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ダークエルフ姉妹と召喚人間  作者: 山鳥心士
第十話 氷河の国
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お戯れ


 翠蒼の城は実に広い。案内なしではきっと迷子になってしまうだろう。そして、建物自体が芸術品とも言える程に美しい。その美しさは時間とともに変化する。日が差す時間は太陽による光で翠蒼がより一層深く輝く。日が傾き、窓から橙色の夕日が差し込む今。翠蒼は橙と交わり、深く輝く翠蒼は鮮やかに変化している。夜はどんな景色を見せてくれるのか、心に多少の余裕が出来たイルザは回廊を進みながら城の中を観賞する。


 「構わぬ、入るが良い」


 気がつけば応接間と呼ばれる部屋の前まで来ていた。城の美しさに気を取られたのかはたまた疲れが溜まっているせいなのか、緊張から解放されたおかげで気が抜けやすい。それはイルザのみならず、他の三人も同様だった。


「失礼します」


 リスティアが先に入室、それに続くようにリスティアの作法を真似て魔王が待つ部屋へ入る。


 「さぁ、どうぞおかけ下さい。この部屋は私共だけですので、普段通りにリラックスしてください」


 リラックスと言われても、形式的な、その上魔王なんてものが目の前にいるのに無理がある。


 (あれ・・・?)


 イルザは謁見の間との違いに気がついた。魔王が威圧せんとばかりに発していた魔力を感じない。その上、騎士鎧から水色と紫を基調としたドレスに着替えている。


 (こちらに対する警戒を完全に解いた・・・?)


 立ち往生していても仕方ないので着席する。イルザが先に座ることによって他三人もひとまずは着席できた。


 入ってきた扉からノック音。


 「ニルス様、リスティア様、お茶菓子をお持ち致しました」


 「うむ、持って参れ」


 カートにティーポットと焼き菓子が積まれており、メイド長は各々の前に茶を注ぎ、焼き菓子を置いていく。


 「それでは失礼致します」


 メイド長が一連の作業を終え、深くお辞儀をしたその時。


 「いや、お主は応接間の前へ待機、聴音阻害の魔術を使用せよ」


 「かしこまりました」


 再びお辞儀をして、メイド長は退室した。


 「これでお主らの会話が外に漏れることはない。存分に話を楽しもうではないか」


 「は、はぁ・・・」


 尋問の時とは打って変わって態度が変化している魔王。正直、会話を楽しむ余裕なんてものはなくどうしたものかと困惑する。


 相棒のグレンはイルザ同様余裕がなさそうだ。妹のエルザは、我が道をゆかんとばかりお茶菓子に手をつけている。スミレは完全に氷漬けになったように固まってしまっている。


 (誰も頼りにならない・・・)


 これも年長としての務めなのかと、心が泣きそうになった。


 「率直に聞こう、まどろっこしい話はなしじゃ。スミレよ、お主は千年戦争の遺跡に訪れた。間違いないな?」


 「は、ひゃい! まちがいありません、でふ!」


 緊張で完全に舌が回っていないスミレ。


 「ふふ、愛いやつじゃの。緊張せずとも良い、お主らには神界器(デュ・レザムス)について知ってもらわねばならぬことが山ほどあるのでな」


 「神界器(デュ・レザムス)の情報を頂けるのですか!?」


 まさか魔王直々に神界器(デュ・レザムス)について教えてくれるとは思わなかったイルザは思わず席を立った。


 「し、失礼しました」


 「そう慌てるでない。勿論、見返りとして対価は払ってもらうぞ?」


 ニルスは不敵な笑みを浮かべる。その隣に座るリスティアは毅然とした態度をとったままだ。


 「もし、仮に、お断りした場合。俺達はどうなるのですか?」


 おずおずとグレンが質問をする。


 「なに、客人から捕虜に格下げじゃ。二食労働付きの快適キャッスルライフじゃ」


 「ニルス様、それは捕虜でなく奴隷では?」


 「捕虜も奴隷も変わらぬわ」


 リスティアの指摘に豪快に笑い飛ばすニルス。奴隷にされるかもしれないこっちにとっては笑える話ではない。激しくイラエフの森に帰りたいと感じた。


 「お主らは断らんよ、尋問での話を聞く限り国には属しておらんのだろう? ならば、我が国の民となり我に仕えよ。神界器(デュ・レザムス)を所有する以上、常命の危険に晒されるお主らを我が騎士魔王ニルスの名を持ってお主らを保護するまでの話じゃ。悪くなかろう?」


 「つまり、私達を戦力として迎える。ということですか?」


 「要約すればその通りじゃな。肩書きは客員騎士といったところかのぅ。ただし、選択権はイルザ。そなたのみに委ねる」


 重大な選択を託されたイルザ。断れば奴隷生活、受ければこの国に使えることになる。対価の情報はどの程度のものかわからない。リスティアに捕まった時点でイルザ達は詰んでいた。いや、神界器(デュ・レザムス)を手にした時点でこうなる運命だったのかもしれないとも思えた。


 だけど、この旅を始めた目的は神界器(デュ・レザムス)について、自分が住む世界について知りたいから始めたもの。


 言葉は交わさないが、グレン、エルザ、スミレと目を合わせる。意見はみんな一致しているようだ。そして妹のエルザよ、この局面でリスのように茶菓子を口一杯に頬張らないで。


 「その話。お受けします」


 「それは、諦めの選択かのぅ?」


 「いえ、納得した上での選択です」


 意地悪なニルスの質問に迷いなく返すイルザ。


 「気に入った、これよりお主らは氷河の北国ジュデッカ客員騎士じゃ。余の為に尽力するが良い。さて、対価として情報を払わねばならぬな」


 「お戯れは満足なさいましたか?」


 「ああ満足じゃ、リスティア卿、そう余を虐めるでない」


 「虐めているのは貴方でしょうに・・・。皆さん、王はこう言っていますが半分くらいは冗談です。与えるのは肩書きだけで旅の自由は奪いませんのでご安心ください」


 なんじゃそりゃ! と叫びたくなったがぐっと堪えたイルザ。どうやらグレンも同じだったようで、椅子から転げ落ちそうになっていた。


 「魔王ジョークというやつじゃ、許せ。随分と回りくどくなったが、スミレの元主とやらに異変は起こりはせぬかったか? そう、例えば神蝕(しんしょく)とやらに」


 スミレは強張った。神界器(デュ・レザムス)に宿るとされる神による神蝕。それを起こし、暴走したスミレの元主ブラン。


 「はい、私達との戦闘の際おぞましい姿へ変貌しました。ですが、僅かに残った自我で彼は建物ごと消滅しました」


 「神蝕の末期症状じゃな。神蝕はそうそう成らぬ。そのトリガーとなったのは遺跡。常人ならば遺跡の禍々しい魔力に発狂し、自ら命を絶ってマナに還る危険な場所なのだ。それ故に、遺跡の守護者たる余ですら容易に近づくことすら儘ならぬ」


 「そんな危険な場所だなんて・・・。千年戦争の遺跡とは一体なんなのですか? 私達はあまりにも世界を知らなさすぎるのです。それなのに神界器を手にしてしまいました。教えてください、神界器と千年戦争の関係を!」


 無知な自分をひたすらに恥じる、悔やむ、蔑む。他人を頼ることでしか、知識を得ることが出来ない浅学さが苦い。


 「イルザよ、自分を責めているようだがそれは間違いだぞ? 余にも知らぬ事などこの世の砂粒ほど数え切れぬくらいある。知識は教え伝え、受け取った者は次に託す。そういうものじゃ。まずは、余の知っている千年戦争について語ろう」



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