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強欲


 その男は、強欲であった。

 

 欲しい物は、何でも手に入れた。本棚には、ありとあらゆる漫画や小説が納められ。ショーケースには、精巧に作られたフィギュアが立ち並ぶ。そして、キッチンには誰もが羨む名酒が揃えられていた。


 だが、それらを手にするにあたって男が金を払ったことは一度もない。そもそも、これだけのコレクションを揃えられるような財力が男には無いのだ。では、如何(いか)にして男はその強欲を満たしたのか。


 答えは簡単だ、それらは全て盗んできた物であった。


 男は、一切の罪悪感を抱くことなく盗みを働くような外道である。しかし、決してそれで生計を立てていたわけではない。男にとって盗むという行為は、コレクター欲を満たすための手段に過ぎなかった。


 男は、他に仕事を持っていた。いわゆる「墓守」である。

 関東圏に作られた国営の広大な墓園の管理。行政から委託されたその仕事は、墓園を綺麗に保ち、新しい入居者があれば快く迎え入れるというものだ。


 その仕事は、男にとって至極退屈なものだった。園内の清掃は、一時間もあれば終わってしまい、残った時間は小さい管理室で何をするでもなく過ごすしかない。いつしか、時間を持て余した男は、新しい仕事を求めて彷徨(さまよ)い歩くようになっていた。


 無縁仏の受入れ営業は、男が思いついた仕事のなかでも特に有意義なものであった。広大な墓園には、まだまだ未入居の土地が大量にあったため、男はそこを積極的に売り出すことにしたのだ。


 しかし、たいていの亡骸(なきがら)は、その親族によって所縁(ゆえん)ある墓へと埋葬されている。だから、営業のターゲットを孤独な者たちへと絞ることにした。男の目論見は見事的中し、膨大な数の入居者を獲得することとなった。


 それら入居者を墓園へ迎え入れ弔うという仕事は、空き室だらけの広大な墓園を(かんが)みるに永遠にも等しい時間が必要となるだろう。


そして、それは男の本来の仕事とは大きくかけ離れたものであったが、誰も男を咎めるようなことはなかった。

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