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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十話 氷河の国
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雪女族の遠き千年戦争(前編)


 現在、この世界において"千年戦争"というのは広く一般的に知られている。それはおとぎ話や冒険譚や詩として様々な媒体を経て伝えられている。しかし、それらの一般的な千年戦争は事実とは少し歪められ、娯楽として楽しめるように改変されている。


 まずは、一般的な千年戦争について。



 世界は魔界・人間界・神界の三つの世界で出来ていた。


 魔族と人間は日々争いを続けていた、神はそれを傍観するのみ。


 争いはおよそ千年間、休戦を挟みながらも続いた。


 ある時、魔族の王が人間族の勇者(ブレイブ)を討ち取った。魔界に平和が訪れ、人間族が魔界に攻め込むことは無くなった。


 だが愚かな人間族は新たな勇者(ブレイブ)を神界に送り込み、神の力を手に入れようとしていた。


 神の怒りに触れた人間族は大きく数を減らし、土地の半分を魔界へ没収され、世界の行き来をする門を閉じられた。


 神の加護は魔族にだけ向けられ、永遠の繁栄を約束された。




 と"人間族愚かなり、魔族は良き種族"をテーマにしたよくある物語だ。


 イルザもエルザもおとぎ話として一連の話は知っていた。それ故に世界は別れていると信じていたし、人間族も自分達の知らないどこかで生活しているのだと思っていた。


 鬼族の闘鬼(オーガ)ヴェンデはそれを否定した。人間族は同じ世界にいた。そして人間族は滅び、その跡は灰色の砂漠になっていると。


 雪女族の魔王騎士ニルスも否定した。


 彼女は記憶を代々受け継ぐ種族で、先代は千年戦争の当事者であった。


 彼女が見た真実は千年戦争の一部ではあるが、人間族の愚かさをより過激に、より醜悪に語る。




 ニルスの先代、アリス・グリガリオ。


 彼女が千年戦争に参加したのは終わりが近い後期のほうだった。その理由は、自分を生み出した人間族への復讐の為。


 「理由は分かるけどさー、復讐を終えてどうすんのー?」


 兎の耳をピンと立てた銀兎族(プラートビット)の青年がアリスに問いかけた。


 「あたし自身が納得するの」


 銀兎族(プラートビット)の青年は「そうかー」とだけ、微妙な笑みを浮かべた。


 彼はアリスのよきパートナーだった。そして幼馴染であり、同じ場所に生まれ、棄てられた。


 人間族の兵器として生み出された彼女等は人間族の手によって作り出された。しかし、完全に制御が出来ないと判明すると否や、廃棄する。


 「まぁー、戦いに参加してるほとんどの魔族がそうだしなー。しかしさー、作った魔族に反撃されるわ、土地奪われるわ、それでも魔族を作っては棄てるわ、なーに考えてるかわっかんねよなー」


 「人間族はただ愚かなのよ。魔族の生産施設もぶっ潰したし、あとは本隊に合流して戦いを終わらせるだけ」


 「まぁまぁーおっかないおっかない」


 はははと青年は笑う。復讐に囚われていたアリスであったが、彼と話している時間だけは自分が自分であると意識できる。それはとても穏やかで心地よいものだった。


 「っと、さて、休憩はこれくらいにしてー。最後の戦いに向かいますかー」


 銀兎族(プラートビット)の青年は柄と刃が同じ長さの風変わりな剣を鞘に収め、立ち上がる。


 雪女族のアリスは体と同じ丈の錫杖を背負う。


 兵器として生み出された彼女等は戦闘力及び魔力が桁外れの生物だった。千年戦争に参加している魔族は、年々数は増えるが少数であった。初めに反旗を翻した魔族の意向で、戦いたいものだけが戦い、戦わぬものを守るといった理由があるからだ。


 銀兎族(プラートビット)の青年と雪女族のアリスは二人一組で自分達の生まれ故郷とも言える、魔族を生み出した施設の破壊を終えた後だった。


 「その前にこの子達を村に預けないと」

 

 もちろん、魔族の生産は続いていた。施設を破壊する中で数体の雪妖狐族(ヴルペニクス)の子供を保護した。


 「そうだなー。とりあえずは一番近くの村に預けに行くと、っておい! 耳を引っ張るなー」


 無邪気に青年の体のあちこちを引っ張る子供。その姿は微笑ましい光景だった。


 人間族に棄てられ、苦い思いした彼女等は共に孤児院を立ち上げていた。つまり、銀兎族(プラートビット)の青年はその孤児院での父親として魔族の子供達を育てていた。


 「元気な子達でよかったわね」


 「ああー。子供は元気でなによりだがー、ちと元気すぎるなー」


 魔族の素体は、人間の胎児と魔獣である。あるいは亜人に魔獣の子を交配させるなど、それは凄惨な生物実験とも言える施設だった。


 雪妖狐族(ヴルペニクス)の子供達は恐らく人間の胎児と魔獣の核によって生み出されたのだろう。


 「この子達が最後の魔族、になるのね」


 「そうであってもらわないと、施設をぶっ潰した意味がねぇしなー、イテテテテ」


 青年は子供を三人抱え、アリスは一人を抱える。二人ずつと最初に言ったが、「慣れてるから任せろー」と前と後ろと肩の上に子供を器用に乗せる。


 アリスは施設の破壊で魔力を大量に消費し、疲労困憊だった。隠していたものの、幼馴染の彼にはお見通しだったようで、彼なりの優しさを感じていた。




 「それじゃーこの子達をよろしく頼んだー」


 人間族との争いの最前線に一番近い村に雪妖狐族(ヴルペニクス)の子供達を預け、本隊へ合流するべくすぐさま村を発った。


 村で戦況を聞いたところ、大きな変化は無く拮抗状態が続いているそうだ。複数人の勇者(ブレイブ)と名乗る一際力のある人間族を筆頭に脆弱とも言える人間族が武装し、数で魔族を抑える。


 勇者は十二人いるらしく、どの勇者(ブレイブ)特筆能力(タレント)を持った化け物揃いである。その勇者(ブレイブ)は人間族を守る為に戦い、魔族に悪というレッテルを貼り、自分勝手な正義を掲げている。


 人間族らしいといえば人間族らしい。彼ら個々人が何を想い抱いて戦っているかは知らないが、勝手に生み出して勝手に棄てたくせに随分な言いようじゃないかと、アリスは憤慨した。


 やり場のない怒りをとりあえず、隣にいる幼馴染にぶつけてみた。


 「あたしに聞いたからには答えてもらうけど、あんたは何のために戦うわけよ」


 初めに戦争に参加すると言い出したのはアリスだった。それに何も言わずに、昔から変わらずに、ただ黙ってついてきてくれた。


 「そうだなー。復讐のためっていうのは物騒だし嘘ではないけどなー。守りたいから、かねー」


 そう答えるだろうとなんとなくだが、分かっていた。銀兎族(プラートビット)の青年はずっとそうだった。大した魔術を扱える訳でもないのに、アリスや孤児院の子供達を守ってきた。時には無茶をして、死にかけたこともあったくせに懲りずに戦いに出る。


 雪女族のアリスは「あっそ」と素っ気なくその言葉だけを返した。


 彼がもし、人間族だったなら。勇者(ブレイブ)として守りたい人達を守るために戦っていたのかなと。幼馴染の青年を見る。





アリス達が前線に到着と同時にそれは降りた。



勇者に力を与え、抜山蓋世(ばつざんがいせい)の如く、力を振るう。



生き残った魔族は極小数。



そんな中、傍観するのみの神々が動き出した。



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