしげに頷く様。
なるほど、彼女たちがこの日のために特訓を。
陸自の隊員が山歩きや行進の際に、一本の線の上を歩き体のブレをなくして長距離行程の歩く負担を減らす工夫。
モデルさんがランウェイを歩く中でもヒールのある靴を履いてもブレずに歩く工夫。
原理は同じということか!
「それではみなさん揃いました!
自己紹介と趣味などをどうぞ!」
学園祭のスタッフの女学生がマイクを持ち、参加者らの元に向かう。
瑠香以外のミスコン出場者は、化粧や服装にアクセサリーなど女性目線で一点集中と言える趣味特技を売りに出しているとみた。
時任小春殿の身につけているドレスも同様。
美しい体型を見せつけるが如く、タイトな黒いドレスを着こなすためにも努力を続けていたのだ。
それに彼女の趣味に美術館巡り…正に美の追求か。
『では最後の方…どうぞ!』
「私の名前は…財前瑠香です
趣味はドラム演奏と…
休日は20キロくらいランニングすることです
よろしくお願いします」
『財前さんは、学校新聞に取り上げられるくらい
実はすごーい体験をされていらっしゃるとの事なので
その辺りもあとで見てみましょう!』
次は…ミスコンの審査員との、対話形式で自分の魅力を発信するコーナー。
ジャズダンス等を踊る者、自身で手がけた服の発表や花道で培った生花を見せるものもいれば、わっと人を驚かせる手品を見せる者。
だが1番際立ったのが、努力そのものをPRした時任小春殿。
読者モデルから今に至るまでの努力こそが全て。 立ち振る舞いや、品性を養うための美術作品の制作などの全て彼女の魅力であり最後に流れるPVの熱量も、誰よりも高いと言えよう。
だがどこか…皆薄くて軽いように見えてしまうなぁ。
『では最後に財前さん、君のことを教えてくれないか?
お題は歌…何かアカペラで頼む
その人の自信は、声でわかると僕は思っているんだ
どうだ…やってみてくれ」
審査員めぇよくも要らぬことを…白石は笑っているし。
あぁぁ…孫娘の顔が、ひきつっているではないか。
アカペラということは自分の声のみが味方で、ごまかしなど一つとして効かぬ。
これでは太刀打ちどころか、万事休す。
椅子から立ち上がれなくなっている。
聞けば瑠香の思考能力は、本人から聞く限りスーファミと同じかそれ以下と言うではないか。
田中源一郎は大正二年生まれだからスーファミが何かわからんのだがP○5のようにはいかぬということだ。
「…できないのかな?
じゃあそこにいる4人と一緒に歌ってみるかい?
ちょうど時任小春さんが手をあげているんだからデュエットもいいんじゃないか?」
「…いいえ、一人で歌わせていただきます
私の父が昔、私を寝かしつけるためにふざけて歌った子守唄が、今になって私の将来の夢を目指すきっかけになった歌です
決して万人ウケする歌ではありませんし、特定の団体を称賛するためでもありませんが」
その歌を歌うと儂は思ったよ。
目を点にして驚いている師団長には悪いが、本当に親子共々…めんこいものだ。
いや親子共々、真白き薔薇の挺進兵になったようだな。
じじいは…笑うだけであるがなぁ。
私の文章力の無さが問題ですが…。
源一郎が言うようにここにいる人たちは自分の夢を叶えるために努力をしてきました。
特に極めて見えていたのが、時任小春だったのです。
モデルになりたいと言う夢と、ただ逆恨みで瑠香を潰したい気持ちとが入り混じってこうなったのです。
だから源一郎は胸が苦しいと言ったのでしょう。
知らんけど