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怠惰


 その男は、怠惰であった。


 ある日突然、男は仕事に行きたくなくなった。職場に電話の一本も入れることなく、日がてっぺんに上ってもなお、男は布団の中に潜り続けた。


 そして、惰眠(だみん)(むさぼ)るのに飽きたら今度はテレビゲームに取り組んだ。それすらも飽きたら、次はレンタルDVDショップへと走り古今東西で名作と呼ばれる数多の映画をかっさらってきた。


 とある映画を見ているときだ。突然、男にある欲求が沸き上がった。それはアメリカのロードムービーでひげを生やした壮年のライダーが荒野をバイクで延々と走る映画だった。


 髪をなびかせ、全身に風を感じるその気持ちよさそうなライダーの姿に、男は自身の姿を重ねた。


 そこからの男は俊敏(しゅんびん)であった。車庫で埃を被っていた愛車、あずき色のセロー225を引っ張り出し、その美しいフォルムにニヤリと(いや)らしい笑みをこぼした。だが、長らく走らせていないバイクだ。当然のように、いくらセルを回そうともエンジンはかからない。


 男は、バイク屋へと押し入り使えそうなパーツを片っ端から盗ってきた。そして時間をかけて、一つ一つの部品を丁寧に交換し、再びセルを回す。


 深夜の住宅街に、ギュンギュンとセルモーターの金切り声が響く。ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン……ドルンドルンドルンドドドドドド。息を吹き返した愛車に、男は狂喜乱舞し、まるでステップを刻むかのようにリズミカルにアクセルをひねり続けた。


 その2日後、男は北海道にたどり着いた。「広大な大地を、俺の愛車で踏破してやる」そう息巻き自宅を出た。しかし、北海道の美しい景色に心振るわせる間もなく男は帰路についた。


 男は、北海道までの道のりで既にバイクを走らせることにも飽いてしまっていたからだ。さらに言えば、男のバイクは長距離を走るには乗り心地が悪すぎた。エンジンの刻む振動に、男の尻が悲鳴をあげていたのだ。


 3日後、男は痛い尻を押さえながらようやく自宅へと帰りついた。そして、数日の休養を挟んだのち何事もなかったかのように職場へと向かった。


 そうした、男の衝動的なサボタージュは月に1、2回程の頻度で幾度となく繰り返されるのであった。


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